第25話 無限の可能性
「……ギーク教諭はいったい何者なんですか?」
「いや、エリーザも知っての通り、防衛魔術の臨時教師だが?」
「こんな臨時教師がいるか!」
「いや、ここにいるだろうが……」
エリーザに聞かれたことを答えただけなんだが、ソフィアに突っ込まれた。まあ、エリーザが聞きたかったことはそう言うことじゃなかっただろうけれど、いろいろ面倒になるからな。
せっかくの花金にいきなり全教員が集められたと思っていたら、エリーザとソフィアが何者かの襲撃を受けて攫われたという情報が学園長のアノンから知らされた。この国の第3王女であるエリーザが誘拐されたとして、国の騎士たちも全力で探していたようだが、俺は個別で襲撃があった現場の痕跡を追ってここまで辿り着いたわけである。
アノンのやつに場所を教えたが、ここは街から離れた場所で増援まで時間がかかることもあって、ひとりで襲撃者たちのアジトへ潜入した。専門ではないが罠などに気を付けながら潜入し、この2人の場所へ辿り着いた。
魔術封じの輪という魔道具には多少驚いたが、魔術を使う者として魔術を封じる拘束具を考えるのは当然だよな。とはいえ、まだまだ作りが甘い。これなら俺が作った物の方がいい出来だろう。
「ふむ、上が騒がしくなってきたな。どうやら侵入者である俺のことがバレたみたいだ」
「す、すまない。私が大きな声を出してしまったせいか……」
ソフィアが青い顔をして謝ってくるが、それが原因ではない。
「いや、この魔術封じの輪が強制的に外された場合には通知が入る仕組みだったらしいな。ふむ、この仕組みは悪くない」
構造上その仕組みを排除しつつ外すのは多少時間がかかりそうだったから、外すことを優先した。この仕組みは良い考えだな。誰が作ったかは知らないが、参考にさせてもらおう。まあ、俺ならそもそも外されるような構造にするつもりはないが。
「とりあえずこの牢屋の上は広い部屋になっていたから、まずはそこまで上がろう。ソフィア、これを着ていろ」
地下牢で暴れてここが崩れたらさすがに面倒だ。空間魔術によって何もない空間から予備の白衣を取り出してソフィアに投げる。彼女は下着姿だった。
一応気を使って彼女の怪我を治療する時以外は見ないようにしていた。見張りの記憶を読み取って確認したところ、乱暴はされていなかったようだが、だいぶ怖い思いをしたに違いない。
「あ、ああ。すまない」
「ギーク教諭、その魔術は初めて見る魔術なのですが……?」
「こいつは空間魔術というものだ。この魔術は他の者には秘密にしておいてくれ」
「……承知しました」
空間魔術は先日研究が落ち着いたけれど、まだ公には発表されていない魔術だ。この魔術は簡単に言うと空間を操作してそこに物を収納するアイテムボックスみたいなものだな。
この異世界ではアイテムボックスのような魔術がなかった。当然ながら前世の記憶がある俺はアイテムボックスを使いたくて結構初期の段階から研究していたが、空間魔術はかなり高度なこともあって、先日ようやく実用できるレベルになった。
本当は空間魔術に分類される転移の魔術も使いたかったのだが、実験するのは危険すぎることもあって研究を止めている。いつかは某ロボットのドアのようにどんな場所へいつでも行けるようになりたいものだ。
「お待たせしました」
ソフィアが渡した白衣を着る。一応前のボタンは留めているけれど、目のやり場に少し困るな……もちろん生徒をそういった目で見るつもりはないが。
「それでは俺についてきてくれ。あと2人には戦闘行為を禁止する。ないとは思うが、自身の身に本当に危険が迫った時だけ戦闘や魔術の使用を許可する。少なくともここを出るまでは俺のことを信じてほしい。いいな?」
「……承知しました」
「……了解した」
さすがにこの状況ではエリーザとソフィアが俺の指示に従う。
おそらくすでに上の階には襲撃者たちが集まって来ているに違いない。さすがに2人が動き回ると戦闘の邪魔になるから、大人しくしてもらうとしよう。
魔術で眠らせて記憶と読み取った見張り2人を通り過ぎ、俺を先頭に3人で上の階へと上がった。
「……本当にひとりのようですね。まさかたったひとりでここに侵入してくる者がいるとは思いませんでしたよ。おかしな格好をしていますが、どうやって魔術封じの輪を外したのでしょうか?」
上の階へ上がると、そこには20人近くの武装した連中が地下牢の出口である俺たちを取り囲んで出迎えていた。どうやら俺が確認した以上の敵がこの拠点にはいたらしい。
すぐに地下牢へ踏み込んでこなかったのは他に俺の仲間がいないかを慎重に確認していたのかもしれないな。少し前に出て話している頬に傷のある男が今回の襲撃の実行犯だろうか?
大勢で取り囲んでいることもあって、勝利を確信したのか、薄ら笑いを浮かべている。
「……無駄だと思うが、一応忠告をしておく。大人しく投降すれば、少なくとも今は痛い目を見なくてすむぞ」
「この状況で面白い冗談を言いますね。あなたこそ、大人しく降参すれば命だけは助けてあげますよ。ただし、私が鍵を持っているはずの魔術封じの輪を外した方法だけは教えてもらいますがね」
傷の男がそう言うと、周囲を囲んでいたやつらが声を出して笑う。
後ろにいる2人は不安そうに少し震えている。そうだな、この状況で怖くないはずがない。
「エリーザ、ソフィア、安心しろ。お前たちは必ず守る。それに俺はな、金や政治みたいなくだらない理由で、前途ある若人の道を邪魔する大人が一番ムカつくんだ! 貴様らみたいなクズ共は全力で潰す!」
……いかんな。生徒の前なのに口調が汚くなってしまった。
だが、それくらい今の俺は憤慨している。
すべての子供は将来の可能性に満ち溢れた世界の宝だ。それは平民だろうと王女であろうと関係なく、どんな子供にも無限の可能性がある!
そんな子供を金や汚い権力や政治の為に利用しようとする腐りきった大人が、俺は何よりも嫌いだ。
こいつらに誘拐された2人は心に大きな傷を受けたに違いない。その罪は償ってもらうぞ!
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