第41話 初めての実戦
「ふん、無様だな」
……ゲイルのやつはいちいち一言余計だ。メリアが落ち込んでしまったらどうするんだ。
「お前だって最初俺に突っかかってきた時の姿はだいぶ酷かったぞ」
「き、貴様!」
「誰だって言われたくないことはあるんだから、自重しろ。メリアも落ち込む必要はまったくないからな。先に言っておくが、他のみんなも初めての実戦でうまく戦えなかったからといって落ち込む必要はない。俺が初めて魔物と戦った時はそれは酷いものだった。ビビり散らしてまともに戦えなかったぞ」
「えええっ!?」
「そ、それはさすがに信じ難いですね……」
「俺の忘れたい記憶のひとつでもある。今は多少なりとも強くなったつもりだが、それまで俺は戦闘とは程遠く平和に過ごしていたこともあって、初めてオオカミ型の魔物と戦った時には死ぬほどビビってしまったんだ」
あれはこの世界に転生してきた子供の頃のことだ。当時は魔術の才能があったことと、前世の記憶があったこともあって、同年代の子供とは比較にならないほど強かった俺だが、初めての実戦でゴブリンよりほんの少し強いオオカミ型の魔物と戦った時は死ぬほどビビってしまった。
それまでは安全なところから魔術を使っていただけなんだなと思ったよ。前世での体験を含めて、本気で殺意を向けられたことなんてなかったからな。あの魔物の鋭い牙と瞳を見たら、身体が動かなくなっていた。
「そんなわけで少し怖いだろうけれど、何度かは実戦に慣れておいた方がいい。いざという時に身体が動かなくなるからな。それと、自分たちの魔術は人に向けるとどれだけ危険なのかもよく覚えておいてくれ。普段は痛みが10分の1となった演習場に守られているが、君たちの魔術は十分に人を傷付けられることを忘れてはいけないぞ」
ガリエルのように魔術はいとも簡単に人を傷付けることができる。自分たちが扱っている魔術の危険さもしっかりと自身で認識しておくべきだ。
そしてそれとは別に魔物にはきっちりと止めを刺すことも伝えないといけない。確かに命を奪うと言う行為にはどうしても躊躇してしまうかもしれないが、この世界ではそういった躊躇が自らの命取りになる場合もあるし、見逃した魔物が他の人を襲ったり、田畑を荒らして他人に危害を与えてしまう。
それを防ぐためにもゴブリンなんかの魔物は最期まで止めを刺すことが大事だ。他にも疫病なんかを防ぐために死骸は土の魔術で地中深くに埋めるなど、学園の中では教えられないことなんかも多い。
「さて、それでは次へ行こう」
そしてそのまま別の生徒にも魔物と戦ってもらい、1人1~2回ずつ魔物と戦闘を終えたところで時間となった。
ゲイルはまだ物足りないと言っていたが、これだけの人数がいるため、これ以上は難しい。
むしろこれでも捜索の魔術を使用していたため、だいぶ早く魔物を発見することができた。演習場での戦闘とは違う経験なので、月に一度くらいは魔物との戦闘経験を積んでもらうとしよう。
慣れてきたら、もう少し強い魔物が出現する場所へ行ったり、クラス内でパーティを組んでもらって魔物の捜索から始めてもいいかもしれない。
「すっごく怖かったです……」
「そうね。やっぱり演習場で魔術の訓練をするのとは全然異なりました……」
「僕は久しぶりの魔物との実戦でしたけれど、前よりもすごく身体を動かせました!」
「ふむ、全員魔物を倒せたようだし問題なかったぞ。魔物との実戦経験は他の演習では代えがたいものだからな」
無事に今日のBクラスとCクラスの授業を終えて、放課後の勉強会。
結局全員に一度は魔物と戦ってもらい、学園に帰ってきた。
「皆様とても羨ましいです。残念ながら私は許可が下りませんでした。ギーク教諭が引率してくれるので、何があっても問題ないと伝えたのですが……」
「私もとても残念です……」
Sクラスの学園外での実戦授業は明日になるのだが、エリーザは家の許可が下りずに不参加となった。
まあ、先日あんな事件があったわけだし、そう簡単に外での授業の許可が下りないのは当然だ。護衛のソフィアもエリーザに付き合って不参加らしい。
もちろんエリーザだけでなく、参加を希望しない生徒も自習となる。これまでの実戦演習よりも遥かに危険があるわけだからな。今日のBクラスとCクラスの授業でも親の許可が下りなかったり、魔物との実戦は必要ないと数人が自習をしていた。
「エリーザとソフィアに実戦訓練は必要ない気もするが、許可が取れたら参加するといい。その代わりちょうど明後日の放課後に演習場を借りることができた。他の生徒にも声は掛けるが、気が向いたら参加してくれ」
「はい、外での演習に参加できなかった分、そちらには必ず参加させていただきます!」
「私もよろしくお願いします」
そういえば放課後の実戦演習は全クラス合同となるわけか。特にSクラスは今まで他のクラスと接点がほとんどなかったから、他のクラスと合同になることで面倒ごとが起きなければいいのだがな……
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