第24話 魔術封じの輪【エリーザSide】


「ギーク教諭……まさか、あなたが襲撃者の仲間だったのですか!?」


「なに! 貴様はやつらの仲間だったのか!」


 牢に閉じ込められている間に脱出方法を探したり、誰が今回の襲撃を行ったのかを考えていた。


 襲撃者の心当たりはなかったけれど、この魔術封じの輪はバウンス学園で研究されている。


 他にも学園から屋敷までの帰宅ルートで襲撃され、なにより公ではほとんど見せていない私とソフィアがただの従者ではない関係を知っていたことを考えると、学園に協力者のいることが推察できた。


「……いきなり失礼なことを言うんだな、エリーザ。こっちはせっかくの花金を捨てて、誘拐されたという君たちを探しに来たつもりだったんだが」


「す、すみません、失言でした! どうやら今回の襲撃には学園の者が協力している節がありましたので……」


 花金という言葉は分からないけれど、よく考えてみたら彼は学園へたった2週間前に来た臨時教師で、重要機密である魔封じの輪を知っているわけがない。


 それに今も普段の授業と同じで白衣を着た場違いな格好をしている。


 なによりも彼は侯爵家長男を退学処分にした。もしも彼が襲撃者の仲間であるなら、今回の件の前にそんな目立つことはしないはず。


「……ふむ、それは由々しき問題だな。まあいい、その件については後ほど処理するとしよう」


 パチンッ


「えっ!?」


 ギーク教諭が指を鳴らすと牢屋の扉が開いた。もちろん無詠唱の魔術を使用したのだろうけれど、こういった牢屋の鍵は魔術に対する高い耐性が特にあるはずなのに、それをいとも簡単に……


 それに臨時教師の彼がどうやってここまで来たの? この部屋の前には見張りがいたはずだし、他にも先ほどの襲撃者たちが大勢いたはずなのに。


「ソフィアの方は怪我をしているようだな」


 パチンッ


「……むっ、回復魔術が発動しない」


「ギーク教諭、私たちの手と足には魔術封じの輪という魔術の発動を制限する魔道具の枷がかけられているので、そのせいだと思います。どこかに鍵はないですか?」


 魔術封じの輪は使用者の魔術を封じるだけでなく、それを付けた者やこの魔術封じの輪を対象とする魔術も発動しなくなる。


「見たところ鍵はなさそうだ。上にいたやつらのうちの誰かが持っているのだろう。ふむ、少しそいつを見せてもらうぞ」


 そう言いながら彼は私の後ろの手にかけられた魔術封じの輪を確認している。


「一緒に来ている人はいないのですかか? それとも、すでに襲撃者たちは全員取り押さえられているのでしょうか?」


「ここへ来たのは俺ひとりだ。見張りの2人だけ大人しくさせたが、この場所にはまだ10人以上の手練れがいたな。一応この場所に2人がいることは潜入する前に学園長へ伝えたが、ここは街からかなり離れた場所だ。増援が来るまで多少の時間はかかると思うぞ」


「……そうですか」


 ギーク教諭が助けに来てくれたのはありがたいけれど、状況はあまり良くない。


 どうやって彼が襲撃者たちの監視をかいくぐってここまで来られたのかはわからないけれど、両手と両足を拘束された私とソフィアを連れてここから脱出できるわけがない。


「ギーク教諭、後ほど謝礼はいくらでもお支払いいたします。どうにかソフィアを連れてここから脱出できないでしょうか?」


「なっ、何を言っているのですか! 逃げるのなら先に姫様からです!」


「私がここに残っても殺されることはないけれど、ソフィアがここに残ったら間違いなく殺されてしまうわ。ギーク教諭、一刻も早く彼女と一緒に逃げてください」


 こんな状況になったら襲撃者たちも私を殺す可能性は高いかもしれないけれど、それでもソフィアがここに残るより、私が残った方が生かされる可能性は高いはず。


「ギーク先生、先日の非礼は詫びる! 私にできることなら何でもする! だから、どうか姫様を助けてください!」


「ソフィアだけでもお願いします!」


 私は大切な幼馴染を巻き込んでしまった。せめて彼女だけでも……


「仲が良いことは実に結構。だが、勝手に俺が一人しか助けられないと思われるのは心外だな。よし、これでいけるだろう」


 パチンッ


「「えっ!?」」


 ギーク教諭が指を鳴らすと私とソフィアの両腕と両足につけられていた魔術封じの輪がガチャリという音とともに外れた。


 自由になった両手と外れた魔術封じの輪を見ると、確かに錠が外れている。


「い、いったいどうやって……?」


「これに近い構造の魔導具はすでに作ったことがあるからな。ただ、こういった風に使われる可能性があるから、公表はしなかったんだよ。それにしてもこいつはまだまだ作りが甘い。俺なら絶対に外されないよう、もっと改良を……いや、今のは忘れてくれ」


「「………………」」


 ギーク教諭が何を言っているのか分からない。多少落ちぶれたとはいえ、この国の最高峰であるバウンス国立魔術学園で最先端の技術で研究している魔術封じの輪を彼はすでに完成させ、しかもそちらの方が優れているように言う。


 でも、そうでも考えないと、今初めて見たはずの魔術封じの輪をこんな短時間で解析して外すことなんて……


 パチンッ


「い、痛みが消えた!?」


「無詠唱の回復魔術まで……」


 無詠唱で、しかもこれほど早く無駄のない回復魔術を構成するのは専門の回復魔術師でも難しいはずなのに……

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