第60話 トリック・オブ・ドリーム⑷
午後5時。ついに、ミスコンが開始される。
「トリック・オア・トリートメント!髪サラサラじゃなきゃ、イタズラしちゃうぞ!どうも!司会進行を努めさせて頂きます、相浦紗霧です!」
文化祭の魔女の衣装に身を包み、相浦が登壇する。なるほどなー、これじゃ、シナリオ通りには行かないわけだな。俺たちは、体育館の舞台袖で、演劇で使う証明に照らされてメイクをされている小島を眺めた。小島は階段に座らされ、その正面に姉ちゃんが膝立ちし、メイクをしている。まるで虫歯治療か、解剖のようだ。
「ほい、完成っと」
姉ちゃんが、ぽんと小島の肩を叩く。俺と佳奈も、小島の顔を見つめた。
『おぉ…』
「やっぱり、この若さだと自然なメイクがいいと思ってね。軽いものだけど、どうかな?」
「…ありがとうございます、私じゃないみたい…!」
「ほんと、似合ってる!」
佳奈がずいっと小島に急接近した。そして、これまたじっと小島を見つめる。余程メイクが気になってるんだな…。
「あ、あの、近いのだけれど…」
「ごめん、気にしないで」
「これで気にするなって方が無理あるだろ。ほら、離れろ」
「むー、わかった。はっ、そろそろ…」
そう、今は1組の番が終わったところだ。このミスコン、クラスで1人ずつ選出されるのだ。小島は2組、那月は3組の代表ということになる。まぁ、2組の代表である小島に3組の俺たちが主体となって協力しているのも変な話だがな。
「おーい、2組の方、準備万端ですかー?」
やはり、相浦が部隊側からヒョコリと顔を出して俺たちを呼びに来た。さて、俺たちは手にサングラスを持ち、準備は万端だ。
「えぇ、行けるわよ」
「では、よろしくお願いしまーす」
相浦が顔を引っこめ、「お待たせしましたー!」と大衆に呼びかける。そして、歓声が上がった。舞台袖から見る限り、2倍にはなったな、観客。
「2人とも、打ち合わせ通り、よろしくね!」
「おう」
「ん!」
元気そうな返事をしたが、こいつは大丈夫だろうか。しかし佳奈は俺の不安を払拭するように、堂々たる雰囲気を醸し出し、ゆらりと立ち上がった。
「では次の方は、品行方正焼肉定食!据え膳食わぬは男の恥だが、食わず嫌いは人の恥!みんな、彼女を思う存分知り尽くして味わい尽くせ!我らが生徒会長、小島真理!」
まるで、小島が人を選ぶゲテモノ料理みたいな。まぁいい。俺と春宮は、定位置につき、膝を着いて下を向いた。ひとつ気になるのは…。佳奈のサングラスがゲーミングに輝いていたことだ!
「え、佳奈!?」
「しー」
いや、しーではなく!ったく、これじゃ多分小島以上に目立ってる…。
「ご紹介に預かりました、小島真理です!よろしくお願いします!」
あくまでそれには触れないスタンスで行くのね…。さて、入場を終えたらアピールポイントだ。小島のアピールポイントは…。歌だ。
俺と佳奈は小島の後ろでバックダンサーとして踊ることとなった。と言っても、簡単な踊りだが。踊りが苦手な佳奈がいるし、なにより日数が少なかったからな。
ノリのいい音楽が流れ出し、小島が華麗なステップを踏む。そう、彼女歌も去ることながら、ダンスも得意なのだ。流石、相浦と張り合ってただけはある。まぁ、肝心の絵に関しては…。
「ありがとうございました!」
『うぉー!』
観客たちから、歓声が上がる。息の上がる佳奈に、「大丈夫か?」と声をかけると、「んっ…ふっ…」と、返した。汗ダラダラだが、ただ疲れているだけか。
「お疲れ様ですー、素敵な歌声でしたなー!」
「えへへ、ありがとうございます」
「いえいえ。さて、ボーカルも去ることながら、バックダンサーの方も素敵な踊りでした。インタビューさせていただきますねー」
「えっ?」
困惑する俺に、相浦がウィンクする。まぁ、相浦のことだ。あんまりなことや無茶振りはしないだろう、多分。って、佳奈にインタビュー!?俺じゃなくてか!
「あっ、えっと…、私たちは、シークレット・生徒会長・サポートサービス、SSSです。よろしくお願いします!」
「わお、かっこいい」
今度ばかりは、小島も動揺を隠せそうになかった。え、俺らってそんなかっこいい名前だったの!?まぁ、十中八九今ぽっと生えた設定だろうが…。
「以上、小島真理さんwithSSSでしたー!」
喝采に見送られ、俺たちは舞台袖に掃ける。カーテンをくぐった瞬間、俺は「SSSってなんだよ」と佳奈にボヤいた。
「なんか、かっこいいこと思いついたから。寝る前にぱっとね」
「ふふ、たしかにかっこいいけどね」
「寝る前って…、まぁいいや。にしても、那月すごい人気だな…え?」
あぁ、そういうことか。俺は、那月の言葉の意味が、ようやく理解できた。決定的な敗北とは、なんなのか。
確かに、ステージに那月はいた。しかし、制服姿のままだ。代わりに、ゴシック・アンド・ロリータ風の服に身を包んだ人物が隣にいた。
西川だ。西川にコスプレをさせ、小島を負けさせる。それが、那月のシナリオなのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます