第39話 劣化版魔術封じの輪
「……ギーク教諭、こちらはもしかして?」
「こいつを付けた者は魔術が使えなくなるという魔道具だ。以前に2人から相談を受けていた物を作ってきた。第三王女であるエリーザやソフィアは悪い輩に狙われる可能性もあるようだし、自衛の為にこういった魔道具を外せるようにしておいた方がいいだろう」
相談を受けていたというのは作り話だが、先日実際にこれを使われたわけだしな。自衛のことも考えて、今度は自力で外せるように練習用の劣化版魔術封じの輪を作ってきた。
こいつは以前の物よりも簡単に外せるようになっているから、これが外せるようになったら、もう少し難しい物を渡すつもりだ。最終的には先日の魔術封じの輪を簡単に外せるくらいになれば十分だな。
さすがに俺が本気で作った物は外させるつもりはないが。
「……私たちのためにギーク教諭がわざわざ作ってくれたのですね。本当にありがとうございます!」
「ギーク先生、感謝します!」
とりあえず俺の意図は2人に伝わってくれたようだ。決してそういったプレイをするための手枷ではないぞ!
「エリーザさんとソフィアさんにだけ特別ですか……怪しいですね、マイナス5ポイントです」
「ちゃんとみんなのためにもうひとつ作ってあるぞ。これは自衛の為でもあるが、魔道具を作る時やこういった拘束の魔術を外す訓練にもなる。ただ悪用もできてしまうし、定期的に魔力を込めないと使えないから、試すのはこの研究室でだけにしてもらうがな」
もちろん2人だけを贔屓するすもりはない。これまでもシリルやメリアやベルンには平等に接してきたつもりだ。3人に何か必要な魔道具があれば作ってくるつもりだぞ。
この魔道具を外すことは魔道具作りや騎士の訓練にもなる。それにこういった物は遊びながら学べるパズルのように良い息抜きにもなるからな。
ちなみにこのシリルの謎ポイントにそろそろ誰かツッコんでほしいんだが……
「へえ~そんな魔道具があるんですね。僕は初めて見ました」
「どうやら他の場所でも研究されている最新の技術らしいから、他の者には秘密で頼む」
このバウンス国立魔術学園のプロジェクトらしいし。
「もちろんです。ギーク教諭、さっそく試してみてもよろしいでしょうか?」
「ああ、もちろんだ。両腕を輪に通すと効果が発動する。もうひとつはシリルも試してみてくれ」
「わかりました」
ひとつをエリーザに渡して、もうひとつをシリルに渡した。
ソフィアは早く試したそうに見ていたが、ここは順番にだ。
「……本当に魔術が発動できなくなりましたね。これはすごい発明なのではないですか?」
「そうかもな。囚人を拘束するには優れているが、悪用もできてしまうから難しいところだ」
現に犯罪者たちに悪用されてしまったわけだからな。優れた技術というものは、人の使い方次第でどうとでも変わってしまうのが悲しいところである。
「魔術が使えなくなる仕組みはその輪を付けた者やその者を対象とする魔術の構成を阻害するというだけだ。つまり、その阻害に邪魔されないように正しく魔術を構成することができれば、輪を付けたままでも、外部からでもその枷を魔術によって外すことができる。まあ、コツはいるがまずは自力で試してみるといい。これが外せたら、もう少し難しい物も用意している」
簡単にいうと少し難易度の上がった知恵の輪みたいなものだな。
「……これは難しいですね。冷静に探ってみると、確かに魔術の構成が阻害されていることがわかります」
「エリーザさんはすごいですね……私にはその感覚がまだ分からないです」
エリーザは2回目ということもあるだろう。もしかすると、すでに自分の中で魔術封じの輪の対策なんかを考えていたのかもしれない。
「数日して外せないようならヒントを与えるから、焦らずに試してみてくれ。他に使いたい者もいるだろうから、15分くらいで交代制にしよう。あくまでも息抜き程度に使ってくれ」
さすがに魔術封じの輪が使われる機会などそうはないだろうが、魔術の勉強の息抜きにでも使ってもらうとしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ふむ、今日は実にいい天気だ」
上には雲ひとつない青空が広がっている。教室内で魔術の勉強をするのもよいが、たまにはこうして外で実習をするのもよいものだ。
この2日間の休日は久しぶりにのんびりと研究に没頭することができた。教師としての仕事も大事だが、俺自身の息抜きも大事である。
「さて、これから学園外での実戦演習を始める」
街の近くにある森へと生徒を連れてやってきた。今日からいよいよ学園外での防衛魔術による実戦演習となる。
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