第32話 修学旅行前編⑸

「たく、お前ら……」


「向こうにも中止の連絡はしといたけど……ん?なぁ不知火。春宮が居ないんだって。なんか知ってる?」


「さ、さぁ、知らないなー」


「そうか……。心配だな」


 春宮がこちらを見つめ、「隙を見て逃がして」と言う。無理言うなよ……!と、布団を深く被せる。


「なぁ、なんか変じゃね?不知火の布団、めっちゃ膨らんでる……」


「こ、これは……!膝を立ててるだけ……!」


「そうなの?なら立ってみ?」


 うぅ……、もう隠し通すことも出来ないか……。


 春宮に確認するように目を合わせると、諦めたように、こくんと頷いた。


 そして、掛け布団を開く。その中から、ムクリと春宮が起き上がってくる。


「わ、春宮!?」


「お前ここにいたのかよ!皆が心配してるぞ?とにかく、女子には連絡しとくな」


「ん……」


 春宮は、申し訳なさそうに呟いた。まぁ、変な詮索をされなくてよかった……。


「……で、二人はどんな関係で?」


 やっぱり詮索された!そうだよな、そういうのは気になるお年頃だよな!


「……えっと、なんかこいつ、肝試しがあまりにも怖かったらしくて、売店からの帰りに心細そうにしてたから、連れてきたんだ。そしたら、お前らが来たからバレるとまずいと思って……」


「なるほどな……、ったく、隠すことないのに」


「そーそー、あ、春宮。せっかくだからなんか遊ばね?」


「たしかに、その方が気も紛れるだろ」


「あ、それなら笑点やろうぜ!春宮は司会と山田くん役な!」


「幸い六人もいるわけだからな。じゃ、春宮、始めてくれ」


「……うん!」


 こうして、男子六人女子一人の大喜利大会が幕を開けた。


「こんな授業は嫌だ、どんな授業?」


 ふむ……、いざ何か出すとなると思いつかないな……。すると、西川が手を挙げた。


「西川くん」


 春宮に声をかけられ、今まで目を閉じていた西川の目が開いた。


「授業の半分が前回のあらすじ」


「ド〇ゴンボールか!」


「てか逆に羨ましいわ!」


 それぞれがツッコミだすが、西川の目はずっと春宮を見ていた。お前の答えが聞きたいのだとでも、言うようだ。


「ぷふ、面白かった。座布団一つ贈呈!」


 春宮は枕を西川に投げつける!な、何があったんだ、キレやすい若者か!?


「春宮。こんな大喜利は嫌だ…、座布団を投げつけて渡してくる!」


「第2R、枕投げの開幕だー!」


「シロイヌガード!」


「ふべっ!」


 こいつ、俺を盾に……!くそ、やったな!俺は顔面に張り付いた枕を手に取り、春宮に狙いを定めた!


「春宮!」


「うぉー、逃げろー」


「逃がすか!」


「佳奈ちゃーん、迎えに来たぶへ!」


 俺の投げた枕が、春宮を迎えに来た相浦に衝突する。迎えに来た女子が入れるよう、鍵を開けていたのだ。それを見た俺たちは、完全に膠着した。


「あ、ごめん……」


 ズルズルと、枕が相浦の身体を伝って落ちていく。そして、相浦が足元に転がる枕を、俺の方向に投げた!


「うぉー!さぎりん参戦だ!」


「相浦参戦!全員に継ぐ!相浦参戦!強敵だぞ!」


「まだまだ夜はこれからだー!」


 それから当然の如く、中西先生にドヤされ、二人は部屋に帰り、俺達も素直に静かにして寝た。

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