第38話 学園外の実戦


 基本魔術と防衛魔術の2つの授業を受け持ちつつ、今週の授業が終わって今は放課後の勉強会である。


「僕は村で魔物を狩ったことがあるので、緊張はしていないかな。この学園に来て多少は成長したと思うから、すごく楽しみです!」


「私は護衛の訓練で魔物を相手にするのには慣れているので問題ない」


 ベルンは村出身の特待生ということもあって、魔物との戦闘経験はあるようだ。この世界にはゴブリンなどといった畑を荒らす害獣が多く存在する。ゴブリンは人との繁殖能力はないが、すぐに増えるし。イノシシなんかの害獣のように食べられないから邪魔でしょうがない。


 ソフィアの方も護衛というだけあって、魔物との戦闘経験は豊富なようだ。


「私もすでに実戦は経験しておりますので、楽しみの方が勝りますね。それにギーク教諭がついてきてくださるのなら、安心していられますから」


「「「………………」」」


 エリーザの方はつい先日誘拐犯に襲撃されたばかりだ。相手は魔物ではないが、俺と襲撃者の戦闘を間近で見ていたことだし、弱い魔物程度は相手にならないだろう。


 ……それにしても、エリーザの俺への信頼の高さはなんとかならないのだろうか? 毎回シリルがジト目で見てくるんだが。


 他のみんなにも授業で大規模な魔術を見せたのだが、シリルはまだ納得がいっていないようだ。エリーザは俺のことをギル大賢者の弟子だと思っているようだし、その辺りは説明できないんだよ。


 まあこの1週間、毎日放課後集まって勉強会をしながら雑談をしていたこともあって、多少はみんなエリーザと普通に話せるようになってきたのは良いことだな。


「いくら俺がいるからといって油断はするなよ。どんなに弱い魔物だって、不意打ちを受けたり急所をやられたら人なんて脆いものだからな。即死してしまえば回復魔術も使えない」


「そうですね、失礼しました。もちろん油断をする気はありませんわ」


「私も今度こそ姫様を守れるよう気を引き締めます!」


 ソフィアの方も前回の汚名を返上すべく張り切っているようだが、張り切り過ぎるのもミスのもとになるからな。


「そ、そういえば、実戦は学園の外に出掛けるんですよね?」


「ああ、そうだな。さすがに学園の中に魔物を連れてくるわけにはいかない。2時限分を使って街の外の森へ移動するつもりだ」


 実戦の場所は街の外にある近くの森の中で行う予定だ。そこならそれほど強い魔物は出現せず、街からもそこまで遠くない。


 とはいえ、1時限では移動の時間がもったいないので、防衛魔術の授業を2時限分使うつもりだ。基本魔術も俺が担当していることだし、授業の調整は多少融通が利くので助かる。


「それに合わせて来週から週に1度、放課後に演習場を借りられることになった。その日はこの勉強会もそっちに切り替わるからな」


 以前にベルンとソフィアから要望のあった実戦訓練だが、週に一度の数時間だけ借りることができるようになった。学園外の演習も始まることだし、怪我をする心配のない戦闘の訓練ができる演習場は多少需要があるだろう。


 この魔術学園に通う生徒の一部はそういった戦闘が必要になるからな。


「はい。僕はそちらにも参加させていただきます」


「私もできる限り参加させてもらう」


 ベルンは騎士志望で、ソフィアはエリーザの護衛をしているから、自分の腕を磨きたいのだろう。


「私は少し迷うところですね……」


「う~ん、私もどうしようかなあ……」


「私の場合はもしかするとお父様が許してくれないかもしれません。参加はしたいですが、ギーク教諭に迷惑を掛けてしまいそうですし……」


 シリルは魔道具を学んでいて魔術による戦闘の術は必要なさそうだ。メリアは将来なんの職に就きたいか、まだ決まっていないようで迷っている。エリーザは第三王女だし、他にも習い事なんかもあるようだからな。


 それに危険はないとはいえ、戦闘の術をエリーザに教えるなと国の方から俺に何か言ってくるかもしれない。


「俺への迷惑は考えなくていい。本気で学びたいと言うのなら歓迎するぞ。まあ、その辺りは個人の自由だし、学園外での演習を受けて、新しく参加を希望する生徒もいるかもな」


 ……もしかするとゲイルのやつは参加するかもしれない。相変わらず実戦演習の授業ではすぐに課題を終わらせて俺へ挑んでくるからな。あの口の悪さや性格は置いておいて、あいつの根性だけは認めている。


「そうだ、エリーザとソフィアに渡すものがあったんだ」


 すっかり忘れていたが、ここ数日で作ったこいつを2人に渡すつもりだったんだ。


「ええ~と、これはさすがに……」


「ギ、ギーク先生……?」


「……女生徒に手枷を渡すとはセクハラの現行犯ですね、通報しましょう」


「ちょっと待て、そういう目的の物じゃない! ほら、別に鍵なんてなくてすぐに外せるぞ!」


 しまった。


 確かに事情を知らない3人にとっては手枷を女生徒へ渡す危ない教師に見えてしまった。


 違うんだ、こいつは以前の魔術封じの輪を模して俺が作った魔道具である。

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