第32話 学友


「エ、エリーザ第三王女様!?」


「ふえっ!?」


「っ!?」


 エリーザとソフィアが俺の研究室へ入ってくると、3人はとても驚いて座っていた椅子から立ち上がった。


 どうやら3人ともクラスは異なるがエリーザのことは知っているらしいな。


「エリーザ= バウンスと申します」


「ソフィア= クレダだ。姫様の護衛兼メイドをしている」


 2人が3人に向かって会釈をする。


「今日から私たちもギーク教諭の勉強会に参加させていただきたいと思います。皆様、どうぞよろしくお願いいたします」


「よろしくお願いします」


 ふむ、どうやら平民特待生であるメリアやベルンにも横柄に振る舞う気はないみたいだな。ソフィアの方は少しだけ大丈夫か心配したが、問題ないみたいだ。


「シ、シリル=ラクシエルと申します。あの……大変失礼ですが、この国の第三王女様であるエリーザ様がどうしてこのような小さな研究室へいらっしゃったのでしょうか?」


 うん、確かにそう言いたくなるシリルの気持ちは分からなくもないが、小さなは余計だぞ。


「初めまして、シリルさん。本日のギーク教諭による防衛魔術の授業を受けて、深く感銘を受けました。ギーク教諭にいろいろとご教授願いたいと思いまして、こちらの勉強会にお邪魔させていただきました。それと、シリルさん。私に様付けは不要ですので」


「は、はい!」


 さすがのシリルも相手がエリーザだけあってめちゃくちゃ畏まっている。


「先に言っておくが、少なくともこの場では身分なんて配慮するつもりはないからな。この勉強会に参加する者は全員平等に扱うぞ」


「もちろんです、ギーク教諭。そういうわけですので、皆様も私のことは同じ魔術を学ぶ、いち学友として接していただければと思います。むしろ皆様の方がこの勉強会の先輩となりますので、いろいろと教えてくださいね」


「……よろしくお願いします」


 ふむ、エリーザの方は問題なさそうだ。俺の時も最初から名前で呼ぶことを許していたし、彼女はあまり身分にこだわりのようなものはないらしい。


 どちらかというとソフィアの方が心配だが、俺に不遜な態度を取ったことをだいぶ反省していたようだし、同じことを繰り返さないことを祈るとしよう。


「メメメ、メリアと申します! ここ、こちらこそよろしくお願いしま!」


「ベ、ベルンと申します!」


「メリアさん、ベルンさん、よろしくお願いしますね」


 3人の方は第三王女のエリーザがどうしてここにいるのかまったく状況が飲み込めていないようだ。特にメリアは緊張しまくっているな。誘拐事件のこと自体を秘密にしてもらっているし、授業で見せた魔術に感動してこの勉強会へ参加を希望したということにするしかない。


「とりあえず、まずはみんな座るといい。エリーザとソフィアは空いているそこの席に座ってくれ」


「はい、わかりました」


「了解です」


 エリーザの登場に驚いて3人も立ち上がってしまったからな。まずは全員に席へついてもらう。


「さて、この勉強会について簡単に説明しておくが、特に何をするのも自由だ。別にノルマなんかはないし、参加したところで成績に加点されるわけでもない。基本的には各自で勉強してもらいつつ、質問があればその都度順番に答えている。質問については防衛魔術に限らなくていいぞ。基本魔術や魔術薬学とかでも問題ないからな」


「ギーク教諭は防衛魔術以外のことでも教えられるのですね」


「エリーザ……さん、ギーク先生は専門の教師でも答えられないような知識を持っております」


「そうなのですね、さすがギーク教諭です! 教えていただきありがとうございます、シリルさん」


「い、いえ! 勿体ないお言葉です」


 さすがにそう簡単には同じ学友として接するのは難しいか。まあ、この国の王女なわけだしな。少しずつ仲良くなることを祈るとしよう。


「ギーク先生、防衛魔術の実戦演習のようなことはできないのだろうか?」


「そうだな、演習場を借りるのには申請が必要なこともあって、これまでこの勉強会ではしていなかった。だが、ベルンからも授業の時のような実戦を想定した演習の希望はあったし、そちらも考えてみよう。週に一度くらいは演習場での勉強会にしてもいいかもしれないな」


「なるほど。ぜひ、お願います!」


「ぼ、僕からもお願いしたいです」


 ベルンは国の騎士を第一志望に目指していることもあって、戦闘の訓練を積みたいようだ。確かに安全に戦闘訓練をすることができるあの演習場は便利だからな。


 ソフィアも護衛の腕を磨きたいと言うことだし、実戦訓練を取り入れるのはありだ。


「あと時間は基本的には17時までだ。そんな感じで、堅苦しい授業ではなく、自由に自分の好きなことを学ぶための勉強会といった感じだ。なにか聞きたいことがあるのなら、その都度聞いてくれ」


「承知しました。改めまして、これからよろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


 エリーザとソフィアが頭を下げる。


「ああ、こちらこそよろしく頼む」


「「「よ、よろしくお願いします!」」」


 全員で改めて礼をする。うむ、こういったことは大事である。


「そういえば、Sクラスで他にエリーザと一緒にここで学びたいという者はいなかったのか?」


 大勢連れてくるのは勘弁してくれとは言ったが、数人くらいはついてくるものかと思っていたのだがな。

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