第14話 起眞高校文化祭⑷
「よーし!4回目終了!」
あれから俺たちは大した失敗もなく、4回目の公演を終えた。残るところ、ラスト一回。サプライズコンサートがある分、春宮は緊張しているようだ。先程の演技には支障はなかったが、次回はどうだろうか。
「あ、士郎くん。それ…」
「あっ、やば…」
春宮が声をかけてくれたように、俺の衣装のズボンの裾が解れ、そこから亀裂が伸びていた。
「流石に、縫い治さないといけないな…」
「出番終わった俺と、ズボンを交換するとか?」
「…いや、すぐに終わるよ。この衣装作ったの俺だし、直ぐに縫ってくるから」
「5分前には戻れよー」
第一、アイツと俺では、足の長さが違うのだ。丈が余る。このままではズボンを引き摺ってしまうし、捲ったら見栄えが悪い。それなら、まだこのズボンを補強した方がいい。このくらいなら、すぐに直せるしな。
俺は被服室にやってきた。部長さんが、店番をやっているようだ。
「あれ、不知火くん。どうしたの?」
「じつは、これ、解れちゃって…」
「あらら、派手にやったね。あ、これ準備室の鍵。奥のミシン、使っていいから」
「ありがとうございます!」
俺は急いで被服準備室の鍵を開け、奥のミシンを立ち上げる。それとたしか、ここら辺に…、あった、余りの生地!これ当てて補強しよう!
10分ほどかけ、ズボンの見た目がほぼ元通りになる。うん、これなら良いだろう。
「うし…」
って!もうこんな時間!5分前だ!このままでは、演劇に遅刻してしまう!
「先輩!鍵ありがとうございました!」
「う、うん!演劇、頑張ってね!サプライズコンサート、見に行くから!」
「はい、是非!」
俺は踊らないんだが。きっと、那月目当てなのだろう。ファンらしいからな。部長にもう一度一礼し、俺は被服室を飛び出す。あれ、何だ、人が少ない?全員片付けに行ったのか?いや、店番の人は居るみたいだ。なら、一般生徒たちは…?
「あ!お兄ちゃん発見!」
「しろは?」
「春宮さんから連絡来たの!まだクラス帰ってこないって!ほら、早く行くよ!大変なんだから!」
「大変…?あ!」
まさか…!俺は、三階まで駆け上がる。そこは、俺たちのサプライズコンサートを人目見ようと集まった生徒たちでごった返していた!このままでは、間に合わない!
「お兄ちゃん!あたしが切り開くよ!みなさーん、通りまーす!」
「しろは…!ごめんなさーい!通りまーす!」
俺もしろはに続き、大声で呼びかける。しかし、少しずつしか進めない。こんな亀の歩みでは、いつ着くか分からない!
「ん、不知火くんじゃん。劇いいの?」
「桜田さん!実は、行かなくちゃいけないのにこの有様で…!」
そう、俺に声をかけたのは、桜田さんだ。しかし、その隣にいる白髪の男性は誰だろう。渋めの深緑のロングコートを羽織り、中には白色のシャツを着ている。目深に被った帽子から、俺をじろりと見つめた。思わず、萎縮してしまう。
「なるほど…、あの、この人がお…、佳奈さんのクラスメイトの」
「あぁ、彼が。佳奈が世話になってるって言う。なら、少し協力させてもらおうか」
そう言うと、男性はコホンコホンとチューニングをするように咳払いをし、一言叫んだ。
「少しいいかね!」
「…!」
その場にいた全員が、びくりと肩をふるわせ、男性の方を見る。ドスの効いた声で、俺もびっくりしてしまった。こんなにも優しそうな顔をしているのに、あんな声をしているなんて…。
「彼が、クラスに向かうのだ。開けてやってはくれないか」
『はい!』
まるでモーセの海割りのように、人波が裂ける。当の男性は、大声を出して喉を痛めたのか、少し声が枯れていた。
「では、行って来なさい。孫娘の晴れ舞台なのだから」
「孫娘…?」
「お兄ちゃん、早く行こうよ!」
「お、おう!」
愛娘…、それに、桜田さんと一緒に居たってことは…。あの人春宮の…。って、それどころじゃない!俺は、関係者用入場口に、勢い任せに飛び込んだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます