第14話 ギル大賢者【ガリエルSide】


「……ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!」


 あの臨時教師に対する怒りと、あいつに食らった魔術の痛みが身体を襲うような感覚がして、どうしても眠れない。


 バウンス国立魔術学園の学園長の前に引き渡され、悪質な魔術の行使という理由で退学処分を宣告された。あの臨時教師は衛兵に引き渡すと言っていたが、マルセーノ侯爵家の長男である私が連行されることはなく、すぐに家の者が迎えに来た。


 当然だ、私はマルセーノ侯爵家長男なのだからな!


 すでに父上に退学処分の撤回と臨時教師のクビ、平民特待生2人の両親の職場に圧力をかけてくれるようお願いした。すぐに私の退学処分は撤回され、臨時教師はクビとなり、平民特待生も家族ごとも粛清されるだろう。


「あの特待生どもはまだいいとして、あのギークとかいう臨時教師だけは絶対にクビではすまさぬ!」


 高貴なる侯爵家長男である私の顔を平民が殴り、何度も魔術で殺されかけた。そんなことは絶対にあってはならないことだ! 必ず殺してやる!


 こっそりと闇討ちするか? ……いや、悔しいがあの臨時教師の魔術は私のものよりも遥かに上だ。詠唱破棄に加えて、あの魔術の構成速度と3人同時の攻撃魔術を防いだ防御魔術。


 ……だが魔術師である以上、奇襲による襲撃や毒殺には弱いはずだ。私は直接知らないが、父上にはそういった暗殺者の伝手があると聞いたことがある。そうだ、父上が帰ってきたら、暗殺者を雇えないか聞いてみよう。


「むっ、父上が帰ってきたようだ」


 先ほどまで静かだったのに下の階から物音が聞こえた。


 よし、早速父上に進言するとしよう。




「父上、お帰りなさいませ。あの臨時教師についてですが――がっ!?」


 ……なんだ、何が起きた?


 口元からは血が流れ、鉄の味がする。背中にも壁へぶつかった衝撃が今も残り、目の前には興奮した父上がいた。


 まさか、私は父上に殴られたのか? 父上に殴られたことなど、これまで一度もなかったのに……


「ガリエル、貴様は一体何をしでかした!」


「ち、父上……?」


「答えろ、ガリエル! 貴様は一体誰に何をしたんだ!」


「さ、先ほど話した通り、私が学園で平民の臨時教師に暴力を振るわれ、殺されかけました……」


 思考がまったく追いついてこない。なぜ私は父上に殴られたのだ?


「ちっ……ということはやはりその臨時教師に関わりがあるのか? 平民ごときにそんなコネが? くそっ、なぜこんなことに……」


 いつも冷静で、貴族らしい振る舞いをしている父上が酷く取り乱している。


「ち、父上、いったい何が……」


「先ほど我がマルセーノ侯爵家に対して取引をしているすべての大手商会から通達があった。ある条件を飲まなければ、これまでにが作り上げてきた魔術特許及び、魔道具の販売と使用が我が領地で今後すべて停止されるとな!」


「んなっ!?」


「貴様のような愚息であってもギル大賢者の名は知っているだろう! この国で魔術師の最高峰の称号である賢者、その賢者の中でもたった3人しか選ばれない大賢者の称号を取得した魔術師様だ!」


 当然私でもギル大賢者は知っている。むしろ、魔術師でその名を知らぬものなどいないと断言できる。


 表舞台には出てこず、その正体はほとんど謎に包まれているが、これまでに数々の便利な魔道具などを開発し、魔術理論を組み立ててきたこの国の英雄だ。


 この屋敷にある灯りやトイレ、調理道具まで、様々な場所でギル大賢者の発明が使われている。


「魔道具、ポーション、魔術を使用した作物の栽培方法に至るまで、現代ではギル大賢者の開発した物なしに快適な生活を送ることは不可能と言っていいだろう! もしもそんなことが起これば、我がマルセーノ領は破滅だ!」


 嘘だ……


 どうして平民の臨時教師ごときが我がマルセーノ侯爵家を相手にそんなことができる?


 侯爵家よりも上の王族……あるいはギル大賢者本人に直接何らかの関わりが……?


 いや、あんな平民の臨時教師がギル大賢者と関わりなどあるわけない!


「……ふう~私としたことが取り乱したな。落ち着け、まだ大丈夫だ。その条件を飲めば問題はない。多少は我がマルセーノ侯爵家の評判は落ちるだろうが、それくらいなら安いものだ」


「そ、その条件とは……」


「ガリエル、貴様の爵位継承の剥奪と国外追放だ」


「んなっ!?」


「ちょうどバウンス国立魔術学園からの退学処分が出ていたな。それを理由にマルセーノ侯爵家からの勘当と国外追放を公表しよう。ふう~次男のダリエルがいてくれたのは不幸中の幸いだったな」


「ち、父上! まさかこの私を見捨てるのですか!?」


「当たり前だ! これまで貴様が多少の問題を起こしても揉み消してきたが、これほどの大問題を引き起こすとは思わなかったぞ! くそっ、最後まで私に面倒をかけおって……おい、さっさとこいつを拘束しろ!」


「ち、父上! どうかご慈悲を!」


「もはや貴様とは父と子の関係ではない! さっさと連れていけ!」


「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だああああ~!」




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ここまでお読みいただきありがとうございます(o^^o)

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