第53話 異常事態


 あれからさらに4日が経ち、セラフィーナ伯爵家からは特に何の動きも見られなかった。俺が学園外に出ても、先日の警告が効いたおかげか、尾行者の影はなかった。


 このまま向こうから自主退学しなければ、イザベラは退学処分となる。


「さて、本日は課外授業として前回と同じ場所へ向かう」


 本日はBクラスの防衛魔術の課外授業の時間だ。もちろんイザベラの件が解決するまで、学園外へ出る際には細心の注意をはらっている。


 学園外に出るこの授業が狙われることのないように、平日はあまり買う物がないのにあえて街中や人気のない場所を回っているのだが、今のところは実力行使をしてくる様子はない。


 事前に下見もしたし、昨日のCクラスの防衛魔術の課外授業でも特に大きな問題は起こらなかった。


「ふん、さっさともっと強い魔物が出てくる場所にいきたいものだな」


「そうですよね、この辺りの魔物は大したことがありませんよ」


「俺達なら余裕ですよね」


 現地へと向かっていると、ゲイル、ハゼン、クネルがそんなことを言う。


「まだ2回目なのだから、そう焦るな。心配しなくとも3人ともちゃんと力を付けている。今回が問題ないようなら、もう少し強い魔物の出る場所に少しずつ変えていくつもりだ」


 エリーザとの模擬戦に負けたあともめげることなく自分を鍛え続けているゲイルの姿勢には感心するが、焦り過ぎるのもよくない。なにせこの異世界では一瞬の油断で命を落とすこともある。


 日々の授業はともかく、実際に命のある魔物と戦う時にはそれ以上の警戒が必要だ。




「……ちっ、こんなものか」


「ゴブリンやコボルト程度じゃ相手になりませんよね」


 3人が魔術で魔物を倒す。


 相変わらずこのクラスでは上位の魔術の腕かつ、実戦経験も豊富なようで、襲ってくる魔物に詠唱破棄した魔術を的確に当てていく。確かにこの3人ならもっと強い魔物が相手でも大丈夫だろう。


「ウ、ウインドランス!」


「ゲギャア……!」


「ふむ、威力も十分だ。よくやったな、メリア」


「は、はい……」


 対してメリアの方は今回も襲ってくるゴブリンを前に固まってしまったので、俺が防御魔術を張り、そこから魔術を放ちゴブリンを倒した。


 落ち着いて魔術を構成すれば威力と速度は十分なのだが、どうしても人や魔物と向き合って正面から戦うということが苦手なようだな。メリアもそれがわかっているのか、褒めたにもかかわらずに浮かない表情を浮かべている。


「大丈夫よ、メリア。すぐに慣れるわ」


「シリルの言う通りだぞ。こういうのは場数だから、何度も経験すればそのうち慣れてくる」


「は、はい!」


 シリルの方は前回の経験もあってか、今回は恐れることなく襲ってきたゴブリンに対して問題なく対処することができた。


 魔物と戦うのは経験だ。本気の敵意を持って襲ってくる魔物が怖い気持ちは俺も痛いほどわかる。俺も最初はビビり散らしていたからなおさらだ。


「よし、今回はひとり2回ずつ魔物を倒すことができた。次は場所を移すか、クラスを分けるかもしれないからな」


 今回は前回の経験もあって、ひとり2回ずつは戦闘を行うことができたので十分だ。やはり演習場で行う模擬戦も大事だが、多少は魔物との実戦経験はあった方がいい。害獣である魔物も減らすことができて一石二鳥だろう。


 この森にももう少し大きな魔物はいるのだが、今回はあえて探索の魔術で小さな魔物を狙ってきた。ゲイルたちはゴブリンやコボルトを相手にした経験もあるようだし、今度は他の魔物を相手にさせても大丈夫だ。


 そして数人ではあるが、メリアのようにまだ魔物と戦うのが怖い生徒も数名はいるようだし、希望性で課外授業をする班を分けてもいいかもしれない。生徒によって得意不得意はあるわけだし、それを同じクラスでまとめるのも難しい。少し強い魔物がいる場所へ行く班をクラスとは関係なくわけた方がいいだろう。


「さて、それでは学園へ帰るとしよう」




「……むっ、ちょっとそこで止まってくれ」


「ギーク先生?」


 森から学園へ帰る際、森の中で少し嫌な雰囲気を感じて立ち止まる。明確に何がというわけではないが、森の様子が少しおかしい。


 パチンッ


「やはりか……周囲に生物や魔物の反応が普段以上に増えているな」


「ええっ!?」


「……どういうことだ?」


 メリアが驚き、ゲイルが尋ねる。


 先ほどからの探索の魔術でも少し思っていたのだが、昨日のCクラスの課外授業の時よりも付近にいる魔物の数が多かった。先ほどまでは数が多かったとはいえ異常という数ではなかったが、課外授業を終えて森の奥から学園の方へ戻る際にはその数が普通ではないことに気付いた。


「森で何か異常が起きている。魔物の数が多いだけなら問題ないのだが、ひとつ気になることがあるな。そのままそこで待っていてくれ。命の波動を辿り、その姿を我の前に示せ、サーチ!」


 探索の魔術を完全詠唱で構成し、なおかつその範囲を一定の方向へ絞った。方向を絞ることで、その分距離を延ばすことが可能である。

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異世界転生した元教師、【臨時教師】として崩壊した魔術学園を救う。〜クソガキ&無能教師&モンスターペアレントはすべて排除する!~ タジリユウ@カクヨムコン8・9特別賞 @iwasetaku0613

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