第22話 非常召集
「入るぞ、アノン」
「うむ、よいぞ」
学園長室にノックをして、アノンの返事を待ってから中へ入る。
中に入るとアノンのやつは机へ高く積まれた書類に囲まれていた。こいつもまだ就任してから長くないからやることはいっぱいあるのだろう。
「どうした、ギル。デートのお誘いなら大歓迎じゃぞ!」
「………………」
学園長室には防音の魔導具があるから、この部屋での話の内容は外に漏れることはないが、あまり危険なことを言わないでほしい。
「つまらない冗談は置いておいて、アノンにひとつ相談がある」
「むうう……これっぽっちも冗談ではないというのに……」
「学園内の教室に盗聴器か監視カメラを設置させてくれないか?」
「おっ、お主は何を言っておるのじゃ!?」
う~ん、やはりさすがにこれは厳しいか。
「実は学園の教師陣について何とかしたくてな。他の教師の授業を隠れて聞いてみたいんだけれどさすがに無理か?」
俺が臨時教師として別の授業を参加するという手段もあるが、監視の目があると教師側も普段通りの授業をしないかもしれないし、最近噂になっている俺が見ていると、生徒たちも静かにしているだろうからな。
「……なんじゃ、そういう理由か。ギルが女子生徒に手を出すのかと心配したのじゃ!」
「アホか! あまりにも評判の悪い教師が多いから、どんな授業をしているのか気になったんだよ」
いったい何の心配をしているんだよ、こいつは……
「う〜む、さすがにそれは厳しいのじゃ。学園内の校舎にはそういった魔道具を検知する仕組みもあるからのう。ギルの腕ならバレずにできるかもしれぬが、バレた時のリスクが高すぎるのじゃ」
「まあ、さすがにそうだよな……」
バレた場合は教師の授業を見たかったという理由よりも女生徒の盗撮目的と捉えられるに違いない。監視カメラがあると宣言をして堂々と設置すればいじめの抑止力になるかもしれないけれど、プライバシー的に厳しそうだよな。
「それじゃあ、追加で1人教師を雇うことができるか?」
「う~む、さすがにギルを雇ったばかりじゃからのう……誰か適任の者がおるのか?」
「ああ、昔の知り合いでちょっとな。あいつなら諜報活動が得意だし、魔術薬学か魔術史なら教えられるはずだ。最悪、防衛魔術の俺の授業と交換できる」
確かあいつは魔術薬学の資格を持っていたはずだ。仮に資格を持っていなくても、資格が不要な魔術の歴史を学ぶ魔術史は暗記力のあるあいつならすぐに教えられるだろうし、最悪俺が教えている防衛魔術と教科を交換すればいい。
当然俺は自分で魔術薬の調合もできるし、資格も持っている。
「……その者は女か?」
「いや、そいつは男だが、性別は関係あるのか?」
「う、うむ、それなら安心なのじゃ! 学園側も教師の男女比を考えておるからのう」
「ああ、なるほど」
確かに元の世界でも多少は教員の男女比は気にしていたかもな。さすがに女性教師や男性教師しかいない偏った学校はなかった気がする。
「まあ、なんにせよ、まずはそいつに連絡を取ってみてからだな」
「うむ、すまぬが頼むぞ。妾の方でも新しい教師を雇えないか調整をしてみるのじゃ」
「了解だ。悪いが頼むぞ」
とりあえず教師の受け入れは何とかなりそうでほっとした。あいつに授業を行ってもらいつつ、教師の授業や素行を確認してもらって、ゲイルやシリルの言うように生徒に悪影響しか与えないような教師だった場合には排除させてもらうとしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ギーク先生、今日もありがとうございました」
「ま、また来週もよろしくお願いします!」
「ありがとうございました。失礼します」
「おう、気を付けて帰れよ~」
今週の授業も特に大きな問題がなく終わり、放課後17時まで行われている勉強会も終わって、ベルン、メリア、シリルの3人を見送った。
ふう~これで無事に終わったか。先週は侯爵家を含めた生徒5人を退学処分にしたこともあって、今週は大きな問題を起こす生徒もいなかった。反発していた生徒はまだ睨んだりしてくるものの、騒いで他の生徒の邪魔になることはなくなったのでそれで十分だ。
授業中にやる気のある生徒も多少は増えてきたし、放課後3人での勉強会に質問をしに来る別の生徒もちらほらと現れてきて順調だ。やはり環境が悪かっただけで、真剣に魔術を学びたい生徒は少なくないらしい。
「あとはSクラスの演習授業か。う~ん、1人の生徒の影響力があり過ぎると言うのも問題だよな」
唯一の問題がSクラスの演習授業である。相変わらずこの国の第3王女であるエリーザが演習に参加しないため、他の生徒も参加していない。一応座学の授業は真面目に受けているようで、俺の話もちゃんと聞いている。
まあ、確かに第3王女が防衛魔術を学ぶ必要性が少ないという気持ちもわかるし、やる気のない生徒に強制させても仕方がないというのが俺の持論だ。その代わりに試験の成績が悪かったら、容赦なく低評価を付けるとしよう。
言っておくが、俺に忖度とかはない。賄賂なんて絶対に受け取らないし、身分に関係なく成績が悪かったら第3王女であっても容赦なく最低評価をつけるだろう。
「さて、週末の授業終わりのこの時間が最高のゴールデンタイムだ。うまい酒でも飲んで楽しむとしよう! それに明日と明後日は研究三昧だな!」
元の世界で言うと最高の花金の時間だ。やはり週5で働くサラリーマンにとってはこの時間が何よりも大事である!
『全職員はすぐに職員室まで集合してください。繰り返します、全職員はすぐに職員室まで集合してください』
「………………」
校舎全体に職員の非常召集の放送が流れると同時に俺の花金が終了した。もう定時は過ぎているのに……
こんなスピーカーの魔導具なんて作らなければよかった……
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