第49話 貴族の権威
「処分だと! 何をふざけたことを言っている!」
「……なぜ娘が処罰を受けるのか、理由をおうかがいしても?」
両親ともどもおかしなことを言っているな。ふざけているのはどっちだ?
「逆になぜこれだけのことをしでかしておいて、何も処罰がないと思っているのですか? もしもイザベラさんの主張が認められた場合、私はこの学園にいられなくなるだけでなく、犯罪者としての汚名をかぶることとなります。爵位を持たない私がそんなことをしでかしたとなれば、先ほどマルキウス伯爵が仰っていたように処刑の可能性もあったのですよ」
残念ながらこの国の法律はとてもではないが元の世界ほど整っておらず、犯罪を犯した人が平民か貴族かで罪が変わってくるのも事実だ。
まあ、重大な性犯罪者は処刑でもいいということについてだけは賛成だがな。
さすがに俺は大賢者の称号を国からもらっているから処刑まではないかもしれないが、間違いなくこの学園を去ることになっていた。俺にそこまでの罪を着せようとしていたイザベラを処罰なしで許すわけがない。
「ふん、平民の臨時教師ごときがなにを偉そうに!」
「ただの平民が伯爵家長女である娘を処罰なんてできるとお思いですか?」
「………………」
この話し合いをしている時の態度からみて、おそらくこの2人は俺が侯爵家のガリエルを退学処分にしたことを知らないのだろう。この高圧的な態度は俺を平民と見て侮っているに違いない。
ガリエルが退学したことを学園内の生徒は知っているかもしれないが、国外追放までさせられた件については第三王女のエリーザたちくらいにしかバレてはいなかった。
事情を知らなければ、ガリエルが退学処分を受けて、マルセーノ侯爵家から勘当された末に追放されたようにしか見えないもんな。
「そちらがどう思おうと構いませんが、こちらの言い分が認められた際にはイザベラさんを退学処分とさせていただきます。……いえ、もしも自主退学するようでしたら、そちらは認めましょう」
退学処分と自主退学では世間体がまったく異なるからな。これは俺からの最後の温情でもある。
停学処分を挟まずに退学処分とすることを厳しいと思う者もいるかもしれないが、イザベラは悪意を持って俺を社会的に殺しに来たわけだから、こちらもそれ相応の処罰はさせてもらう。
そして何より、イザベラのやつはメリアのいじめに多少なりとも加担していた。その際は俺がガリエルの取り巻きから記憶を読み取り証拠能力がなかったため処罰できなかったわけだが、これだけのことをしでかしたわけだし、あわせて退学処分にした。
個人的ないじめについての考えだが、いじめを黙認していた者や脅されて加担した者は自分が次のいじめのターゲットになってしまったり、大きな不利益を被る可能性がある以上仕方のないことだと思っている。この世界では身分もあることだし、なおさらだ。
だが、イザベラのように自分からいじめに加担していたやつは主導でいじめていたやつほどまではいかないが処罰が必要だと思っている。
「話になりませんね。まさか、学園側もそのような処分を認めるおつもりですか?」
「……そちらについてはギーク先生に一任しております。私個人としても、今回の件は非常に悪質であるため、少なくとも停学以上の処分が妥当かと」
「上等だ、平民ごときが我がセラフィーナ伯爵家と本気でやりあおうというわけだな!」
「平民も貴族も関係ない。卑劣な行為を行った者には相応の処罰を与えます。たとえそれが子供でも……いや、子供だからこそ、間違えたことをしたらちゃんと叱ってあげて、親として正しい道へと導いてあげてください」
「平民風情が非常に不愉快ですね。これ以上はお話をしても無駄のようです。たとえ今回の件が娘の嘘であったとしても、そちらこそ相応の処罰を考えておいてください」
説得は駄目だったか。未だにここまで貴族至上主義の家も珍しい。
自分の娘が大切だということはわかるのだが、それで身分の差や権力を振りかざされてはたまったものではない。
「……最後の忠告だ。娘とちゃんと話し合え。そして大人しく処罰を受け入れれば、これ以上こちらからは何もしない」
今回は他の生徒の邪魔をしたというわけではないから、この処分以上のことを俺は言及しない。自主退学するだけなら、経歴に多少の傷は残るかもしれないが、これからの人生をいくらでもやり直すことができる。
そしてセラフィーナ伯爵家とやらに特に思うところもない。ここで大人しく引き下がるようであれば、こちらは何もする気はない。
ただし、これ以上俺に関わって俺の周囲の者に迷惑を掛けるか俺の時間を奪うと言うのならば、こちらもガリエルの時と同じで徹底的に処罰をせざるをえない。
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