第13話 起眞高校文化祭⑶
「あ、春宮さん。こんにちは。そちらの方は…、文芸部の方でしたか?」
「夏目先輩。こちら、不知火士郎くん。同じ文芸部で、クラスメイト」
「夏目愛萌です。よろしくお願いします」
「ご丁寧にどうも…」
前の廃部しそうになっていた一件の時、一度部室まで春宮に連れられていた先輩だ。
「どう?展示、上手くいった?」
「はい。おかげさまで」
「なにか手伝ってたのか?春宮?」
「ん。これを見てほしい」
春宮は展示を指さす。そこには、『味覚と化学』と書いてあった。
「かき氷のように、色や匂いだけで感じる味が変わってくるなら、他の料理でもそれと同じことができるんじゃないかと思ったんです。そこで、春宮さんと桜田さんに手伝ってもらって、この研究を進めていたんです」
「桜田さん?」
「おじさんのこと」
「あぁ、あの」
三者面談の時、渡辺先生に追われていたあの人か。すると背後から、何やらたこ焼きを二個持った青年が現れた。あぁ、おじさん…、桜田さんか。
「おーい、夏目さん。たこ焼き買ってきたよー」
「あ、ありがとうございます。はむっ…、熱々です…!」
「さっき、クレープ屋の売り子に会ってさ。なかなか美味しそうでね。店番変わるから、また行きな…、って、お…、佳奈ちゃん!?」
ニマニマと春宮に、ようやっと気がついた様子。ハムハムとたこ焼きを食べている夏目さんが、二人の間で顔を交互に眺めていた。マイペースな人だ。
「仲良さそうで何より」
「は、ははは。手伝ってるうちに、ね?」
「桜田さんには良くしてもらってます。とても、頼りになりました」
「へー?」
これ以上にない生き生きとした表情の春宮。全く、性格の悪いヤツめ。俺も気になるけど。
「というか、佳奈ちゃんこそ、男子といるなんて…!」
「この人は、同じクラスで同じ文芸部の不知火士郎くん」
「あぁ、この子が」
桜田さんが何やら俺をまじまじと見てくる。金髪と黒髪のメッシュということもあって、かなり威圧感がある。俺が言えた話じゃないが。
「佳奈ちゃんから聞いてるよ。良くしてくれてるって。部屋の掃除とか、ご飯の作り方とか、色々教えてくれてるんだって?俺としても助かるよ。これからも、仲良くしてあげてくれ」
「は、はい!」
「お、おう。いい返事だね」
さわやかに笑う、桜田さん。見た目で勘違いしていたが、案外気さくでいい人なのかもしれない。俺もそんな感じなのだろうか。
「あ、ごめん。少し…、ども、お疲れ様です。あぁ、なら迎えに…」
桜田さんは電話がかかってきたようで、そのまま科学室を出て行った。どう考えても廊下の方が騒がしそうだが、癖かなにかだろうか。
「俺らも行くか」
「うん」
「また今度、部室にも顔を出してくださいねー」
夏目先輩に小さく手を振られ、春宮も手を振り返す。こうして、俺と春宮は科学室を後にした。
「おじさん、若いよな。何歳くらい?」
俺の見立てでは、22歳。おじさんというからには、もう社会人だろう。
「いや、18歳」
「高校生!?」
「大学生。ああ見えて、結構頭いい大学通ってる」
「大学生!?」
想像以上に若かった!おじさんというか、お兄さんという感じだな。なんなら、姉ちゃんの方が年上だ。23歳、社会人。案外、優良企業に務められているようだ。
そんなことを考えていると、何やら春宮が袖を引いてきた。
「あれ」
「お、しろはだ」
少し声をかけようか。しろはも喜ぶだろう。
「おーい、徘徊ボス系妹」
「はいかわいいラスボス級妹!?」
「どんな耳してんだよ」
てかラスボス級ってなんだよ。
「ところで、クレープ屋行った?」
「あ、まだだ」
「行こう、すぐ行こう!以降の意向は移行して行こう!」
「お、俺はいいけど…、春宮、いいか?」
「だめ」
「ぶぇー!春宮先輩のドケチ!」
「そうだよ、春宮…って、あぁ!」
春宮のスマホには、10時08分と表示されていた。公演時間が迫っている。5分前には集合だから、あと二分しかない!
「ごめんしろは!俺ら、公演あるから!」
「そ、それなら仕方ないにゃー、絶対後できてよー?嘘ついたら10分間この服きて売り子してもらうかんねー!お兄ちゃんが」
「どんな拷問だよ!」
春宮じゃなくて、俺がかよ!メイド服で売り子なんて、絶対に着たくない!我が妹ながら、なかなかえぐめの要求をしてくるようになったな。これも成長なのだろうか。
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