第23話 襲撃【エリーザSide】
「……うう」
ここはどこ? 鉄格子があるから牢屋……?
目を開けるとそこには見知らぬ場所がある。どうやら私は横になっているみたい。
そうだ、確か学園から屋敷へ馬車で帰る際、襲撃者に襲われて……
「……っ!? ソフィア! ソフィアは無事!?」
「姫様! ご無事で何よりです!」
「ソフィア……無事でよかった」
後ろから声が聞こえたからすぐに振り向こうとしたけれど、両手と両足が後ろで縛られているわ。……いえ、この感触は金属だから手かせと足かせね。
「ソフィア! あなた怪我を!?」
なんとか身体をよじって後ろの方へ振り向くと、そこにはソフィアも同じように手かせと足かせをつけられていた。
そしてソフィアの口からは赤い血が流れている。
「待っていて! すぐに回復の魔術を……えっ!? 魔術が使えないわ!」
「大した怪我ではありませんので大丈夫です。ですが、やはり姫様も魔術が使えないのですね。おそらく、この手かせが原因かと……」
確かにソフィアの言う通り、私が魔術を構成しようとすると両手から魔力が抜けていく感覚があるわ。
これはまさか……魔術封じの輪!?
魔術封じの輪――その名の通り、これを付けられた魔術師は魔術を使用することができなくなる。現在バウンス国立魔術学園の研究機関で開発している最新の技術のはずなのに、どうして襲撃者たちがこれを持っているの?
「くっ、私がいながら姫様をみすみす攫わせてしまうとは……」
「気にしないでいいわ。他の護衛のみんなは無事かしら」
「わかりません。皆私よりも強いのですが、それでも不覚を取ったとは敵はかなりの手練れのようです」
「ほう、よくわかっているじゃねえか」
「「っ!?」」
突然薄暗い牢屋に明かりが差し込む。そして牢屋の中へぞろぞろと人が入ってきた。
「ようやくお目覚めですかな。このような汚い場所にご招待してすみませんね、バウンス=エリーザ様」
先頭にいた30代くらいの頬に大きな傷のある男がニヤニヤとこちらを見ている。
「そう思うのでしたら、早めにここから出していただけないかしら?」
「さすがこの国の第3王女様、こんな状況でもいい度胸をしておりますね。ですが、残念ながら我々がお父上にちょっとしたお願いをするまで、あと数日はお待ちいただければと思います」
「……何をお父様に要求するのかは知りませんが、私には2人の兄がおりますし、私は見捨てられるので無駄だと思いますよ」
私には2人のお兄様がいる。継承権も私より上だし、お父様はきっと私を見捨てて襲撃者たちには屈しないでしょう。
「いえ、きっとお父上は我々の願いを叶えてくれるでしょう。国王様が娘想いの良き父親であることは有名でございますから」
悔しいけれど、ここまで計画的に襲撃を計画している相手だし、もしかしたら何らかの勝算があるのかもしれないわ。
「さて、国王様が決断しやすくなるようにエリーザ様直筆の手紙を書いていただきたく存じます」
「………………」
「き、貴様ら! 姫様に指一本でも触れたら絶対に許さないぞ!」
「ソフィア、駄目!」
「……おい」
「はっ。おらっ!」
「がはっ!」
「お願い、やめて!」
私をかばおうと前に出たソフィアを別の男が激しく蹴る。
「さすが人の上に立つエリーザ様ですね。たかがメイドとはいえ、幼馴染にもお優しいことで。おい」
「はっ!」
ビリツ
「きゃあああっ!」
「ソフィア!」
襲撃者がソフィアのメイド服を切り裂く。
「へっ、可愛い悲鳴をあげちゃって。さっきの勇ましさはどこへ行ったんだ?」
「ひゅうう~ガキの癖にいい身体をしているじゃねえか」
周囲にいた襲撃者たちがソフィアを取り囲む。
「さて、お優しいエリーザ様でありましたら、大切な幼馴染が目の前でボロボロにされるのを見たくはないでしょう。我々の言う通りに国王様宛の手紙を書いていただけないでしょうか?」
「……わかりました、あなた方の要求はすべてのみましょう。ただし、ソフィアに手を出したら、私は舌を噛み切って自死します。それはあなた方も本意ではないでしょう?」
この牢屋にソフィアも一緒に捕らわれているのはそういう理由なのでしょうね。
彼女は私の護衛とメイドであるけれど、幼いころから一緒に育ってきた大切な幼馴染。彼女の命が握られている限り、私は彼らの言いなりになるしかないわ。
襲撃者たちは私のことをよく調べている。どちらにせよ、今この状況では彼らに従う他ないわ。
「お早いご決断感謝します。もちろんエリーザ様が我々に従っている限り、これ以上おふたりには手を出さないことはお約束しましょう」
「……わかったわ」
それはお父様との交渉がうまくいくまでの間という意味ね。この襲撃者たちは私たちに顔を見せている。
いずれ私たちの命はないでしょう。それが分かっていながら、今の私にできることはお父様が出してくれた助けを待つことしかできないわ。
「ううう……」
「ソフィア、私は大丈夫だから、もう泣かないで」
あれから頬に傷のある男に従って、今は無事であることと、彼らの要求を呑んで助けてほしいというお父様宛の手紙を書かされた。
「護衛として姫様を守ることもできず、あまつさえ姫様は私などをかばうためにやつらの言いなりに……」
「いいのよ。ソフィアが生きていてくれるだけで私はとても嬉しいわ。大丈夫、きっと助かるわ。お父様の助けが来るのを待ちましょう」
「……本当に申し訳ございません」
自分で言いながらその可能性が低いことはわかっている。ここまで綿密に襲撃計画を立てていた相手が、この場所のわかるような痕跡を残すわけがない。
どうにかしてソフィアだけでも助けないと……
コツコツコツ
「「……っ!」」
誰かが地下牢への階段を降りてくる音がする。争った音も聞こえなかったし、助けが来たわけではない。
お父様が襲撃者たちの要求をのんで私たちは用済みになったのかもしれないと思うと、身体が少し震えてきた。
「ふむ、どうやら2人とも無事なようだな」
そして牢屋の前になぜか防衛魔術の臨時教師であるギーク教諭が現れた。
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