第16話 起眞高校文化祭⑹

 6時限目の終了時刻になり、俺たちは体育館に集まる。全校生徒に他クラス限定での投票を募り、その結果が発表されるのだ。

「では、栄えある一位を発表します」

 校長先生の口から、直々に発表されるクラスに一喜一憂する。それもそのはず、三位、二位共に2年だったのだ。まぁ、3年は受験あるし、1年はやれることも限られるからな。2年がなんだかんだいちばん何でも出来るのだ。

「大丈夫だよね!ね!」

「うん、きっとな…!」

 相浦が、榎原の肩をゆさゆさと揺らす。くそ、榎原そこ変われ!

「緊張する…」

「きっと大丈夫だよ。それに、ダンスすごく良かった。ラストのコンサート、実はカメラで体育館にもスクリーンで移してたらしいけど、かなり人がいたらしいぞ」

「ほんと…?全く気が付かなかった」

 これは、急遽導入された作戦なんだがな。榎原と相浦が校長先生、学年主任とかに交渉し、教室いっぱいに観客を呼び込むことを条件に、体育館のスクリーンの使用件を得ていたのだ。結果としては、コンサート開会前に廊下いっぱいに広がるほどの生徒を呼び込むことに成功、体育館のスクリーンにはでかでかと3人のコンサート風景が移されたというわけだ。

「一位は…、2年…」

「ごくり…」

 全員に、緊張感が走る。大丈夫だ、きっと大丈夫。そして、もったいぶった校長先生の口が開かれる。

「3組!」

「…!」

 一位!俺は小さくガッツポーズを取り、心の中で「うぉー!」と声を上げた。やはり、こうやって結果に残せるのはいいよな。代表者として、前に呼び出された相浦と榎原は、校長先生から証書と小さなトロフィーを受け取る。相浦は、証書を頭の上に掲げた。そこはトロフィーを掲げるんじゃないか、と心の中で突っ込む。

「やったね!」

「おう!」

 俺と春宮は、パチンとハイタッチをする。すると、俺たちを諌めるように「コホン」と校長先生が咳払いをし、俺と春宮は前に向き直る。

「今回表彰されたもの以外にも、素晴らしい出し物は幾つもあったと思います。一人一人の優秀賞があり、おそらく最優秀賞は自分のクラスのもの、もしくは部活でのものでしょう。それでいいのです。自分自身が満足いく物が最優秀賞、それを他の人達の心に少しでも残れば御の字です。皆様、これからも自分の最優秀賞を、大切にしてください。私からは以上です」

「気をつけ、礼!」

 今回は案外に深いこと…、というか、なんかいいことを言っていた気がする。でも、みんなはそんなことより優勝した喜びの方が上回ってるんだろうな。証拠に…。

「一位だー!」

「体育祭に続き、一位!」

「後夜祭の主役は俺たちだー!」

 クラスに戻った瞬間、全員が騒ぎ出したのだ。

「西川くん、やったね!」

「と、当然だろ。まぁ、結果を残せた件に関しては悪い気分では無いな。俺の作品にも箔が付くってものだ」

「素直じゃねぇなー!」

 当然ながら、主力陣には人だかりができる。中でも、普段あまり周りと交流を持たない西川だが、今回ばかりは人に囲まれ、その独特の言い回しと案外可愛らしい性格も相まって、普段とは少し違ったメンツが集まっていた。

「おーい、みんなー、HR始めるわよー」

 いつぞやの如く、渡辺先生の声はしばらく届かず、静まったのは凡そ5分後だった。

 HRの後は、みんなが衣装に着替え、思い出にと記念撮影をした。榎原の計らいで、実は業者の方を呼び止め、卒業アルバム用の記念撮影もして貰えることになったのだ。しかし、他にも何組か回ることになっているらしく、それまでは自由時間だ。

「さぎりーん、こっち!撮ろー!」

「おう!パシャっとやっちゃって!」

 相浦は、ドレス姿に魔女帽子というハイブリットな衣装を着ている。なかなかに似合っている。2つとも似合ってるのだから、足しても似合うのは当然か。そして…。

「春宮さん、写真いいかな?」

「ん、撮ろ?」

 案外春宮も人気で、順番待ちができていた。その人気の理由が、ドレス姿が可愛いというのもあるが…。

「あ、あの…、近いかも…」

「そう?でも、こうしないと入らない。ほら、ピースしよ?」

「う、うん!じゃ、ハイポーズ!」

「ピス」

 春宮は、女子と一緒にフレームに収まりたいらしく、むぎゅむぎゅと頬を相手の頬に押し付ける勢いで密着するのだ。からの、あざとい頬にダブルピース。男子からも血涙を流される勢いで要求されていたが、さすがに男子とは気が引けるらしい。断っていた。

「みんな!カメラマンさんが来てくれたぞ!」

「はーい、じゃあ順に撮影してくねー。ステージの方は撮影してるから、オフの感じが頂きたいかなー」

 なるほどオフか…。まぁ俺に回ってくるのは後になるだろうし、みんなのを見るか。

「佳奈ちゃん、陽菜ちゃん!3人で撮るよ!」

「うん、紗霧さん!」

「たく、仕方ないわね…」

 呆れつつも、陽菜はモデルの風格をビンビンに漂わせ、それを相浦と春宮のホワホワムードで相殺する。春宮と相浦はと言うと、何やら春宮の髪を相浦がとかし、春宮がニコニコとしていた。写真撮影で少し乱れてしまったらしい。

「はい、撮りますよー」

「撮るって!ポーズどうする?」

「ピースしよ?」

「よし、ガッテンだ!」

「ここはあんたらに合わせるわよ」

「みんな寄ってー」

 相浦を2人で挟むような形になり、三人がピースする。その笑顔は、とても眩しかった。

 そんな笑顔に見とれていると、春宮が何やらこっちに来た。

「王子様も記念撮影、しよ!」

「おう…」

 こいつの王子様呼びには、大した意味はないだろう。でも、何だか嬉しい。役柄そういう場に誘われているだけかもしれないが、相浦や榎原とさえも、写真を撮ったことは無かった。だから、嬉しいのだ。

「ポーズは?」

「ピース」

「またそれか…」

「可愛くない?」

 春宮はそう言うと、ダブルピースを頬に当てた。

「いや、可愛いけどさ。まぁいいや。俺もそれ?」

「ん、おそろ」

「男でもいけるかな…」

 俺も覚悟を決め、春宮の真似をしてピースをする。春宮も、それを確認して至近距離でピースした。

「お前、男とはしないんじゃなかったのかよ」

 現にさっき、断っていた。何も、ほかの男子にもやれと強要する訳じゃない。ただ知りたかった。俺とだけしてくれる理由を。

「シロイヌは、王子様だから、特別」

 やはり、俺が王子様を演じたからか。なんだ。自意識過剰だったようだ。

「それじゃ、最後に皆で撮りますよー」

「はーい!みんな、しゅうごー!」

 相浦の呼び掛けで集まり、全員で集合写真を撮る。こうして、後夜祭を残し、俺たちの文化祭が終了したのだった。

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