第45話 素直になれば⑵

 全校集会の帰り、何やら相浦が小島を驚かせたいらしく、角で待ち伏せをしていた。


 何やら、小島はトイレに行っていたのか、先生にさっきのことに小言を言われていたのか、よく分からないが、なかなか上がってこなかったが。


「来た……!」


 相浦が、嬉しそうに少し跳ねてから驚かせる体制に入る。そして、角から「わー!」と言って飛び出した。


「久しぶりね、相浦紗霧。さっきの失礼なやつは貴方のクラスメイトでしょ?後で教育しておいてね」


「え?あぁ、うん。佳奈ちゃんね」


 相浦に目線を向けられて、佳奈が一歩前に出てぺこりと会釈する。


「さっきはごめんなさい。気にしてるの知らなくて……」


「普通、自分の名前をバカにされたら怒るわよ。今後、気をつけなさい」


「うん……、気をつける」


 佳奈は、さらに申し訳なさそうに頭を下げる。


 まぁ、俺も『シロイヌ』なんてあだ名をつけられて意義を申し立てたけれど、ここまで謝られたことは無かったな。最近はすっかり呼ばれなくなったが。


「……話は終わりかしら?」


「うん、ごめんね、呼び止めて」


「全くよ……」


 なんだろう、今のこいつからは、相浦に突っかかるイメージが湧かない。


 登壇時の彼女からは、かなり想像できたのだが。明らかに、立場が逆だ。相浦が突っかかって、小島が迷惑しているようにしか思えない。


「あ、また勝負しようね!」


 去りゆく小島の背中に、相浦が声をかける。しかし、そんな彼女から帰ってきた答えは、「もうあんたなんて興味無いから」といった無感情で、無配慮な一言だった。


「何かあったのかな?」


「さぁ?」


「って、二限目数学?宿題やるの忘れてた!」


「今からなら間に合う。俺が教えるよ」


「助かるー!急いでレッツゴー!」


 早足で、2人もその場を去っていく。入れ替わりのように、日直の西川と那月が階段を昇ってきた。


「たく、集会ある時にこんなにプリント配布するとか辞めて欲しいわ……」


「同意だ。お、どうした、お前たち……」


 その時だ。小島が踵を返し、ヘアピンカーブを描き、凄い剣幕でこちらに戻ってきた!


 そして、那月の前で立ち止まる。何故か、西川が那月の後ろに隠れた。まぁ、あいつ苦手そうだもんな、小島のこと。


「あら、さっきの生徒会長さん。当選おめでと……」


「那月陽菜!何故生徒会長に立候補しなかったの!まるで勝ち逃げじゃない!」


「あのー、私はまず貴方と勝負した覚えは無いのだけど……」


「宣戦布告したわよね!?演説でも、張り紙でも言ったわよね!?」


 わざわざそこに貼ってあった貼り紙を取り外し、見せてくる。


 そこには、「一番、頂点を目指す」と書かれていた。


 先程の演説で、その類の単語が出てこなかったのは、那月に彼女の中で勝てなかった、いや無効試合となったからだろうか。


「私が一番ー?」


「嬉しそうだな」


「えへー?そう?」


 にやけすぎて、頬が緩みすぎてる。「えー?」が「えへー?」になるくらいにやけてる。


「とにかく!私は貴方に改めて宣戦布告する!来る10月31日!生徒会長権限でパーティーを行う申請を届けた!そこでミスコンも開催するわ!そこで勝負よ!」


「えー?でも文化祭直後でしょ?そんなの通るわけないでしょ。それに私は受ける義理はない……」


「怖いの?負けるのが」


 その時、カチンと何かが切り替わる音が聞こえた。今までの那月とは比べ物にならないほど、威圧を放つ。


 あぁ、こいつ、負けず嫌いだな。そりゃそうか、今までの那月の言動から、その節々が垣間見えていた。


 自分本位の性格とか、自意識が高いところとか。小島ほどではない気もするが、この状況なら引けないのだろう。


「受けて立つわよ!」


「決まりね」


 画して、那月たちはハロウィンパーティーのミスコンにて、対決をすることとなった。


 嵌められた感が否めないが、那月にとってはプライドを逆撫でされたのが余程気に食わなかったのだろう。


「あぁ、それと」


 その場を離れようとした小島が、後ろ目に振り返り、先程よりも、余程冷徹な声を発し、那月を睨みつける。


「女子に守ってもらって、その後ろに隠れるだなんて、相も変わらず情けないわね、西川蓮」


「ぐぅ……」


「知り合いか?」


「まぁ、交通事故みたいなものだ……」


 なるほど、意外な場所で繋がったな……。


「どこで知り合ったんだよ?」


「一人暮らしを始める前、親戚の家にお世話になったって言ったろ?その親戚の末っ子があいつ、従兄弟は初めは優しかったけど、あいつは違った。初めから、俺を憎んで、嫌っていた。自分と同い年の癖に、自分よりチヤホヤされるのが嫌だったんだろう。それで、俺に強く当たった。今思い返すとそうやって分析できるけど、あの頃の俺は只只理不尽に嫌われ、きつい言葉をかけられたと感じて、あいつのことが今も苦手なんだ」


「……そっか。一言いい?」


「あぁ」


 那月は、めいっぱいに空気を吸い込み、「許せない!」と叫んだ。他の階にも聞こえる大きさだ。


「蓮は分析して、前に進もうとしてるのに、あいつはさっきの言い方見るに全然成長してない!それに、彼氏がバカにされてヘラヘラできるほど、心も広くない!あいつのこと、叩き直してやる!決定的な敗北を、お届けしなきゃね!」


「決定的な敗北……?」


 にやりと、那月が笑う。確かに言ってることは正しく、西川のことを思ってのことだろうが、それを帳消しにするほど那月が悪い顔をしている。


 西川はと言うと、得体の知れない恐怖に振るえていた。

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