第5話 大量の苦情
「さて、次はシリルと……そこの2人。名前を告げてからフィールドへ上がれ。それとスタートは俺の合図があってからだぞ」
「……はい、胸を借りさせていただきます」
「ひゃ、ひゃい! メリアです!」
「ユ、ユリエルです!」
「まずは礼だ。……よし、それじゃあかかってこい」
ふむ、どうやら先ほどの模擬戦は多少なりとも効果があったようだ。
まだ反抗的な目をしている生徒も若干いるが、先ほどよりもだいぶ減ったし、ちゃんと礼もしている。一応あいつらにもアドバイスは与えたし、あとはこれから次第と言ったところだろう。
……問題はこの授業がまだ1クラス目なんだよな。今日はあと2クラス分あるとか、本気で憂鬱すぎるんだが。
「ぷはあ~! やはり1日の仕事終わりの冷えたエールは最高だ!」
「……まったく、学園の寮の中とはいえ酒を堂々と飲みすぎじゃ。絶対に生徒には見られるのではないぞ」
「わかっている。これが日々の楽しみなんだから、これくらい許してくれよ」
俺の日々の楽しみのひとつなんだから、それを奪うのはアノンとはいえ許さんぞ。
今は学園内にある職員用の寮にいる。もちろん大賢者の称号を持った俺には研究室付きの自宅はあるのだが、臨時教師の期間中はこの寮で生活をすることにした。
部屋は狭いが、これくらいの狭い部屋は前世のころから慣れているから問題ない。仕事が終わったあとにアノンのやつがやってきて、とりあえず1日目が無事終わったことに乾杯をした。
「しっかし、アノンの言う通りどのクラスも酷い有様だったな。完全に学級崩壊していたぞ」
「そうじゃろう! 学級崩壊が何かはよく分からんが、あれでは真面目に魔術を学びたいと思う者にとっては害でしかないのじゃ……」
「まあ、子供は周りがふざけたり、やる気がなかったら同調してしまうものだからな。というか、そうなった原因は教師の質の悪さが結構な原因だったと思うぞ」
「やはりそうじゃろうな。そっちの方も新しい教師を探しているところじゃから、もう少し待ってほしいのじゃ」
どうやら一応は新しい教師を探してくれているようだ。まあ、俺に頼る前から探していたらしいからな。こればかりは俺がどうこうできる問題じゃないからアノンに任せるとしよう。
「とはいえ、真面目に魔術を学ぼうとしている者もそれなりにはおるぞ。他の生徒はどうじゃった?」
「……そうだな。確かにこんな状況でもちゃんと魔術を学ぼうとしてくれている生徒がいるのは実に喜ばしいことだ。まあ、爵位だの家名だの持ち出してくる寝ぼけた生徒の方が大勢いたけれどな」
あれから2つのクラスの授業をした。最初のクラスでは、やはりと言うべきかシリルが優秀であったし、最初はおどおどしていたが実戦では力を見せてくれた平民の特待生であるメリアなど、やる気がありつつも優秀そうな生徒はいた。
……ただし、他のクラスにもゲイルのように爵位だの家名だのを持ち出して散々反発していた生徒はそれ以上だった。まったく、そういうやつらを付けあがらせるから、他の生徒も調子に乗ってしまうんだぞ。
「それにしても、今日だけですでに10に近い苦情が学園に来ておるらしいぞ。一体どんな授業をしたのじゃ……?」
「ああ、あまりにも教師をなめた態度だったから、模擬戦で実力を見せただけだ。心配しなくても怪我人は出さないし、それぞれの生徒にちゃんとアドバイスをしてやっているぞ」
他のクラスもBクラスと同様にあまりにも酷い態度だったから、同じように演習場の模擬戦で3人ずつ相手をして生徒の情報を集めつつ、俺の実力を見せた。
「まあ苦情が来たところで、ギークの名前が入った王印のある書類を見せたら、どいつもこいつも一発で黙るじゃろうし、明日が楽しみじゃ! くっくっく、連中はどうして臨時教師如きにこれほどの権限が与えられているのか不思議でしょうがない顔をするじゃろうな!」
上機嫌に話すアノン。
きっと今まではそういった輩からの苦情を逐一対処していたんだろうな。そりゃ胃も痛くなるってものだ。
「とはいえ、今日の授業はまだ序の口じゃぞ。明日は例の特進クラスがあるからのう」
「ああ、わかっているよ」
この学園の1年生のクラスはA~Cの3クラスに加えて、Sクラスといういわゆる入試で優秀だった特進クラスが存在する。A~Cクラスは実力順というわけではなく、同じくらいのレベルとなるよう均等に分けられている。
Sクラスの人数は10人ちょっとだが、面倒なやつらが揃っているようだ。実力や家柄なんかもあるからタチが悪いらしい。
「例の
そう、そのSクラスにはなんとこの国の第3王女が所属している。
何せこの国の王族だからな。伯爵なんかとは比べ物にならないほどの権限を持っているわけだ。さて、どうなることやらな。
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