第50話 口の利き方


「ふん、平民の臨時教師如きが馬脚を現したな!」


「口の利き方もなっておりませんね。やはり平民が教師として教えている時点で問題があるようです。どうやらあなたとこれ以上話すことはないようです」


「………………」


 口の利き方にかんしてはそっくりそのまま返したい。なぜ貴族は自分のことを棚に上げて、平民に対する自分の口調は気にしないのだろう?


 そもそも平民であろうが、貴族であろうが、そんなことはその者の能力や性格になんの影響もない。確かに貴族の方が魔術や知識を学ぶ環境は整っているとはいえ、それ以外は誰も変わらないからな。


「学園に対しても相応の責任を取ってもらうからそのつもりでいることだ!」


 そう言い残してマルキウス伯爵は席を立ち、夫人と一緒に学園長室を退出した。執事は先ほど俺が机の上に置いた再生媒体を回収し、護衛と共に出ていった。


 ちなみにあの再生媒体だけでは監視カメラを作ることはできないだろうし、仮に似たようなものが作れたとしても、すでに特許登録は済ませているのでそれを量産して販売なんてことはできない。


「……未だにあそこまで貴族至上主義の者がいるとは驚きじゃな」


「娘の貞操も大事にしていたようだし、本当に古い考え方の家なようだ。それに後半は乱暴されたことが真実かどうかよりも、平民である俺に対しての敵対心しかなかったぞ」


 アノンの言う通り、あそこまで古い貴族というのも珍しい。確かに昔は結婚するまで女性は純潔を守るという考え方が多かったが、最近ではそういった者も少なくなってきたんだがな。


「あとは向こうの出方を見てみるとするか。騎士団に訴えられたり、正式に学園に訴えたりしてきたら、こちらも相応の対応を取るとしよう。一応訴えられた時のためにこちらでも準備しておく」


「うむ、わかったのじゃ。こちらも学園側に何か言ってくるようじゃったら、対処するのじゃ」


「すまんが頼む」


 まったく、余計な時間と手間を取らせてくれるものだ。他の生徒たちに影響が出なかったのは不幸中の幸いだな。


 これ以上何かしてくるようだったら、こちらとしても相応の対応をさせてもらうとしよう。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 結局あれから特にセラフィーナ伯爵家や騎士団からの訴えはなく、4日が過ぎた。イザベラはその間も学園を休み続けている。同じSクラスの生徒にはエリーザも含めて体調を崩していると伝えてある。


 幸い俺の方も悪い噂なんかも立たずにこれまでと同じように臨時教師として働いていた。向こうも下手をしたら自分たちの娘の不名誉が広まるということもあって、慎重に動いているようだ。


 そういえばイザベラが自主退学をするまでの期限を決めるのを忘れていたな。遅くともあと2~3週間何もなければ、アノンに頼み学園側から退学処分を言い渡してもらうとしよう。


「それにしても、先日のギーク教諭のお姿はぜひ私も見たかったですね」


「少なくとも今のギーク先生の姿とはだいぶ雰囲気が異なりましたね。もう無精ひげも伸びてきていますし」


「と、とっても格好よかったです!」


 そしていつもの放課後の勉強会。エリーザ、シリル、メリアの3人でそんなことを話している。


 セラフィーナ伯爵家の両親が学園に来たあとはすぐにいつもの白衣に着替えた。ちゃんとした正装はBクラスの基礎魔術の授業の時にしただけだったこともあって、シリルとメリアが他のみんなにも話したようだ。


「さすがに普段の授業もあんなに堅苦しい服を着ていられないからな。授業の方はちゃんとやっているから勘弁してくれ」


 毎日髪と髭を整えてあの服を着て授業をするなんて考えただけでも面倒だ。身だしなみを整えている暇があるのなら、その時間を魔術の研究にあてた方がマシである。


「僕は今のギーク先生の白衣姿も格好いいと思います。他の人の服とは違っていますし、無駄な装飾もなくて真っ白なのもいいですよね」


「ほう、ベルンはよく分かっているな。よし、今度ベルンにあうサイズの白衣をプレゼントしよう」


 やはり同じ男であるベルンには白衣の素晴らしさが分かっているようだ。白衣こそ研究者の知的で洗練された戦闘服なのである。


「ギーク教諭、ぜひ私もお願いしたいです!」


「ああ、いいだろう。他にも希望者がいれば持ってくるとしよう」


「ひ、姫様! さすがにそれは止めておいた方がよろしいかと……」


「……私も結構です」


 ふむ、第三王女であるエリーザが白衣を着てくれれば、白衣ブームが起こる可能性も十分にあるな。


 しかし、ソフィアもシリルもまだ白衣の素晴らしさはわかっていないのは残念だ。


 さて、明日からの2日間の休みには少しやることがある。ここ数日間に学園の外に買い物へ出ていた時に跡を付けられてだいぶ鬱陶しかった。十中八九、あいつらの手の者だろうから、排除するとしよう。




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