第38話 修学旅行後編⑴

 さて、本日は修学旅行最終日。

 俺たちは昼まで自由行動、その後各々で昼食を食べ、その後は空港に集合、点呼の後に飛行機で帰宅、という流れになる。昨日の分の自由行動は春宮の一件でなくなってしまったため、今日俺たちは美ら海水族館まで行くことになる。

「き、君たち?若者ゆえの止まらないリビドーはあるかもしれないけど、ここは学校行事だからね?せめて問題だけは起こさないでね?」

「すみませんでした…」

 渡辺先生が、俺たちに注意をする。うぅ、耳が痛い。

 別に若気の至りという訳では無いが、ここで下手に反論することもないので、素直に謝る。というか、話を拗らせたくない。

「ほんと、すみませんでした」

「ん。ごめんなさい、先生」

「うん、分かったならいいの。二人は今まで問題も起こして来なかったし、それに今日は最終日。思い出、作らないとじゃない?それなら、もう口うるさく言うのはやめ。ほら、楽しんでらっしゃい」

『…はい!』

 こうして、渡辺先生の説教は終わり、とんと肩を押されて俺たちは班のみんなの元へ戻る。

「あー、終わった?」

「おう。ごめんな、待たせた」

「いいよ。二人は青春してたんでしょ?それならそれも青春の1ページ!是非とも聞かせてよ!」

「そ、それは…」

 言えない。言えるわけない。しかしながら、春宮は「んー」と考え、ニマニマと笑いながら、とんでもないことを口走り出す。

「なんだっけ?士郎くんは、私のことを星の砂にしたかったんだよね?どんな時も、守るからって」

「春宮…?」

「その後、風呂に入り直しだって言って、私を風呂に連れ込もうと…」

「いや、連れ込もうとした訳じゃなく、お前が俺を砂浜に押し倒して汚れたから、俺だけ風呂に入ろうとしてただけで!」

「とにかく、私たちはラブとラブでラブラブなの」

「まぁ、それは間違っては無い」

 現に、俺はこいつのことが好きだし、好きでなかったら告白なんてしないし、好かれてなければそれを受け入れられなんてしない。その点に関しては、疑いはしない。

「おー、つまりおふたりはお付き合いをしてるんですね!?」

「その通り、もう手も繋いだ」

「なんと!ほんじゃもうラブラブだー!新婚さんいらっしゃーい!」

「いや、結婚はまだだろ」

 にしても、少し意外だった。相浦はもっと落ち込んでいると思っていたから…。安心した。でもなんか、いつも以上にテンションが上がってるような…。沖縄の熱気にあてられたのか。

「さ、こんなこと話してる間にも、時間は刻一刻と過ぎていく!開演は十時から、今は九時半!ほら、行くぞ!」

 確かに、俺たちはただでさえ昨日の件の話で出遅れてるのに、いつまでもこんなことしてる場合じゃないな。俺たちは駆け出し、「おー!」と叫んだ。

 そしてその五分後…。

「はぁ、はぁ、ちょっと待ってくれ…」

「相も変わらず体力ないわね…。筋トレしてんじゃないの?」

「ま、前よりは付いたろ!」

「んー?」

 俺は、一昨日のことを思い出す。こいつは確かに、かなりの早歩きで俺を引っ張って行った。でも今のこいつからは、その速さも、体力も、俺を引っ張って行く力も感じられないのだ。

 まさか、あの頃からもう…。

「どうかしたか?」

「い、いや…。何でもない…」

 ダメだ、恐ろしすぎる。もうこれ以上このことは考えないようにしよう。過ぎたこと、それでいいじゃないか。すると、つんつんと春宮がつついてきた。なんだ、かまって欲しいのか?

「なんだよ…」

「コレ見て、昨日言い忘れたけど、見つけたの」

 どうやらただかまって欲しい訳じゃないらしい。春宮は、俺の方にスマホを向けた。そこには、「沖縄の穴場心霊スポット」と書いてあった。そして、その一番上の画像に、何やら見覚えのある祠が写っているのが見受けられる。これまさか…。そして、概要の方に目を向ける。要約するとこうだ。「どうやら、ここに居着いている地縛霊が、仲良し男女二人組や、ダブルデート中の恋人たちをわざとペアで引き離してしまうという事件が相次いでいる。危害は無いが、霊はカップルが好きなのだろうか、それとも、2人の反応を楽しんでいるのだろうか」…、なんかその…。

「可愛らしい霊だったな…」

「ん…」

 要は、俺と春宮もそうだが、西川と那月のことも見物して、楽しんでいたのだろう。さて、本当にこの件に関しては終わりだ。さぁ、気持ちを切り替えよう…、と冷静になった瞬間、西川が大きな声で「あー!」と叫んだ。びくりと、肩を震わせて全員が西川に視線を向ける。

「あれ!あの牛の…!なんだ!」

「水牛車よ。雑誌で何度か乗ったわ」

「水牛車…、あれに乗ろう!あれなら無駄な体力を使わず…」

「あれすごく遅いの。だから、極力使わない方がいいわ。歩いた方が早いし」

 そう聞いても不服な様子の西川だったが、どうやら水牛の進むスピードを間近で感じたようで、「仕方ないな…」と呟いた。

「せ、せめて歩いていこう、走りなんて」

「あ、バス!あれ乗るわよ!美ら海水族館行くっぽいし!」

 その瞬間だけ、西川は幽霊の西川よりも、早くに動けていた。

「怠け者なのかそうじゃないのか…」

「私達も行こっか!」

「おー!美ら海水族館が俺を読んでるぜ!」

 そして赤信号にかかっているうちにバス停に移動して、乗ることに成功した。さて、このまま出発して、しばらくしたら美ら海水族館だな。それにテンションが上がったのか、バス内だと言うのに会話が尽きない。さすがに、俺たち以外に乗客は少なかったが。

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