第22話 いい感じの二人⑸
あー、面白かったなぁ、お兄ちゃんの演劇。あの後の後夜祭でも、二人ともいい感じだったし。
もしかしたら、このままゴールインしちゃうかも……。
まぁでも、お兄ちゃんの好きな人と一緒になるのが一番だよ。そして、お姉ちゃんなんて呼んでからかったりして。
ふふ、何だか楽しくなってきた。
さて、どうやらふたりは先に帰ってしまったらしいし、あたしも帰るか。
最近は、あたし抜きで二人で帰る方が多い。
全く、お熱い事だ。そんなふたりに気を使い、適度に保温してあげる、できる妹しろはちゃんなのでした。
「ねぇ、しろはちゃん」
「え?貴方は……、相浦さん」
「よっす。さぎりんです!」
うーん、あたしはこの人のことが少し苦手だ。何も、性格が嫌いなわけじゃない。
ただ、この人の笑顔は綺麗すぎる。綺麗すぎて、作り物で、嘘臭い。
あたしだってそうだが…、いや、人間誰でもそうだが、この人ほど表裏が激しく感じる人は初めてだ。
まぁ、証拠が出るまでは私だってこうやって笑顔を張りつけていないと行けないんだが。
それともうひとつ、知っていることがある。お兄ちゃんは、この人のことが好きだということだ。
「何の用ですか?お兄ちゃんならもう帰ったみたいですけど」
「たはは、知ってる。だから、声をかけたの」
「お兄ちゃんには言えないこと……ですか」
「うん」
はぁ……。ロクな話ではないな。お兄ちゃんは優しい。甘いとも言えるほどに。
そんなお兄ちゃんに言えないってことは、そんなお兄ちゃんですら怒ってしまうことや、傷つけてしまうといことだ。
「実は私の事、不知火くんがその……」
「知ってますよ?お兄ちゃんは貴方のことが好きなんですよね?」
正確には好きだった、かも知れないが、明らかな好意を抱いていたことは知ってる。確かに、前述した通りこの人は可愛らしい……。
きっと、この人はお兄ちゃんにホントの自分をさらけ出してなどいないのだろう。
さらけ出していたのなら、こんなこと私に相談しに来ない。
「……え、えっと、その……うん。それで、貴方にお願いなんだけど……。佳奈ちゃんと不知火くんをくっつけてくれないかな?」
「……は?」
思わず本音が口をついて出た。覚悟はしていたが、ここまでとは……。
「待ってください、貴方はあれなんでしょ?そんなこと言うんだから、きっとお兄ちゃんのことが好きなんでしょ?だからそんな回りくどいことをしてお兄ちゃんを遠ざけようとしてるんでしょ?ならなんで告らないんですか」
「それは……、その……、わ、私も、不知火くんのこと好きだけど、佳奈ちゃんも好きで……、で、二人は今いい感じだからさ……。私、邪魔者なんだよ。だから、貴方に……」
「何言い訳してるんですか。結局のとこ、貴方はお兄ちゃんを傷つけるのが怖いんじゃないですか?そうでしょ。それなら、お兄ちゃんのこと派手に振れば良いじゃないですか。その方が、後腐れもないでしょ。お兄ちゃんは、自分を振った人を嫌うような人じゃないって、分からないんですか?」
臆病者なんて、あたしが言う資格がないのはわかってる。あたしもそうだからだ。だからこそ、臆病者の思考は理解できる。
「……ごめん。私、どうかしてたね!んじゃ、帰りますわ!じゃね!」
「……」
そう言うと、相浦さんは逃げるように走り去って行った。
やはり、あの人は弱いのだ。
お兄ちゃんを傷つけて、自分が傷つくのが怖いのだ。
でも確かに、お兄ちゃんには言えないな……。こんなこと言っちゃったら、きっとお兄ちゃんは傷つくだろう。
……ほら、私だって臆病だ。お兄ちゃんの周りの人間関係が壊れてしまいそうで、お兄ちゃんに嫌われるのが、怖い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます