第20話 いい感じの二人⑶

「春宮、あいつら付き合ったんだって」


「私も一緒に聞いたから知ってるよ」


「文化祭マジックってやつかなぁ……」


「何それ、出し物?」


 なるほど、こいつ文化祭マジックを知らないのか。まぁ恋すら知らなかったやつだからな……。無理もないか。


 とは言っても、西川の小説で言及しててもいいと思ったんだがな。


「簡単に言うと、文化祭で一緒に作業してたり、廻ってたりして、距離感が近づき、そのまま告白ってやつだ」


「ふむ……、それなら、私もした」


「へー、ん!?」


 待て待て、こいつ、もしかして榎原に…!?


 いや確かに、何度か俺と春宮は休憩時間別行動をしてて、その間のこいつの行動を把握出来ていた訳じゃないが!


 いやでもまさか!だってこいつら、朝普通に話してたじゃん!


 告白成功してたなら、さっきの二人みたいに仲良さげにしたり、意味ありげに目配せしつつ、「2人で回ろっか」とか言い出すもんじゃないか?


 それなら……。


「ご、ごめん……」


「この上なく失礼!」


「で、でもそういうことじゃないのか?」


「うん……、でも、言えない。言いたくない……」

 春宮は、うつむき加減に、顔を赤らめた。


 ……どっちだ?


 でも結果はどうあれ、とにかくこいつは、俺よりも先に行ってしまった。


 結局のところ、俺は臆病で、こいつは勇気を出して告白をしたということだ。


「春宮……」


「……何?」


 少し恨めしそうに、春宮がこちらを見上げる。さっき変な気遣いをしたのが気に障ったのか。


「俺、修学旅行で告白する」


 これは、決意表明だ。俺も、春宮のように勇気を出して、告白する。


「そっか。なら、私もお膳立てしないと……」


「そんなのいらない」


 キッパリと言う。これ以上、二人の時間を潰す訳には行かない。


「そっか……」


 しょんぼりと、春宮がまた俯いた。あれ、俺はてっきり春宮は榎原との時間が増えて喜ぶと思ったんだが……。


 てことはやっぱり、告白は失敗してたのか……?でも、本人には聞けないし……。それなら。


「で、でも、俺はお前とも回りたいな!ほら、前に海の絵、書いてただろ?沖縄といえば海だし、お前、海好きなんじゃないかなって」


 俺の言葉に、はっと顔を上げる春宮。そして、精一杯の笑顔を見せてくれた。


「うん、海大好き!」


 その笑顔は、とても眩しく輝いた。思わず、目を逸らしてしまうほどに。


「そんなお前の好きな景色は、きっと、綺麗なものだから、俺も見たいなって……」


「それはいいけど、でもいいの?告白、するんでしょ?」


「あぁ。2泊3日だし、自由行動も多いからな」


「そっか。浮気者だね」


「うっせ」


 からかいつつも、こいつの笑顔からは無邪気さが拭いきれない。


「そういえば、シュノーケリングとカヌー、選択だったな。どっちがいい……、ってのは聞くのも野暮か」


「シュノーケリング!ジンベエザメと戯れる……!」


「いや、無理だろ。サイズ的にも、確率的にも」


「夢がない……」


「てかお前、潜れるのか?クロールしかしてるとこ見た事ないぞ」


「あっ……」


 忘れてたのか。それだけ楽しみってことだよな。


「まぁ、もし溺れたら助けるよ」


「ほんと?」


「前助けたの、誰だと思ってるんだ?」


「確かに。じゃあ期待してるね、私の救世主さん?」


「救命士の間違いだろ」


「ふふ……」


 ニコリと笑う春宮。またグラりと天秤が動いた。あぁ、どうやら俺は移り気らしい。


 いや、浮気性か。だって、俺は相浦のことが好きなのに、こいつのことも……。


 もしこいつが振られていたなら……。


 やめだやめだ。こいつは、榎原が恋をしてしまうほど魅力的なやつだ。


 だから、お願いだ榎原。こいつを、好きでいてあげてくれ。でないと俺は、俺の心は、ふたつに避けてしまいそうだ。

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