第12話 起眞高校文化祭⑵

 春宮と四つん這いの俺が、スポットライトに照らされる。さぁ、ここからがクライマックスだ。

「魔法使い様が私にチャンスをくれたのに…、一緒に躍ることも、話すことさえもできなかった…。うぅ…」

「くぅん…」

 最初は俺の事を見てくすくすと笑っていた観客たちも、今は俺たちに見入るようにのめり込んでいた。

「すると、その時、シロの体が淡く輝き出しました」

 放送部で、ナレーターである美波愛美のナレーションを合図に、黒子役の生徒が煙のハリボテを転がしてくる。そこ、光なのに煙なのかと気にしては行けない。

 俺は身につけた早着替えで、瞬時に着替えた。見出したやり方は…。

「おーけー、行ってこい!」

「おう!」

 演技を終えた橘に手伝ってもらう事だ。まぁ、後ろからマントを掛けてもらうだけだが。それだけでも、かなりの時間短縮になる。俺はマントの紐を括り、ハリボテから出る。

「嘆かないでくれ、お嬢さん。涙は貴方に似合わない」

「貴方は…?」

「私は隣の国の王子だ。この顔を恐れられ、魔女に醜い犬にされてしまってな。そして心無い者とでも、思われたのだろう。『他人を思いやる心、博愛の心に目覚めるまでは、その姿でいなさい』と、言われてしまったのだ。しかしこれは、博愛の心などではない」

 そう言うと、俺は春宮の前に膝まづいて、手を取り、キスをする仕草をした。あくまで仕草だ、実際はしてない。それでも、かなりギリギリまで近づいた。証拠に、観客の何人かは黄色い悲鳴をあげている。

「真実の愛を知ることで、この呪いが解けたのだ。どうかお願いだ。これからも、どうか私を傍らに置いてくれないだろうか。君の笑顔を、誰よりもそばで見ていて、守りたいんだ」

「…はい、こちらこそ、喜んで…!」

 そしてふたりは手を取り合い、そこでナレーションが入る。

「それから、少女の生活は変わることはありませんでした。今まで通り、仕事をして、本を読む。それだけでした。王宮での煌びやかな暮らしも、莫大な富もありません。しかし、少女はそれでもいい、むしろそれでいいと思ったのでした。そこに、真実の愛があったからです。二人は共に支え合い、慈しみ合い、末永く幸せに暮らしました」

 ナレーションが終わり、カーテンが締まる。その奥から、割れんばかりの喝采の拍手が鳴り響いた。

「やったな」

「うん!」

 春宮が笑顔を見せ、手を向けてくる。俺もその手に向けて手を伸ばし、ハイタッチをした。そんな俺たちを他所に、美波は特別公演についてのお知らせをしているようだった。俺は自分の口を手で塞ぎ、それを見た春宮も同じく手で口を塞ぐ。

 お知らせが終わり、俺はカーテンの影から客席側を確認する。うん、誰もいない。

「おし、全員掃けたっぽい」

「公演大成功だー!」

 榎原が大声を上げ、それに続くように、各々が栓を切ったように声を出す。

「まだ一回目だろー?」

「でも分かる。俺、失敗したりしてシラケたらどうしようって心配だったもん」

「多少の失敗でシラケるようなヤワな台本を書いた覚えはないぞ。が、そうだな。完璧な演技だった。あと四回。この調子で頼むぞ」

『おー!』

 そう、西川が言うように、午前にあと二回、午後にあと二回公演がある。今は9時45分で、次の公演は10時15分からだ。

「では、各々解散!開始5分前には全員戻っているように!」

『はい!』

「お化け屋敷いこうぜ!」

「スイーツ巡りしよ!」

 バラバラと解散し、俺は相浦に声をかけようとする。しかしどうやら、実行委員の仕事が忙しいらしい。何やら、榎原と書類を見ながら話していた。ここは、言わずもがな誘うのは良くないな。頑張れ、相浦。

 俺は教室を後にした。すると、背後から「ねぇ」と声をかけられた。春宮だ。榎原は、と聞くのは野暮か。相浦と一緒に忙しそうにしてたのは確認済みだ。

「一緒に行くか」

「う、うん!行こ!」

 すると、何故か春宮は俺の手を勢いよくグイッと引っ張った。どうやら行きたい場所があるらしい。こんな所を誰かに見られたら、なんて言うのは自意識過剰か。

「で、どこ行くんだよ」

「化学室」

 化学室ねぇ…、何かあったか…。あ、ひとつ心当たりが。夏目先輩だ。少し前から、仲良くなったと言っていた。彼女、どうやら化学同好会を一人で切り盛りしてるらしいからな。それが心配なのか。というか、一人で展示にまで漕ぎ着けたのがまず凄いな。

 そうして、俺と春宮は部活棟四階、化学室までやってきた。

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