第10話 魔道具についての質問


「確かにエリーザの言うことにも一理ある。とりあえず今日は座学の授業を始める。次回以降の授業についてはこちらでも考えてみよう」


「ありがとうございます」


 そう発言を終えてエリーザは座る。


 防衛魔術の模擬戦は多少の危険も伴うものだし、やる気のない者に強制させても事故が起こるかもしれない。それにエリーザの言うことは正しい部分もある。次の授業をどうするかは後ほど考えよう。




「今日の授業はここまでとする。それでは解散」


 そのあとは特に大きな問題もなく授業は終了した。


 一応エリーザを含む数名の生徒は俺の授業をちゃんと聞き、ガリエルやその他大勢の生徒は寝ていたり、別のことをしていたようだ。まあ、授業を聞いている生徒の邪魔をしなかっただけ、他のクラスよりはまともというべきだろう。


 少なくとも第3王女であるエリーザは王族であることを盾に教師である俺に言うことを聞かせようとはしなかったし、言っていることもまともでカリスマ性もある人格者だった。


 だからこそ、護身用として防衛魔術を学んでほしいんだけれどな。まあ、あとでアノンのやつに相談するとしよう。




「お時間を取っていただきありがとうございます」


「ああ。さっきも言ったけれど基本は17時までだからな」


「はい」


 今日の授業が終わり、放課後約束をしていたシリルがいる教室へと移動する。


 中にはまだ数人の生徒が残っていたが、俺の顔を見ると教室の外へと出ていく。例のクソガキ3人組もいたが、俺に舌打ちをしつつ教室から出ていった。


「……メリアはいないか」


「はい。彼女は今日の最期の授業が終わったら、すぐに教室から出ていきました」


「そうか」


 何か質問がありそうな感じだったんだがな。


「それで、質問がいくつかあると言っていたが、どんな内容だ?」


「防衛魔術担当のギーク先生に聞いてもいい内容かわからないのですが、魔道具のことについてです。授業で魔道具や魔術薬学でも可能と仰っていましたので」


「ふむ、魔道具についてか。問題ない、実に素晴らしい」


「……あの、貴族の女性である私が魔道具について質問することに何か思うことはないんですか?」


「ん? 実に結構なことじゃないか。確かに魔道具師は基本的には男性が多い職業だが、女性だっている。それに知りたいと思う知識欲は貴族だろうと女性だろうと関係ないぞ」


 この異世界には魔道具という物がある。魔術の式を刻み込み、魔力を込めることによって様々な効果を得られる道具だ。


「……そう言ってくれるのはとても嬉しいですね。今ので先生のポイントが5ポイント上昇しました」


「俺の何のポイントだよ……」


「秘密です。かなり専門的な内容になるのですが、いくつか質問させてください」


「ああ、何でも聞いてみろ」




「……とまあ、この仕組みを利用することで式をうまく刻み込めるわけだ。これを使うと雨や汚れなんかにも強くなるから、かなり実用的な技術だぞ。おっと、気付いたらもう17時だ。今日はこれくらいでいいか?」


「………………」


「シリル、どうかしたか?」


 しまったな、深く語り過ぎてしまったか……


 結局シリルは魔道具に関する質問を10個以上してきた。しかもかなり専門的な内容もあって熱意もあったため、時間ギリギリまで俺もつい熱くなって語ってしまった。


 実は俺は普段魔術の研究をしているが、趣味で魔道具を作ったりしている。やはり研究者は好きな分野には饒舌になってしまうものなのだ。


「ギーク先生は一体何者なのですか?」


「いや、何者もなにも、この学園の防衛魔術の臨時教師だが?」


「……いえ、どう考えてもおかしいです。先生の知識量は明らかに臨時教師のそれではないです。それに昨日の授業では私たち生徒3人がかりでも、誰一人先生に攻撃を当てられませんでした!」


「そう言われても臨時教師は臨時教師なんだがな。まあ、回答に満足してくれたようでなによりだ」


「……分かりました。ギーク先生がそう言うのでしたら、そういうことにしておきます。今日は本当にありがとうございました。ぜひ、また魔道具のことについて教えてください」


「ああ、そういった質問なら大歓迎だ。また気になることがあれば質問してくれ」


「はい、ぜひそうさせていただきます。……質問なのですが、ギーク先生が侯爵家ほどの権力にも屈しないというのは本当の話なんですか?」


「ふむ、意図がよく分からないが本当だ。だから、俺に苦情を出しても無意味だからな」


「ふふ、そんなことはしませんよ。……ギーク先生を信じて、ひとつお願いをしてもいいですか?」


「前にも言ったが、内容によるぞ。俺にできる範囲内だな」


 さっきから一体なんの話だ?


 とはいえ、シリルは周囲に人の気配がないことを確認し、先ほど楽しそうに魔道具のことを話していた表情から一変して真剣な表情になっている。


「ええ、もちろん教師の仕事の範囲内です。それと、どんなことがあってもこの話は私から聞いたとは言わないでほしいです」


「それについては誓ってもいい。生徒の守秘義務は順守する」


「……わかりました。ギーク先生を信じます。ふふっ、まさか私が就任たった2日目の臨時教師にこんなことを話すなんて思いませんでしたよ。明日の授業が終わった16時くらいに3階の一番奥にある備品倉庫へ来てくれませんか?」


「確かそこの備品倉庫は今使っていないはずだが?」


「はい、そこの備品倉庫です。どうか、よろしくお願いします」


「……わかった、約束しよう」


 そう言いながら子爵家の長女であるシリルは臨時教師である俺に深々と頭を下げ、教室から出ていった。

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