第30話 修学旅行前編⑶
「これゴーヤチャンプルー?」
「おー、こっちにはデザートのサーターアンダギーまである」
夕飯はバイキング。
ゴーヤチャンプルーか。しろはは苦手だったな。
そういえば、しろはが唐辛子えびせんべいなるものを所望してきた。姉ちゃんは琉球ガラスの工芸品。割れないか心配だが……。両親はちんすこうの箱詰め。
「ねぇねぇ不知火、ちゃんと準備は万端かい?」
「そーそ、俺らで女子をキャーキャー言わせんだからさ!」
檜山と正樹が、ソーキそばを啜る俺に話しかけてくる。
うん、豚骨とソーキがマッチして美味い……。いやどっちも豚なんだけどな。
そう、二人の言う通り、夕飯後にはレクリエーションがある。俺たち三組は、肝試しを行うことにした。
「あー、うん。持ってきたぞ。部屋にあるから、後で運ぶ」
「こっちも、準備万端よ!」
ドンキで安物のコスプレ衣装を、男子と女子に別れて買ってきたのだ。
ちなみに何故か俺のあだ名が「最終兵器」になりかけた。
というのも、俺たちの肝試しは少し変わっていて、各々がコスプレをし、いくつか合流地点のある別ルートを進みゴールを目指すというものだ。そして、俺のペアというのが……。
「て、手を離すなよ!絶対、絶対だからな!」
「へいへい」
白装束に身を包んだ、死体よりも真っ青な顔をしてガタガタと震える西川である。
支給された懐中電灯の動作確認を何度もし、「よし…」と呟く。
美波とはスタート位置が違って良かった。きっとあいつがいれば西川と俺を文字通りの腐った目で見るだろう。
「では次、不知火くんと西川くん!」
「ほら、行くぞ」
「お、おう!さっさと終わらせよう!」
グイグイと西川に手を引かれ、俺は森に入ったのだった。
にしてもここ、結構暗いな。本物が出てきそうだ……。
いや、怖いわけじゃないけど!どちらかと言うと、お化けよりもこういった暗い森とかが怖い。
何も、普段から暗いのが怖いから豆電球をつけて寝るなんてことはしないが。
「もうちょっとゆっくり歩けよ……」
「何を言ってるんだ!少しでも速く歩いて少しでもここにいる時間を短くするんだよ!」
「それについては賛成だけど、いくらなんでも……」
まるで競歩のごとく速さで歩く西川。こいつ、普段運動音痴のくせに、かなり速い速度で歩いてる…、意外な才能だ。
が、西川の足が止まった。ぶつかりそうになる所を、ギリギリ踏み留まる。
「どうしたんだよ」
「……あ、あれ」
固く握られた西川の左手は、じわりと汗が滲む。目線の先を見てみると、なにやら緑色の光が……。
それはゆっくりと近づいてくるようで、ガタガタと震える手でその方向を照らした。
そこに居たのは……、西川と同じく白装束を着て、頭に斧を突き刺した少女だった!
「おわっ!」
「ぎゃー!」
「西川!?」
驚いた西川が、あらぬ方向に走り出す!
それを、斧を突き刺した少女こと那月が「え、ちょ!」と、困惑しながら頭から斧を取り外し、追いかけた。
その手の斧を置いた方がいいと思うが……。
「って、なんだ那月か……、じゃあそっちは……」
「ん……」
春宮だ。同じく白装束に、お祭りで買える光るブレスレットを三角巾に突き刺している。
女子とはスタート地点が異なるため、どのようなコスプレをしてるか俺たちは知らなかったのだ。
ドキドキを演出するためでもあるが、あんな事故が起こる要因にもなってしまう。
「独特だな……」
「ふふん、もっと怖がっていい」
「正体分かると差程だな」
「むー!」
ポカポカと春宮が俺の方を殴ってくる。にしても、あんなに驚くとは……。俺も驚いたが、駆け出すほどじゃなかった。
「じゃ、チェックポイント行くか」
「ん」
この肝試しのチェックポイントは、森の中にある祠の前にある箱。
その前に名前の印刷されてある紙を入れ、森から脱出。それで肝試しは終了。
偽装工作防止のために印刷された紙を使うとは、なかなか頭を使ったな、檜山。
そう、これを企画したのは誰を隠そう、檜山なのだ。
「にしても、二人はリタイアか……、後で弄られるだろうな、同じ部屋だし」
「まあ、二人一緒にいるならちょっとロマンチックかも」
「たしかにな」
ムーディな雰囲気と言えなくもないが…、いや怖いけどな!
