第27話 紫雷狼
ゴオオオオオオオッ
広いこの空間を埋め尽くすほどの巨大な炎の波がうねりながらこちらへと向かってくる。こちらを攻撃していたやつらは俺の攻撃で倒れていた仲間を回収しつつすでに退いており、その上を巨大な炎の波が通過する。
「ふはははは! どうですか、5人の魔術師による大規模魔法は! もはや逃げ場はありません。あなたの放ったそのちっぽけな魔術と共に消滅するがいい!」
5人の魔術師による巨大な炎の波に対して、俺が構成した魔術によって現れたのは紫色の雷の身体を持った3メートルほどの狼だ。普通の狼よりも大きいが、確かにあの巨大な炎の波に比べれば遥かに小さい。
「ギ、ギーク教諭……」
「姫様、私の後ろへ!」
炎の波がこちらへ迫る中、ソフィアがエリーザをかばうように前に出る。すでに熱された周囲の空気がここまで来ている。
だが――
『ワオオオオオオオンッ!』
「んなっ!?」
紫雷狼が吠えると、周囲に紫雷狼の身体と同じ紫色の雷が大量に轟き、まばゆく紫雷がこのフロア中を埋め尽くす。
そして紫雷狼本体が高速で走り回り、その身体の紫色の雷に触れた巨大な炎の波が分断されて消滅していく。
「「「ぎゃああああああ!」」」
灼熱の波動を打ち破った紫雷の狼はそのまま敵を貫いていった。
「ば、馬鹿な……たった一人の魔術に5人で構成した魔術が負けるだと……こ、これほどの魔術は見たことがない!?」
リーダーの男は紫雷狼の雷をたまたま免れたようで、放心した様子で目の前の光景を信じられずに棒立ちしていた。
どうやら悪運だけは強いらしい。まあ、それも関係ないが。
「魔術というものは大きければいいというものでも、大勢で発動したから強いというものではない。小さな魔力で最大限の成果を求め、いかに無駄なく効率よく強大な魔術を構成するかの方が重要だ。さて、貴様にはまだ聞きたいことがあるが、その前に拘束させてもらうとしよう」
『ワオンッ』
「がはっ……」
紫雷狼の放った雷が、傷の男とここから逃げようとしていた残りの敵を貫いた。
「さて、どうやら敵はこれですべてらしいな。もう少しすれば、学園長や騎士団なんかも来るだろう」
雷によって黒焦げになった誘拐犯たちを拘束した。紫雷狼には多少加減をさせていたこともあって、身体は動かせないようだがまだ全員が生きている。こんなクズどもは死んでも良かったとも思うが、さすがに生徒の前で人殺しは極力避けたい。
まあ第三王女を襲撃したとなれば、どちらにせよこいつらの大半が死罪になるとは思うがな。さすがにそこまでは俺の知ったことではない。
「……ギーク教諭。この度のことは本当にありがとうございました。私とソフィアを助けてくれて、本当に感謝しております」
「ギーク先生、先日無礼な口を利いたにも関わらず、姫様を救っていただきありがとうございました! このご恩は一生忘れません!」
エリーザが俺に向かって頭を下げ、ソフィアは片膝をついて仰々しく頭を下げる。
「悪いのはあいつら誘拐犯であって、エリーザとソフィアが気にする必要はない。2人が無事でよかったぞ」
そう、悪いのは誘拐をしたあいつらであって、この2人は何ひとつ悪いことなどしていない。
「寛大なお言葉をありがとうございます。つきましては何かお礼をさせていただきたいのですが」
「私も私にできることならなんでもします!」
「今回の件で2人から報酬を受け取るつもりはない。これは教師の業務範囲内だからな。まあ、あとで学園から残業代くらいはもらうから、それで十分だ」
臨時とはいえ、俺は教師だ。生徒の命が危ないところを助けたからといって報酬をもらう気などない。
教師が――いや、大人が子供を守るのは当然のことだ。未来ある子供を大人が守ってやらないでどうする。
「それでは王族としての示しがつきません! いえ、王族としてでなく、私個人としてソフィアを助けてくれたことにとても感謝しております! なにかお礼をさせてください!」
「私もだ! このまま何の礼もしないなど、姫様の護衛として断じてできない!」
「………………」
2人ともちょっと面倒くさいな。
まあ、この世界では大きな働きにはそれに見合った報酬を与えるという考えが基本となっている。元の世界の会社もそうあってほしいものだ。
それにエリーザは王族として誰かに借りを作るのも良くないと考えているのかもしれない。まあ、牢屋を見張っていた誘拐犯の記憶を読み取ったところ、自分の身を挺してまでソフィアをかばっていたし、仲の良い幼馴染であるソフィアを助けたから感謝しているというのは本当なのだろう。
「わかった。それじゃあ、今から俺が言うことをひとつ聞いてもらおう。それで今回の件は貸し借りなしということでどうだ?」
「承知しました。私に可能なことでしたらなんなりと」
「私も何でもしよう!」
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