第48話 互いの主張
「そもそもカメラというものは暗所に光を取り込み、その光を感光材という光に反応する素材へその光の像を焼き付けるという仕組みになっています。そしてその静止画を保存媒体に記録し、それを連続で流すことによって動画となり、まるで本当に動いているように人の目に映すことが――」
「ギ、ギーク先生、細かい説明は不要なのじゃ!」
「……おっと、そうでした。これは実際に見てもらった方が早いですね」
アノンに言われて説明を止める。いかんな、つい詳しい説明を長々と続けてしまうところだった。やはり自分で作った魔道具なんかは語りたくなってしまうものなのである。
俺もピンホールカメラの仕組みくらいなら知っている。この魔道具はその仕組みと魔術を組み合わせてできた魔道具である。
この魔道具の詳しい説明をしていたら、だいぶ時間がかかってしまうからな。ちなみにこの魔道具についてアノンは知っているが、商品として販売はしていない。
素材の関係もあって、この魔道具を作り上げるためには結構な値段になってしまうし、カメラの仕組みを広げるのは結構まずいんだよな。先日の魔術封じの輪のように犯罪に使われる可能性もあるし、軍事的にも使えてしまう。元の世界にあるものを再現する時にはいろいろと考えることも多いのである。
『ギーク先生、私と付き合ってください!』
「こ、これはイザベラ!」
「確かに声はイザベラです」
俺が魔道具を操作して再生すると、箱型の魔導具から映像と音声が流れる。この魔道具は記憶した媒体から映像と音声を再生するだけで、カメラとマイクの方は別だ。わかりやすく言うと、元の世界のVHSやDVDみたいなものである。……今の若者はどちらも知らないかもしれないけれど。
ちなみに音声の方は音を蓄えるという特性を持つ魔物の素材があったので、映像を記録する方法に比べたら非常に簡単であった。さすがは異世界である。
「私に乱暴されたという証拠のボタンは私が着ていた白衣という上着のボタンですが、こちらの映像でも確認できますように、イザベラさんが上着を脱いで私に抱き着いてきた時にさりげなく私のボタンをちぎり取っています」
映像を一時停止して巻き戻し、該当箇所を拡大してイザベラの両親に見せる。確かに俺が普段着ている白衣はほとんど着ている人がいないから、そのボタンは十分に証拠となった可能性も高い。
ボタンを盗ったことを気付かせないために上着を脱いで抱き着いてきたのだろう。もしも俺が本当に手を出そうとすれば大声で人を呼ぶつもりだったのかもしれない。
「これを見ていただければわかるように私からは手を出してはおりません」
「ふん、こんなものは偽物の証拠に決まっているだろうが! いくらでも偽造が可能だ!」
「それにここであなたが娘に手を出さなかったとしても、そのあと娘に乱暴するか、今の映像で娘を脅して乱暴をすることができます!」
さすがにそれはいろいろと無理がある気もするけれどな……
「このあとも私は研究室にいましたし、そもそも私は以前からイザベラさんには嫌われていたようでして、何度かセラフィーナ家から苦情書をいただいておりました。それなのに娘さんが私に告白すること自体おかしいとは思いませんか?」
「「………………」」
さすがに今のは説得力があったようで、両親が黙る。先ほどまでは頭に血が上っていたせいで気付けなかったのかもしれないが、冷静に考えればそういうことだ。
最初は苦情書を出していた相手の教師が報復のため娘に乱暴をしたとでも思っていたのかもしれない。
「……こちらの証拠は本物なのか確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ。」
もちろんこの証拠の映像は複製して保管してある。再生側の魔導具からなら、まだ公開していない技術である録画用の魔導具の作り方まではわからないだろうし問題ない。
「娘の純潔は奪われておりました。それについてはどう説明されるおつもりで?」
「……それにつきましては私にはわかりかねます。自身を傷付けてまで私を陥れたかったのかもしれませんし、イザベラさんは男子生徒と付き合っていたようなので、その生徒とそういったお付き合いをしていたのかもしれません」
「ば、馬鹿な! 娘が他の者と交際していたなど聞いていないぞ!」
ロッフと付き合っていたようだし、おそらくは後者だろうな。この世界の貴族には婚姻時の貞操を気にする者もまだ多少はいる。あいつめ、その件まで俺のせいにしようとしたのか。
「イザベラさん本人と話すことはできませんか?」
「まだ貴様の容疑は晴れていない! もしも貴様が娘を乱暴していたら、必ず殺してやるからな!」
「娘はまだ部屋から出たくないと申しています」
「そうですか……」
イザベラ本人にこの証拠を見せたら一発で白状すると思うんだがな。
「学園側の主張はわかりました。こちらの魔導具の確認と、詳しい話をもう一度娘から聞いてみます」
「……ちっ、仕方がない」
「ご理解いただけて何よりです」
どうやらこちらの言い分を多少なりとも聞いてくれるようだ。アノンのやつも横でほっとした顔をしている。
「さて、それではこちらの言い分が認められた場合のイザベラさんの
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