第20話 デート(?)


「………………」


 ドアを開けると、そこには金髪碧眼の少女がいた。この学園の学園長であるアノンである。いつものローブにとんがり帽子ではなく、普通のワンピース姿だった。


「むっ、何じゃその顔は! 可愛らしい妾とデートをするのがそんなに不服か!」


「いや、不服というわけではないが、ぶっちゃけ休みの日くらいゆっくりと好きな魔術の研究をしていたいんだが……」


 というか、自分で可愛いとか言う100歳越えのエルフってどうなんだろうな?


「……この魔術バカめ。どうせギルのことじゃろうから、平日もまだ街には出ていないのじゃろ。久しぶりに訪れたこの街を一緒に回ってみるのも良い気分転換になると思ったのじゃがどうじゃ?」


「ふむ……」


 言われてみると、この学園を卒業してからは別の街に移動したこともあって、この街へ来たのはかなり久しぶりだ。この10年間で街がどう変わったのか、多少は気になる。


 臨時教師となってから少し経って、アノンも忙しい中、俺に気を使って誘ってくれたのだろう。


 思えばこの5日間はかなり忙しかったな。研究で缶詰めになる忙しさとは異なり、精神的にいろいろと大変だった。前世ではかなり人と関わっていたが、この異世界では研究第一であまり人と関わっていなかったせいもある。


「確かに久しぶりに街を回ってみるのもありだな。よし、準備をするから少しだけ待っていてくれ」


「うむ、わかったのじゃ!」


「準備オッケーだ。それじゃあ行くか」


「お主、本当にその格好で行く気か……」


「ああ。やはり、外に出る時は白衣だろ」


 私服の上に白衣を着る。やはり白衣を着ていると落ち着くな。


「デートで白衣を着ていく男がどこにおるのじゃ!」


「いや、デートって……」


 アノンと並んで歩いても、親子で歩いているようにしか見られないと思うぞ……


 ちなみにエルフという種族がみんな少女の姿というわけではない。エルフという種族は若い頃は普通の人族と同じように成長し、個々の成長限界が来るとそのままの姿で長い年月を過ごす。そして一定の時期を過ごすと少しずつ老いた姿になっていく。


 アノンのやつは普通のエルフよりも成長限界が小さい姿なだけだ。こんな見た目をしているけれど、戦闘能力だけで言えば俺よりも強いからな。




「おお、確かにこの通りはだいぶ懐かしいな。あちゃあ~あのパン屋はなくなっちゃったのかあ……」


 アノンと一緒に学園都市の通りを回る。この辺りは俺が学園の生徒だったころ、息抜きによく来ていた店の通りだ。残念ながら俺がよく通っていたパン屋は潰れてしまったらしい。


 ちなみに結局白衣はアノンのやつに許可されなかった。白衣を着ていないと落ち着かないんだよな……


「この学園都市も昔とはだいぶ変わったからのう。大半はギークの発明した魔道具などのおかげじゃ」


「ふむ、それは何よりだ。やはり便利な魔道具は生活を快適にするからな」


 街中では俺のことはギークと呼んでもらっている。昔の知り合いはほとんどいないと思うが、俺が学園で臨時教師と知られると色々と面倒だからな。


「ほう、この魔石はだいぶ安い。やはり10年前とは物の価格も多少は変動するものだな。おっ、あっちの店には珍しい素材が売っているぞ!」


「……デートでこういった店を回るのはギークらしいのう。まあ、お主が楽しんでくれているようで何よりじゃ」


 今日は基本的に俺が行きたいところにアノンが案内してくれる感じだ。懐かしの通りを歩いた後はいろんな素材が並ぶ商店を回っている。学園都市であるこの街にも冒険者ギルドがあり、魔物の食材や素材なんかが並んでいる。


 俺の場合は研究や魔道具作りに必要な素材は多少高くても馴染みの商店で一括購入しているが、こうやっていろんな店を回って掘り出し物を探すのも楽しいかもしれない。




「俺ばかり楽しんでしまって悪かったな。久しぶりにこの街を回れて楽しかったぞ」


 学園都市のいろんな場所を回り、今はアノンのおすすめの食事処で昼食をとっている。学園長になってから日が浅いアノンは休日も仕事があるようで、食べ終わったら学園へと戻るようだ。


「それはよかったのじゃ。ギークには早速一仕事してもらったからのう。ここは妾の奢りじゃから、好きなものを好きなだけ食べるのじゃ」


「いや、俺の方こそアノンには早々に世話になったからな。今日は俺が出すよ」


 俺が臨時教師になってから3日目に一気に5人も退学処分だからな。それにそのうちの1人が侯爵家だ。俺の名前を出したとはいえ、学園長としていろいろと処理をしてもらった。


 もちろん俺もアノンもお金に困っているわけじゃないけれど、親しい仲だからこそこういうのは大事だ。


「それに今日はデートなんだろ? それなら男の俺が出すのが当然だ。大人しく奢られろ」


「……ギルはそういうところがずるいのじゃ」


「おい、ここではギークで頼むぞ!」


 顔を赤くして背けながら俺の名前を呼ぶアノン。自分からデートと言っていたくせにな。


 まあ、なんだかんだで久しぶりに街を回れて楽しめた。やはり気分転換は大事である。

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