第21話 いい感じの二人⑷

 10月2日。俺たち六人は机を合わせ、予定を決めていた。と言っても、店の廻り方や、昼食の場所などを決めるだけなのだが。


 どうやら、まだ沖縄は暖かいらしく、海も入れるらしい。となれば当然……。


「海行こう!海!」


「シュノーケリング以外にも、浜辺や浅瀬で遊びたい!」


「いいなそれ」


 班長の榎原が、意見を箇条書きにしていく。にしても、相浦の水着か……。スク水は前に見た。眼福だった。


 出来ればビキニでも着て欲しいのだが、明らか要求が変態的なので辞めておこう。


「前の水着、着てこよっか?」


 小声で、春宮が俺に話しかけてくる。前の水着というのは、川遊びの時の水着だろう。だとしたら……。


「いや、榎原との練習の時に使った水着がいい」


「ふーん、なんで?興奮しちゃうから?」


「違うよ。あの時お前、あの水着は俺だけにしか見せてないって言ったろ。俺は、お前のその水着姿を独り占めにして、優越感に浸りたいの。よくあるだろ?『自分しか知らない彼女』ってやつ」


「そっか……」


 それにあの水着、こいつに凄く似合ってたしな。それを独り占めにした優越感たるやない。


 まぁそれはさておき、今は相浦の水着だ。きっと相浦のことだ。


 動きやすいから、布地の少ないビキニを……、いや、動きやすさの観点で見ると競泳水着の可能性もあるのか?流石の俺もそこは管轄外だぞ……。



「なぁ、不知火。行きたい場所あるか?」


 そんな想像に耽っていたところを、榎原の声で引き戻される。行きたい場所か……。


 そう、俺は告白するんだ。なら、ムード作りって大切だよな。


 かと言ってニッチすぎる場所を選ぶと怪しまれる上に、却下される可能性が高い。ならば。


「美ら海水族館とかどうよ?」


「おー、美らね!」


 美らって略すのか……。


「いいんじゃない?てか私普通に行きたい」


「20周年を期にリニューアルしたと書いてあるな。2年前の話だが」


「私小学校以降行ったことないよ。行ってみよう!」


「うん、行こ!」


 全会一致で、美ら海水族館へ行くことが決まった。


 しかも2日目の自由時間の過半数を使って。それだけ時間があれば、告白の心構えも出来るだろう。


「なぁ不知火、ちょっといいか?」


「ん、どうしたんだよ、榎原」


「向こうで話そう。悪い、俺と不知火、トイレ行ってくるわ!」


 と、トイレ!?


 ……というのは、口実だろう。何だ、俺と話って。


 いや、別に榎原と話すことがないという訳ではなく、ただこいつが俺だけにしか話せないことがあるということが、今まで無かったのだ。


 こんなにみんながいる時に呼び出すことなんて、尚更。


「みんなの前でおトイレ宣言かい?いいよ行っといで!いや、行っトイレ!」


「今どき連れションなんてやらんだろ……」


「えー、連れションは男の友情、青春だよー」


「そんなものか?」


 そんな青春は嫌だ……。こうして俺たちは教室を出て、屋上の扉の前の階段にやってきた。そこに、榎原が座り、俺も腰を落とした。


「で、なんだよ」


「あぁ、実はな。この前……、文化祭の後に、春宮に告白されたんだよ」


「……そうか。あいつ、お前のこと好きだからな」


 あぁ、やっぱりな。告白したとなると、もうあいつの榎原への好意も隠す必要も無いだろう。


「それで返事は?」


 優しいこいつのことだ、きっと受け入れてくれたのだろう。良かったな、春宮。


「で、振られた」


「……え?」


「たはは、可笑しいよな、告白してないのに振られるなんてさ」


 いや待てよ。なんであいつが振るんだ。おかしいだろ。


「朝に、後夜祭で一緒に踊って欲しいって言われてさ。でも夕方、俺に謝りに来たんだ。それと同時に、告白された。『多分榎原くんへの好きは、友達としての好き。私は恋を知らなかった……』ってさ」


「後夜祭……?」


「あぁ、あの後お前と踊ってただろ?」


 それはつまり、榎原との約束を取り消してまで後夜祭で俺と踊ってたってことか……。


「え、えっと、それはつまり……」


「……これ以上は言えない。踏み込むのも、退くのもお前の自由だよ。じゃあ、戻ろうぜ」


 そんなこと言っても……、いや、そんな事を言われてしまったら、その気になってしまう。


 あいつは俺が……。その時、俺たちの絡み合っていた恋愛俯瞰図れんあいそうかんずが、偉くシンプルなものに見えた気がした。

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