第34話 修学旅行中編⑵
さて。俺たちは朝食を終え、二班に別れる。俺と春宮、西川と那月がダイビング、相浦と榎原、檜山たちはカヌー。このまま相浦と一緒にいては気を使ってしまう。そうなると、告白どころではないから、こんな言い方するのはなんだが…、目も届かないところに居てくれた方が、気が楽なのだ…。
先に港に備えられていた更衣室で着替え、俺たちは渡辺先生の元へ集まる。
「では、班ごとに集まってください。班長にはこの名札をつけてもらいます」
『はーい』
ちなみにこの班の班長は俺だ。名札を受けとり、首から下げる。ちなみにメンバーは春宮、西川、那月で、班番号は四班だ。
俺たちはとことこと港を歩き回り、やがて4と書かれた船を発見する。あれが俺たちの乗ることになる船だな。
「あれか」
「そうみたいね。早く行きましょ?」
「楽しみなのか?」
「まぁね。撮影で何度か来たことはあるけど、こうやってフルで遊べることはなかったもの」
「それもそうか」
まぁ、来たとしても仕事だからな…。それだとしても、俺たちの数倍の観光地などに赴いてるということは変わらないと思うが。
「私が皆さんの船を運転する、猪狩です。よろしくお願いします」
『よろしくお願いします』
4人ずつに、1人の船員がつき、船を運転し、ダイビングのポイントまで送って貰う。そして、俺たちを送ってくれるのが猪狩さんというわけだ。白髪混じりの、初老のおじいさんである。
俺たちは船に乗り込み、最後に春宮が乗り込もうとする。しかし、躊躇して乗り込めずにいた。春宮だ。
まぁ、仕方がない。ライフジャケットを来てるとはいえ、こいつは泳げない。船から降ちればほぼ真っ逆さまの、この状況が怖いんだろう。でも、何度も挑戦している。行く気はある、いや俺たちと行きたいのだ。ならば…。
「春宮、掴まれ」
「ん…!」
俺は春宮にすっと、手を差し出し、両手を広げる。春宮は覚悟を決め、手を持ちながら俺の胸に飛び込んできた。
「よし、頑張ったな」
「んふー」
「さっ、出発しますよー。椅子に座ってくださいねー」
『はーい』
船に備え付けられた椅子に座り、小舟が出航する。水しぶきが気持ちいい。
「全く、お熱い事だ」
「そうねー」
「別にいいだろ」
「んふー、助かった」
こてっと、春宮が那月に寄りかかる。那月は少し困った顔をしつつも、春宮の髪をゆっくりと撫でていた。
「綺麗な栗毛ね、きめ細かくて、羨ましい」
「ふふーん、モデルさんに褒めて貰えて光栄。シロイヌにも褒めてもらったの。でも、那月さんの髪もすごく綺麗だよ?」
「そんなこと知ってるわよ。にしても、やっぱり隅に置けないわね、不知火くん?」
「な、何を…!」
「ねー、春宮さん、不知火くんに好かれて嬉しいねー」
「ごろごろー」
「不知火が犬なら、春宮は猫だな」
「誰が犬だ誰が!」
「それもそうだな、お前は犬役だが、犬要素はないもんな」
その通りだ、犬扱いしてくるのは春宮だけで十分だ。にしても、春宮が猫か…。春宮に猫耳としっぽをつけて…。
「ご主人様、甘やかしてくれないと、違うとこ行っちゃうよ…?にゃ?」
なんて言いながら膝の近くでゴロゴロして、撫でると目を細めて「ふへへ…」と言って喜ぶ…。
何考えてんだ、俺!そもそも猫になった春宮の想像してるのになんで猫耳つけた春宮の想像してんだ!
「おーい、そろそろ着きますよー」
『はーい』
「着くってよ。ほら、こんな話やめだやめ!」
「じゃ、この続きは帰りの船でってことで!」
くっそ、まだ続くのか、これ!
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