第35話 修学旅行中編⑶
ぷかぷかと、春宮が波に揺られて浮かぶ。まぁ、それで楽しいのなら、それでいいんだが。
「では、皆さん。クラゲやオコゼには気をつけて!私も同行しますが!」
『はーい!』
2人が元気な返事をし、俺も準備をしながら返事する。ちなみに、西川は女子用の小型ボンベを付けている。まぁ、これかなり重いもんな…。
「ぷはっ、綺麗ねー」
「あぁ、さすが沖縄。まるで映画でも見てるようだ。こんなに沢山の色鮮やかな魚が居るなんてな…」
「おー、そうなのか。ほら、春宮、見えるか?」
「んー」
春宮がバタバタと手足を動かし、亀のようにひっくり返る。そして、水に顔をつけた。それを確認して、俺も少し潜った。春宮の方を覗くと、目を見開き、とても感激しているようだった。
すると、春宮はスイスイと輝く魚群を追いかけ、泳いで行った。アイツひとりじゃ不安だな。俺は3人に「ちょっと行ってきます!」と声をかける。
その時の俺は、聞こえていなかった。何か言いかけた、猪狩さんの言葉は、水音にかき消されて俺には届かなかった。
「…あいつ、早いな」
それなのに、俺も春宮に追いつくほど早く泳げる。なんなら、春宮よりも早く泳げる…。あぁ、そうか。潮の流れが早いんだ。…ってことは!
俺は急いで春宮に追いつき、ガシッと肩を掴んで状態を起こさせる。
「大丈夫か、春宮!」
「…はぁ、助かった」
「お前、潮に流されてたんだな…」
「ん…、バタバタしたんだけど、泳げなくて…。ライフジャケットがなければ、やばかった…」
確かに、これがなければ溺れてたな…。ライフジャケットの重要性を、俺は改めて理解した。しかし、そんなことをしてる間にも、潮に流されていく。すると春宮が、そこにある小島を指さした。あそこなら、行けるか!俺は春宮の手を引き、潮の流れから何とか抜け出した。そして二人でフラフラになりながら上陸する。結構危険な体験だな…。
「春宮…、大丈夫か…?」
「し、死ぬ…」
春宮はガスボンベを砂浜に置き、ライフジャケットを布団のようにして砂浜に倒れ込んだ。かなり疲れただろうな、慣れない水泳で、あんなことまで起きたんだから。
「なぁ春宮。お前が海が好きなのは分かってるけどさ、ここまで苦手なら、未経験でもカヌーの方が良くね?それに、向こうには相浦も、榎原も居るだろ?」
「別にいいでしょ。それに、西川くんも、那月さんも友達だし、それにシロイヌも…、いや、なんでもない」
まぁ、俺達も友達だからな。その割には、俺の事については言い淀んでいたけど…、その答えが、少し思い浮かんでしまった。それが自意識過剰でも、勘違いでも、今はいい。俺はただ、自信が、確信が欲しいのだ。
そんな俺とは裏腹に、春宮はウトウトとしている。全く、俺の気も知らないで…。どかっと腰を落とし、俺もボンベを降ろす。陸なら、意味もないからな。ただ重いだけだ。
「…?」
少し、手がチクッとする。割れた瓶か?いや、違う。砂利を掴んだような…、にしては少しトゲトゲしているような…。ふとその砂利を手を見てみる。その手の中にあったものは…、星の砂!?
「春宮!見てみろ!星の砂…!」
そこまで言ったところで、もう春宮は深い眠りについてしまったことを確認する。あんなに手に入れたがっていたのに…。それなら、サプライズでもするか。きっと喜ぶからな。
でも容器が…、あ。これ使うか。俺は水着のポケットから水泳帽を取り出し、その中に手当り次第の星の砂を入れていく。結構な数が集まった。ここは、結構な穴場スポットらしい。というか、俺たち以外に人気がない。もしかしたら、無人島なのだろうか。
少し探検…、いや、やめておこう。春宮が心配だ。あいつに目の届く範囲だけで行動するか。
ある程度星の砂と、おまけの綺麗な貝殻を集めたところで、俺たちを呼ぶ声が聞こえた。顔を上げると、小舟が猛スピードで向こうからやってきていた!西川たちだ!助けに来てくれたんだ!
「春宮、助けが来たぞ、起きろ!」
「…ふがっ」
どうやら起きる様子はない。なら担いで船にあげるか…。
「すみません!ご迷惑をおかけしてしまい!」
「いえいえ。無事で何よりですよ。そちらのお嬢さんは?」
「あ、寝てるだけです。今あげますから…、って、どうやってあげよう」
なるほど、乗る時は港からだったからな。さすがにこの高さまであげるのは無理だ。春宮は体重が軽いけれども…。
「今スロープ下ろしますね」
そう言いながら、猪狩さんはスロープを船から下ろし、船に乗るための坂が出来た。おぉ、これなら登れる。俺はそのスロープを使い、春宮をあげた後、2人分のガスボンベを運び込む。そしてそのまま出航した。
「全く、何があったの?」
「春宮が潮に流されてたんだ。で、それを助けてたらさっきの島が見えて、一旦上陸したんだよ。いつまでも海にいる訳にも行かないだろ」
「たしかにな。にしても起きないな、こいつ」
西川が春宮の頬を突っつく。すると、反射なのか春宮が西川の指を噛んだ。結構な勢いで。
「ぎゃー!」
「ぷふ!あんたちょっかい出して噛まれて涙目なんてだっさー!」
のたうち回る西川を、那月が馬鹿にする。そんな騒がしい状況でも、春宮は起きない。しかし、彼女の表情は少し和らいだ気がした。
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