第12話 犯罪行為
「ぐううう、熱い!」
上半身裸で両腕を後ろに拘束された男子生徒の目の前には火の魔術で出現した巨大な火の玉が浮かび、男子生徒の肌を激しく熱して消えていく。
「よっしゃあ、今のは俺の勝ちだな」
「馬鹿を言え! 絶対に俺の魔術の方が大きな悲鳴を出させたぞ」
「ああん、今の俺の火の魔術の方が悲鳴は大きかっただろ! ガリエル様、どちらの勝ちですか?」
「そうだな、ヨナスの時の方がバラクよりも大きかった。この勝負はヨナスの勝ちだ」
ガリエルと呼ばれた顔立ちの整った少年が読んでいたパラパラと本を捲りながら、興味がなさそうに答えた。
「よっしゃあ! 前回の人間的当ての借りはこれで返したぜ!」
「ちぇっ、今日は俺のおごりかよ……おい、てめえのせいだぞ!」
「げほっ!」
バラクと呼ばれた少年の拳が上半身裸の男子生徒の腹に突き刺さる。
「バラク、ちゃんと服の上からは見えない場所にしておけ」
「はい、もちろんわかっています。おらっ、おらっ!」
「がっ、ぐっ……」
バラクが男子生徒の腹を何度も殴る。男子生徒の腹には火傷の跡と殴られてできた青い内出血の跡ができていた。
「うう……どうしてこんなことを……」
そしてこの部屋にはもう1人の生徒がいた。
男子生徒のように拘束はされていないものの、この女生徒も男子生徒と同様に上の制服を脱がされた状態で、両腕で下着を必死に隠そうとしている。その両目からは涙が流れていた。
彼女のお腹にも青い内出血や火傷の跡が残っている。
「どうしてか……?」
ガリエルがパタンっと読んでいた本を閉じて立ち上がり、泣いて怯える女生徒――メリアの前に立つ。
「単なるゲーム、あるいは暇つぶしといったところだ。特待生だかなんだか知らないが、我ら高貴なる貴族と平民ごときが同じ学園で学ぶなどとは虫唾が走る。貴様らが3年間耐えるのか、自主退学するどちらが早いのかを試しているだけだ」
「そ、そんな理由で……」
「ふっ、せいぜい平民は我々貴族のおもちゃになって楽しませろ。前みたいに教師に助けを求めても構わないぞ。どうせ我がマルセーノ侯爵家に逆らえる者など誰もいないからな。前回は軽い罰ですませたが、次は貴様の両親の職を奪うとしよう」
「きゃあっ!」
ガリエルが無詠唱で氷の魔術を構築すると、15センチほどの氷の礫が生成され、メリアの腹へと撃ち出された。
「ちっ、無詠唱だとここまで威力が落ちるか。ああ、もうひとつ理由があったな。貴様らでも魔術の的や実験台くらいにはなれるだろう。それが嫌ならさっさとこの学園から去るがいい」
「ううう……」
メリアは腹へ受けた痛みでその場にうずくまる。
「も、もうやめてくれ……」
「おまえは黙っていろ!」
それを止めようとした男子生徒の腹をヨナスがさらに殴る。
「ぐあああああ!」
「お願いします……もう許してください!」
ガラララ
男子生徒と女子生徒の悲鳴が再び教室内に響き渡ったところで、備品室の扉が開いた。
――――――――――――――――――――
「ちっ、なんでここに臨時教師がいるんだよ!」
「見張りのロッフとルイスは何してんだ!」
「………………」
備品室の中は端に多くの備品が積み上げられていた。
そして部屋の中央には上半身裸で怪我をしている男子生徒と、上半身が下着姿で泣いているメリアがいた。
俺は教師として本当に未熟だ。昨日の彼女のSOSに気付けなかったのだから。
「ギーク先生でしたか。彼らとは合意の上で遊んでいるだけですよ。先生が気にするようなことは何もありませんので、お引き取りください」
「………………」
ガリエルの言葉を無視して俺は備品室の中に入る。
パチン、パチン
「えっ、傷が!? それに鎖も!?」
「わ、私も痛みが……」
魔術を使ってCクラスの男子生徒であるベルンとメリアの怪我を治療し、拘束されていたベルンの鎖を断ち切る。
「メリア、気付いてやれなくて本当にすまなかった」
「えっ……」
驚いた表情をしているメリアに自分が着ていた白衣をかぶせてやる。
「話は聞いていましたか、ギーク先生。ほら、お前たちも言ってやれ。これはただのゲームだよな?」
「……は、はい」
「そ、そうなんです先生……これは私たちも同意したことで……」
ベルンは顔を背けながら、メリアは涙を流しながら、そう言う。
わかっている。こいつらの貴族の権力を盾に家族を人質に取られていることはすでに見張りをしていた2人から
「平民とちょっと遊んでいるだけですよ。臨時教師のギーク先生も余計な波風を立てない方が良いことはわかっているでしょう? ほら、わかったらさっさとここから出て――ふべっ!?」
「「ガリエル様!?」」
ガリエルの右頬を思いっきりぶん殴ったことで、ガリエルが後ろに吹き飛び、衝撃で積み重なっていた備品が落下した。
俺の方も身体強化の魔術を使用せずに思いっきり殴ったこともあって右手が痛い。とはいえ、俺が本気で身体能力強化の魔術をかけて殴ったら、こいつは即死していただろうから仕方がない。俺もこの状況で怒りを抑えられる自信はなかった。
「き、貴様……マルセーノ侯爵家の私に手を……」
「お、おまえ、今何をしたか分かっているのか!?」
「体罰じゃすまないぞ! 貴族に手を挙げたら処刑だ!」
「わめくな、クソガキども! いや、もはやお前らはクソガキじゃない。ただの卑劣な犯罪者どもだ!」
授業を妨害したり、権力を多少チラつかせるくらいならいい。だが、こいつらは魔術を悪用し、人の道を踏み外した。もはや更生の余地などない。
遊び、ゲーム、若気の至り、軽い気持ち? ふざけるな! 元の世界でも、学校の中で子供同士がやったことだからいじめという言葉を使っているのかもしれないが、これらはすべて犯罪行為だ。
いじめの加害者? 違うな、こいつらはただの腐りきった犯罪者どもだ。
平民だから、侯爵家だから? 理由や身分なんて関係ない。こいつらがやってきたことは人の尊厳を奪う卑劣な犯罪行為だ!
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