異世界転生して大賢者となった元教師、臨時教師となって崩壊した魔術学園を救う~邪魔する問題児&無能教師&モンスターペアレンツは徹底的に排除する~

タジリユウ@カクヨムコン8・9特別賞

第1話 学級崩壊ならぬ学園崩壊


「だが断る!」


「……む~これほど頼んでも駄目かのう?」


 目の前には小学生高学年くらいのとても小柄な少女が俺に向かって頭を下げている。


 サラサラとした金髪に透き通った宝石のような碧眼。なによりその長く先の尖った耳。彼女はエルフと呼ばれている種族で、少女に見えるが年齢は100歳をとうに超えている。


「いくらアノンの頼みでも無理だ。どうして俺がいまさら魔術学園の教師をやらなくちゃいけないんだよ」


「ギルはで教師をしていたと言っていたじゃろう?」


 そう、前世である。俺はいわゆる転生者というやつだ。日本で生まれ育ち、35歳の若さで命を落としたところ、なぜかその記憶を持ってこの世界にギルとして生を受けて今では28歳になる。


「確かに前世では研究をしながら教師をしていたことは話したけれど、よく覚えていたな」


「その白衣という服も前世に着ていた服じゃったと聞いたぞ」


「ああ、これこそが研究者の証だな!」


 今の俺の服装はシャツに白衣である。やはり研究者やマッドサイエンティストには白衣だよなあ。この世界の魔術師と科学者は似たようなものだろう。しかし残念ながらこの世界ではみんな白衣を着ていない……俺以外にも流行らせたいところだ。


「まあ白衣の素晴らしさは置いておくが、今は教師をしている暇がない。俺は魔術の研究で忙しいんだ」


「むっ、つい最近研究を終えたと言っていたではないか?」


「ああ、空間魔術の研究は一通り目途がついた。次は重力魔術の研究を始めるところだ」


「この魔術バカめ……」


 いわゆるチートと呼ばれるものかもしれないが、この世界で俺には魔術の才能があった。加えて前世の記憶があったこともあって、幼いころから熱心に魔術の研究を続けていた結果、俺は若くして大賢者の称号を得た。


 この世界の魔術は前世の数学と非常に似通っていて、複雑ではあるがとてもおもしろい。難解な数式が解けた時と同じように、魔術の術式を無駄なく構築できた時はなんとも言えない快感があるのだ。まあ、これは俺が前世で研究好きだったことも関係しているかもな。


 異世界に転生したら定番である冒険者という職業もあったけれど、俺はそれよりも魔術の研究ができる魔術学園へと進み、そのまま魔術の研究者となって今に至る。


「仕方がないのじゃ……ギル、例の借りを今使うぞ! 妾に力を貸してくれ!」


「ふむ、アノンがその借りを使うほどの問題なのか……」


 アノンとは恋仲というわけではないが、俺が学園を卒業したころからの付き合いで、前世のことを話した数少ない親友だ。俺も幼いころはいろいろと無茶をしていたこともあって、こいつにはかなり世話になっていた。


 詳細は省くが、アノンにはひとつ大きな借りがある。まさかこんなところでその借りを使ってくるとはな。


「うむ。バウンス国立魔術学園は歴史のある魔術学園なのじゃが、今では教師の質が著しく低下しておって、かなりピンチなのじゃ……」


「へえ~俺の母校がそこまで落ちぶれているとはねえ。まあ、ほっときゃいいんじゃね? やる気や才能のあるやつは放っておいても勝手に伸びるものさ」


 去年アノンが学園長を務めることになったバウンス国立魔術学園は俺の母校でもある。俺が学園に入学していたころはこの国一番の魔術学園という評判もあるくらい有名だったのに落ちぶれたものだな。


「やる気や才能のある者まで成長できない環境になりつつあるのが問題なのじゃ……」


「さすがにそれは教育機関として終わっているぞ……」


 それじゃあなんのための魔術を学ぶための学園なのか分かったものじゃない。


「わかったよ、それであの時の借りを返せるならいいさ。研究も落ち着いたところだし、ここ7~8年は研究室にこもりっぱなしだったからちょうどいい」


「ほ、本当か!」


「ああ。ただ前世では教師だったが、俺に教師が務まるかまでは責任を持てない。俺は弟子も取ったことがないし、多少厳しく教えることになると思うぞ」


「うむ、それで大丈夫じゃ! 大賢者の称号を持つギルならば平民ではあるが、かなりの権限を持っておるからのう。学園の教師が権力のある貴族の子供にこびへつらっているくらいなら、厳しく教えてもらえる方がよっぽどマシなのじゃ」


「その無能な教師どもは全員クビにしちまえ!」


 いい大人がガキどもにビビってどうするんだよ……


 まあ、確かに元の世界とは違って貴族なんかの身分がある分やりにくいというのはある。とはいえ、俺が学園にいたころは教える側の教師が生徒にこびているなんてことはなかったぞ。


「教師の方も無駄な処世術ばかり得意で、そう簡単にクビを切れんのじゃ。それにそんな教師の姿を見て生徒たちの態度も増長しておる。妾の立場としても強く言えなくて胃に穴が空きそうなのじゃ……」


 まさかアノンのやつがそんな泣き言を漏らすとはな。戦闘に限っていえば、俺よりもよっぽど強いあのアノンがねえ。


「しょうがない、できる限りのことはしてやるから元気出せ」


「さすが妾の大好きなギルなのじゃ!」


「……おまえ、学園内では絶対にこんなことするなよ」


 こいつは事あるごとに抱きついてくるんだよなあ……


 さすがに学園に行ったらそんなことはしないと思うが、もしもそんなところを生徒へ見られたら面倒事になる気しかしない。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「ねえ~学園が終わったら今日はどこへ行く?」