西川も、流石に彼女の前では頑張っていいとこ見せようとするだろう。
たとえ時間がかかっても、チェックポイントまで向かう。きっとそうだ。帰り道にでも遭遇したら、少し脅かしてやろう。
「さ、戻るか」
「ん」
俺と春宮は祠にたどり着き、箱に紙を入れた。すると、後ろからガサゴソと音がする。
「あ、不知火!と、春宮?」
「お、不知火。西川が怒ってたぞ、俺を残して行くなんてってさ」
「榎原と檜山か。……え?あいつが走ってったんだぞ?で、それを那月が追いかけて、残された俺と春宮が一緒に来てるんだ」
なにやら、情報の齟齬が生まれてしまっているようだ。檜山も、そうなの?と首を傾げる。
「そうなのか?ともかく、俺らで最後だから、箱は回収するなー」
「あ、那月と西川がまだなんだよ」
「そうか。なら、あと5分ほど待ってみようかな」
「そうしてやってくれ。じゃ、帰るか」
「ん」
ゴール地点は男女共通だ。森を抜け、海が見える舗装された道を歩いていく。
その先にホテルの駐車場があり、そこをさらに突っきると集合場所なのだ。
……はぁ、森抜けた!心の中で大きく深呼吸をする。
「……綺麗だね」
「あぁ」
春宮が、ガードレール越しにある海を見つめて呟く。水面には月が映り、ゆらゆらと水面に揺れていた。本当、綺麗だ。
「私さ、沖縄に来たらやってみたいことがあったの」
「それって?」
「私、星の砂が欲しい。小さくて、可愛くて、綺麗なの」
「星の砂か……」
聞いたことがある。なにやら星型の小さな石のようなものだ。お土産とは聞いてたけど……。
「店とかで売ってるんじゃないか?」
「砂浜で見つけたいの!」
まぁ、そうだよな……。「あんまり見つからないっぽいけど」と春宮は続ける。
「それなら、俺も探すよ。二人で探す方が早いだろ?」
「なら二人分探さないとね」
春宮がクスリと笑った。月下に照らされた春宮の笑顔は、とても優美に思えた。
こうして話しているうちに、集合場所に辿り着いた。そこでは、西川が不機嫌そうに待ち構えていた。
そして俺を見るやいなや、「あ!」と言って突っかかってくる。
「おい不知火!酷いじゃないか、俺を置いていくなんて!陽菜が途中で脅かして来なかったら大変だったぞ!」
「え……?」
「あの驚き様には受けたけどねー」
「煩い!」
「あ、それなら春宮さんも、いきなり居なくならないでくれる?心配したんだから」
「ご、ごめん……?」
俺と春宮は、二人で首を傾げる。え?俺たちが置いて行った?
「いや、俺たちは那月にビビった西川に置いてかれて、那月がそれを追いかけてそれで二人になったんだぞ?それに、お前たちの方が早いのはおかしいだろ。本当はチェックポイントなんて行ってないんじゃないのか?」
「行ったぞ!陽菜と二人でな!」
「それは私も証人になるわよ。疑うなら、榎原くんたちに聞けばいいじゃない。ほら、帰ってきた」
那月の言う通り、榎原たちが帰ってきていた。俺は榎原に駆け寄り、「箱の中身を見せてくれ!」と懇願した。
「お、おう。いいぞ」
「ありがとう!……あれ?」
「ほらな、あるだろ?」
確かに……、二人の分の紙がある……。ギュッと、春宮が俺の手を掴む。
ならば、俺たちが出会った二人は一体……?それ以上は、もう考えないようにした。
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