第2話 秋風⑵
「さてみんな、文化祭実行委員を決めるわよー」
9月7日。LHR。渡辺先生が取り仕切り、文化祭に向けての話し合いが始まった。そして、挙手したのは、まぁ予想通りの人物だった。
「はいはーい!」
「相浦さん、やりたいの?」
「はい!頑張ります!」
「そっか、なら女子は決定でいい?」
抗議の声も上がらない。それは、彼女の文化祭実行委員の就任を意味していた。しかし、そうなると次に問題になるのは男子だ。ここは…!
「次は男子…」
俺は、勢いよく手を上げる。しかし、俺以外にももう一人、手を挙げた男子がいた。榎原だ。
「あー、ここは…、多数決で決めましょうか!」
「え…」
不味い、このままでは…。しかし、ここで口答えして悪印象を与える訳にも行かない。もしも、それで就任したところで、俺の指示を聞いて貰えず、相浦に迷惑をかけてしまうかもしれない。その結果…。
「では、榎原くんに決定ね!」
「は、はい、頑張ります!ごめんな、不知火…」
「謝らないでくれ…」
榎原は過半数の票を獲得し、文化祭実行委員に就任した。相浦と一緒に活動、したかったんだけどな…。俺が肩を落として席に戻ると、春宮が「お疲れ様」と呟いた。
「まぁ、知ってたけどさ」
「榎原くんに、勝てるわけないもんね」
「うっせ」
春宮は、意地の悪い笑顔を俺に向ける。そんな俺たちを他所に、進行は相浦と榎原に移り、話し合いが再開した。
「さて!みんな、次は出し物についての相談だよ!」
「えーっと、去年と同じく、自分たちの教室を使った出し物をひとつ、考えなくちゃならない。で、今年はクラス対抗の投票による、競争をすることになったらしい。優勝賞品は…、学食割引券!ボールペン!後夜祭での最前列の参加!」
なるほど、学食の割引券は魅力的だ。弁当と学食では、さすがに弁当の方が安上がりで済むが、割引ともなれば、話が違う。そのほかのクラスメイトはと言うと、まばらに声が上がるものの、決して盛りあがっているとは言えなかった。体育祭に比べ、景品が豪華では無いからか。現金な奴らだ。割引券、欲しくないのか。俺は欲しい。
「で、何をやろっか!やりたいことがある人、挙手!」
「はい!お化け屋敷!」
「メイド喫茶!」
「バンド!」
クラス全員が思い思いの意見を出していき、それを榎原が書き連ねていく。すると、那月が手を挙げた。今をきらめく読モの意見に、注目が集まる。
「やっぱ、演劇じゃない?主演はもちろん、私ね?あと、やるからには優勝したいんだけど、みんなはどう?」
しばしの沈黙。だが、橘が静寂を破った。
「当たり前だよなぁ!お前ら、思いっきり盛り上げるぞー!」
『うぉー!』
橘が叫び、男子を筆頭に声を上げる。こういう時、盛り上げるのはいつも那月だ。流石読モ。
「で、脚本についてだけど…」
那月は立ち上がり、移動する。あぁ、昨日の笑みの正体が少しわかった気がする。そして、ぼーっと前を見ている西川の肩に手を置いた。ビクリと、西川は肩を震わせる。やはりか。
「ねぇ、あなた物語書くの得意でしょ?我らが文芸部部長さん」
「なっ!」
10秒ほどの硬直の後、諦めたように、西川がため息を着く。
「…こんなにも期待の目を向けられては仕方がない、引き受けるか」
この言葉のそのままの意味半分、本人が物語を描きたかったからということ半分か。まぁ、普段から押しにはなんだかんだ弱かったからな。いずれにせよ、脚本東山蓮こと西川蓮、主演那月陽菜という、かなり豪華なメンバーを掲げて、俺たちの文化祭の準備は始まった。
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