「べロック通りに新しいスイーツ屋さんができたらしいから行ってみない?」


「あっ、いいわね!」


「おい、今日はもうサボってどっか行かねえ?」


「いいね、行こうぜ!」


「………………」


 ふむ、想像の10倍くらい酷かった……


 アノンから頼みごとを引き受けてから数日後、俺はバウンス国立魔術学園の防衛魔術担任の臨時教師として雇われた。元の世界の非常勤講師とは異なり、1年間だけ正規雇用された教師と同等の権限を与えられる雇用形態だ。


 そして今日は初めての授業として1-Bのクラスを訪れたのだが、まるで動物園だな。20人くらいいる生徒の大半が、クラスへ入ってきた俺を無視して好き勝手に騒いでいる。


 俺が臨時教師ということもあって、完全になめてかかっているのだろう。すべてのクラスがこんな感じなら、学級崩壊どころか学園崩壊してしまっていると言ってもいい。


 ……それにしても本当にやかましいな。普通に声を張っただけではこちらに見向きもしないだろう。まあ、魔術師である俺が声を張る気もないが。


「さて……」


 生徒たちに見せつけるように右手を前に突き出し、無詠唱で魔術を構成する。そして俺の構成したサイレンスの魔術が発動し、教室内と俺の両耳に防音の壁が張られた。続けて拡声の魔術を構成し、発動させる。


 あえて分かるように魔術を発動したこともあり、数人の生徒はすぐに気付き、俺と同じように両耳に魔術で防音の壁を張ったり、両手で耳を塞いで机に伏せた。


 ふむ、多少はまともな生徒もいるようで、少しだけほっとした。


 バチンッ


「うおっ!?」


「み、耳がああああああ!」


 拡声の魔術を使用した俺の指パッチンの巨大な音に驚いた大半の生徒が悲鳴を上げた。


「て、てめえ、いきなり何を!」


「ちょっと、うるさいじゃないの!」


 バチンッ


「うわっ、また!?」


「おい、その音を止めろ!」


 バチンッ、バチンッ


「ぐああああ!」


「きゃあああ!」


 こちらをなめているクソガキどもが黙るまで指パッチンを続ける。


 そういえば元の世界で小学生のころ、朝礼で校長先生が全員静かになるまで何秒かかるかよくやっていたなあ。まあ、このクソガキどもはいつまでたっても黙りはしないだろうから、強制的に黙らせてやらないと駄目だろう。


「「「………………」」」


 ようやく両手で両耳を防いで、クソガキどもが何も叫ばなくなったことを確認し、右手を下げて魔術を解除する。


「さて、今日から防衛魔術の臨時教師となったギークだ。短い期間だがよろしく頼むぞ、クソガキども。まずは自分の席につけ」


 この世界の俺の本名であるギルという名前は隠しておく。一応は大賢者の称号を受けた俺がこの学園に勤めているといろいろと面倒なことが起こるから素性を隠している。


「な、何よあんた!」


「てめえ、いきなり何しやがるんだ!」


「臨時教師ごときが俺たちをクソガキ呼ばわりだと!」


「………………」


 俺が簡潔な自己紹介を終えると、またクソガキどもが騒ぎ出す。


 なんかもう学園の教師をやっていると言うよりも、動物園の飼育員をやっている気分だ……


「「「……っ!?」」」


 俺が再び右手を出して指パッチンをしようとすると、クソガキどもは両耳を塞いでまた黙った。それを見てもう一度右手を降ろす。


「キャンキャンわめくな、クソガキども。おまえらのような教師に敬意もはらえないようなやつらはクソガキで十分だ。名前で呼んでほしけりゃ、まずは俺のことを先生と呼べ」


 元の世界の教師だったら一発で免職になるかもしれない物言いだが、アノンから多少の言動や体罰なんかは許されている。俺はこういう世間の厳しさを何も知らずにわめくだけで、やる気のある生徒の邪魔をするクソガキどもが嫌いだ。


「たかが臨時教師ごときがカーライル伯爵家長男の俺様相手にいい度胸だな!」


「ゲイル様、庶民のこいつには貴族のことなんて知らないんじゃないですか?」


「あ~あ、やっちまったなあ。せっかくこの学園に臨時教師として雇われたのに明日からは無職だぞ~」


 席にもつかずにくっちゃべっていた3人が俺の前に出てくる。


 先頭にいる少しぽっちゃりとしたこのクソガキがゲイル=カーライルか。確かに貴族の爵位で言うと伯爵はかなりのもので、それより上の公爵や侯爵はこの学園の中でもそうはいない。


「初対面の相手にいきなり自分の家名で威圧するなんて、自分に実力がないことを自分で宣言しているようなものだぞ。それに爵位を持っているのはお前の父親であって、お前はただのクソガキで十分だろ?」


「き、貴様! 我がカーライルの名を侮辱するのか!」


「ゲイル様、こいつやっちゃいましょうよ!」


「……話を聞いていたか? 侮辱をした相手はお前であって、カーライル家じゃないぞ」


 クソガキなのはお前で、俺はカーライル家とやらを侮辱したわけではない。まあ、ぶっちゃけ貴族の家名とか知ったこっちゃないけれどな。


「貴様、もう許さん! くらえ、ライトニング!」


 クソガキが両手を前に出し、しばらくするとクソガキの両手から雷の魔術が放たれた。


 パチンッ


「なっ!? ぐわああああ!」


 しかし、その雷は俺が指をパチンと鳴らすと、俺に当たる直前で半透明の壁に反射し、魔術を放ったクソガキへと命中した。


 ふ~む、魔術の構築が遅すぎるし、自分で放った魔術にも対応できないとはな。それにいきなり教師に向かって攻撃魔術をぶっ放すとか、本当にいろいろと終わっているぞ……




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