第28話 依頼人


「今回の件に関して俺の存在のことを他の者に一切口外禁止とする。まあ、多少は誘拐犯の方から俺の情報は漏れてしまうだろうが、それでもバウンス魔術学園で教師をしているということは秘密にしておいてくれ。あまり国から注目されるのは本意ではないんだ」


「「………………」」


「ん、どうした? この頼みは守れないのか?」


「い、いえ! もちろんギーク教諭がそれを望むのでしたら、他言はしません! ですが、もっと他に欲しかったり必要なものはないのでしょうか……?」


「ふむ、あまり気を遣うものでもないぞ。今俺が2人に望む一番のことはそれだな。正体を隠したやつが助けてくれてたと言えば、学園長あたりがうまいことやってくれるだろう」


 本音を言えば、金では買えない王族の力でしか手に入らないような研究用の素材なんかもあったりするが、それをエリーザに求めるつもりはない。


 こうでも言っておかないと、今回のことをずっと気にしそうだからな。防衛魔術の実戦演習に一度だけ参加してもらうという頼みも考えたが、やはりこればかりは本人たちのやる気が大事だ。


 あとは学園長であるアノンのやつに丸投げだな。あいつならうまいことやってくれるだろう。


 それかソフィアには若い娘がなんでもするなんて言葉を口にするなでもよかったかもしれない。


「……承知しました。エリーザ=バウンスの名に懸けて誓います」


「私も命を懸けて誓う!」


「……いや、そこまでのことは望んでいない。もしも2人が危険な状態になるのなら迷わず話してくれ」


 王族の名にまで誓わなくていいぞ、まったく。


「さて、それじゃあ俺はこいつらにちょっと用があるから、少しの間だけそちらの方を向いていてくれないか?」


「はい、承知しました」


「了解です」


 素直に俺の言うことを聞いてくれる。2人を助けたこともあるが、先ほどの紫雷狼の魔術を見せたこともあるかもしれないな。


 2人から離れ、拘束した誘拐犯たちの方へ進む。


「うう……貴様は一体何者なんだ……」


 先ほどまで気を失っていた傷のあるリーダーの男が目を覚ましたようだ。


「答える必要はないな。それよりも、今回の騒動を引き起こした依頼人を教えてもらうとしよう」


 先ほど牢屋の前で見張りをしていた男たちは今回の誘拐の黒幕までは知らなかったが、さすがにリーダーであるこいつなら知っているだろう。


 こいつらがただの捨て駒だったとしても、こいつらに指示を出していた者を教えてもらうとしよう。


「はっ、誰が答えるか! これでも仕事にはプライドを持っている。拷問などをしても無駄だぞ!」


「ああ、こちらも拷問なんて面倒なことをするつもりはない。お前の頭の中を直接もらおう」


「んなっ!? まさか、記憶を読み取る魔術! だが、その魔術は違法なはずだ!」


「面白いことを言うな。これだけの犯罪行為を犯しておいて、自分だけはまともに扱ってもらえるとでも思っているのか? どちらにせよ、俺のことはバレないだろうから問題ない」


「くっ、かくなるうえは……がはっ!」


 パチンッ


「……ば、馬鹿なっ!?」


 どうやら口の中に毒を仕込んでいたようだが、俺が構成した解毒の魔術によってその毒は無効化された。


 仕事の秘密を洩らさないよう自害しようとするその根性だけは認めてやるが、そう簡単に自害をさせてやると思うなよ。


 たとえ舌を噛み切ったとしても、回復魔術で自害させるつもりはない。


「ふむ、そのプライドだけは見事だな。さて、それでは誰がこんなことを依頼したのか見せてもらおう」


「や、やめろおおおおおおお!」


 傷の男の悲鳴が周囲に響き渡った。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 コンッ、コンッ


「どうぞ。鍵は開いている」


「失礼します」


「お邪魔します」


「2人とも朝から早いな。用件は先週のことだろう」


 2日後の平日の朝。俺の研究室へエリーザとソフィアが尋ねてきた。


 2人を誘拐犯から助けてから、休日の2日間が過ぎて今日からまた5日間の授業が始まる。あのあとはアノンや街の騎士団たち誘拐犯たちのアジトへ踏むこむのと入れ替わるようにアジトから脱出した。


 アノンがうまいことを言ってくれたのと、2人が俺のことを黙っていてくれたおかげで、俺が2人を救出したことはバレていないようだ。


 今日はSクラスの授業もあるが、その前に2人は聞きたいことがあるのだろう。


 パチンッ


「防音の魔術を使ったから、この部屋で話していることは外には漏れない。とりあえず2人とも無事に登校できたようでなによりだ」


 どうやら心に深い傷を負って不登校になるなんてことは何よりでほっとした。この年頃の生徒たちの心は繊細なのだよ。


「……ギーク教諭のおかげです。先日は本当にありがとうございました」


「ありがとうございました!」


 エリーザとソフィアが頭を下げる。


「礼は先日受けたからこれ以上は不要だ。まずは椅子に座るといい。大したもてなしはできないがな」


「失礼します」


「あ、ありがとうございます」


 2人が席へと座る。2人ともそわそわした様子だ。


「予想はしているが、何か聞きたいことがあるようだな」


「……はい。ギーク教諭、一昨日と昨日で私とソフィアの誘拐に関連していた犯罪組織がすべてしました。やはりそれもギーク教諭がなされたのでしょうか?」

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