第47話 両親の来訪
「……マルキウス=セラフィーナだ」
「リリスカ=セラフィーナです」
学園長室でアノンと一緒にイザベラの両親を出迎える。
イザベラの父親のマルキウス伯爵はでっぷりと太ったいかにも貴族という風貌で、ものすごい形相で俺を睨んでいる。嘘ではあるのだが、もしも娘が教師に乱暴されたなどと聞けば、怒りを通り越して殺してやりたいと思っても当然のことだろう。
伯爵だけでなく、伯爵夫人も同行しており、他にも二人が同行している。本来この学園には生徒の護衛などは入れないのだが、今回は保護者と事が事だけに一名の護衛と執事の同行が許された。さすがに伯爵家の護衛だけあって、見た感じではそこそこの腕がありそうである。
そして今回の騒動を引き起こしているイザベラ本人の姿はない。
「バウンス国立魔術学園の学園長をしておりますアノンと申します」
隣で頭を下げるアノン。マルキウス伯爵と伯爵夫人は小さな少女姿のアノンを見ても特に驚いていないところを見ると、入園式かどこかでアノンが学園長であることを見て知っているようだな。
アノンもさすがにこういった場ではきちんとした言葉遣いをしているらしい。
「こちらの学園で臨時教師として勤めておりますギークと申します」
俺もアノンと同様に頭を下げた。
「き、貴様が娘の純潔を!!」
「だ、旦那様、落ち着いてください!」
「どうかまずはお話を!」
マルキウス伯爵が顔を真っ赤にして俺につかみかかろうと距離を詰めようとすると、執事と護衛の者が二人がかりでそれを止める。当然のことであるが、だいぶ気が立っているようだ。
「マルキウス伯爵、この件につきましては誤解なのです。詳しい説明をさせていただ――」
「誤解だと!? 貴様は娘が乱暴されているのを誤解と言ったのか!!」
「だ、旦那様!」
アノンの言葉を遮って、怒鳴り声が学園長室に響く。
「……申し訳ございません。ですがどうか詳しい説明をさせていただきたく存じます。まずはお席にお着き下さい」
しばらくはだいぶ興奮していた様子だったが、伯爵夫人も一緒にマルキウス伯爵をなだめてくれたおかげで、とりあえずアノンの言う通り席には着いてくれた。
ここから落ち着いてこちらの話を聞いてくれるかは怪しいところである……
「娘はそこにいる男性教師から乱暴を受け、ふさぎ込んでいます。当然ですが、そこの犯罪者に正式な処罰が下るまでは学園に出たくないと仰っております。学園側はいったいこの責任をどのように取っていただけるのですか?」
「処刑に決まっている! 今すぐそこの男をぶち殺してやる!!」
伯爵夫人は淡々と話しつつも、内側に激しい怒りを感じる。そしてマルキウス伯爵は激情して机を激しく叩いている。
俺も前世で教師でありながら生徒を暴行したなんてニュースを見ると、全員死刑でいいと思っているからその気持ちはほんの少しだけわかる。実際に被害に遭った生徒や両親にとっては俺とは比べられないほどの怒りを抱いているだろう。とはいえ、今回は冤罪だがな。
「今回の件につきまして、私はイザベラさんに手を出していないと断言させていただきます。研究室で彼女に抱き着かれて告白されましたが、はっきりとお断りさせていただきました」
「き、貴様! 言うに事欠いて、娘が貴様のような平民に告白しただと!! そんな言い訳が通じると思っているのか!」
「……学園側はそこの犯罪者のそんな苦し紛れの言い訳を信じているというのですか。そもそも娘は以前よりそこの男のことをよく思っておりませんでした。何度も学園に苦情書を提出させていただきましたが、まったく受理していただけなかったようですね。今回の件はその報復ですか? それとも学園側全体で娘とセラフィーナ伯爵家を貶めようとしているのですか?」
さすがにこの状況でこちらの話だけでは信じてもらえないようだ。伯爵夫人の方はギリギリ理性的だが、伯爵家のことを持ち出しているし、内心では相当ブチ切れているな。
さっさと証拠を見てもらった方が早い。
「こちらがその証拠となります。まずはこちらをご覧ください」
「……これは?」
「こちらは
そう、以前に他の教師の授業を見たいとアノンへ相談して断られたが、俺の研究室にだけは設置していた。
さすがに今回の件が起こることを予想していたわけではなく、別の者からも多少の恨みを買っている自覚はあるから、俺がいない間に研究室を荒そうとする輩がいると思って設置したものである。
勉強会に参加している生徒たちにはすでに話して許可をもらっている。これを見ればイザベラが研究室に来た時は俺が手を出していないことがわかり、それ以外の時間は俺が研究室にいることの証明ができる。
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