第9話 文化祭準備⑷
クラスに戻ると、何やら春宮がニコニコとしていた。
「どうしたんだよ、春宮」
「んー、さっき衣装案を見たの。とっても可愛かった…!」
「そうか、お前ドレスも着るんだもんな」
「うん」
こいつのドレス姿は、きっと似合うだろう。それはきっと、男子も女子も、虜にしてしまうほどに。まぁ、対抗馬が現役読モの那月じゃ相手が悪い気もするが。
「あぁ、そうそう。相浦さん、呼んでたよ」
「相浦が?」
「うん」
相浦が…。何の話だろうか。まさか告…、いや、きっと文化祭の話だろう。俺は、何やらノートにペンを走らせている相浦に話しかけた。
「相浦、話って?作業が忙しいなら後でいいけど…」
「あぁ、シロイヌくん。実はね、衣装の件で話があるの」
やっぱり文化祭の話だ。でも衣装か。王子様の衣装がどうかしたのだろうか。
「あのね、被服部の人達じゃ犬の被り物を作ることが出来なくて、買いに行ってもらいたいんだよね」
「な、なるほど…」
犬の方か!でも、被り物を買いに行くのか…、帰りにドンキでも寄るか。あそこならパーティグッズに混ざってあるだろ。
「じゃあ、帰りに買ってくる」
「あ、待って!こういう時はさ、文化祭実行委員が一緒に買いに行かなきゃいけないの!ほら、確定申告ーとか、出費確認とかしなきゃいけないし!」
「確定申告は違うだろ…」
「とにかく、一緒に行こう!ね!」
「お、おう…」
相浦の圧に押され、俺は少したじろぐ。ん?もしかしてこれって、大チャンスなのでは!?内容は文化祭の準備の一環とはいえ、相浦と二人で出かけるんだ!これはデートと言えるのではないか!
「んじゃ!早速出発だー!」
「おう!春宮、今日はしろはと一緒に帰ってくれ!」
「う、うん…」
画して、俺たちは学校から少し離れた大通りにあるドンキまで向かうのだった。
「ごめんね、実は、他にもいろいろ装飾品を買うことになってて、君はそれの荷物持ちも兼ねてるのだよ…」
「なるほどな。別にいいよ」
それが相浦とのデートの代償だとするなら、安いものだ。しばらく歩くと、大通りに出てその先に目的地であるドンキが見えてきた。
「んー」
俺と相浦は、ドンキに入り、パーティグッズのコーナーにやってきた。おー、結構品揃えがいい。それに安い。さすが激安の殿堂。さっき相浦に見せてもらったメモを見ると、ピアスやティアラや牛や犬の被り物と書いてあった。ざっと20点以上。これだけ買って4000円程に収まるんだな。予算は2万円らしい。
衣装は被服部側の出費で作ってくれるらしい。よって、俺たちはあとは舞台小道具に資金を当てることが出来る。有難い限りだ。
「やっぱり、白い方がいいかな」
「なんで?」
「だってほら、シロイヌくんだし」
「あぁ、うん、そうだな…」
あだ名で決まってるのか…。白の方が似合うとかじゃなく。いや、被り物に似合うも似合わないもないだろうけどさ。
そして、俺たちはそれぞれの宝石の色が違うティアラとピアス、ネックレスを二種類、その他貴族たちに付けさせる予定のアクセサリーを買った。
その帰り道。俺は重くは無いけれど、かなり嵩張っている荷物を抱え、帰路を歩いた。秋を象徴する茜色の下、相浦は「ねぇ」と話しかけてきた。
「ん?」
「ここまででいいよ。へいパス!」
「そっか。家まで行こうかと思ったけど…、いや、変な意味じゃなくて」
「わかってるよ。おう、ズドーンとでっかいの頂きました!あ、これは受けとってね。あとこれも。春宮さんの家、近いでしょ?」
「おう、渡しとく」
俺は、相浦から春宮の分のアクセサリーと犬の被り物を受け取った。
相浦は肩から下げていたカバンを後ろに回し、両手で袋を持つ。まぁ、見た目以上にかなり軽いし、大丈夫だろう。
「じゃ、またな」
「あ、シロイヌくん!見て見て!」
振り返ると、相浦がおどけた様子でティアラを頭に乗せていた。そして、満面の笑みを浮かべる。
「似合うな。うん、お姫様みたいだ」
「えへへ、嬉しいこと言ってくれますなー。でも、私はこっち。魔法使いにならないと。恋するお姫様をお手伝いするのが、私のお仕事なのだ!」
そう言うと、相浦はティアラを袋に仕舞い、魔法使いの帽子を被った。
「うん、そっちも似合ってるな」
「ありがと!じゃあねー」
また相浦は笑顔を見せ、帽子を被ったまま帰っていく。でも、何故だろうか。その背中が、とても悲しげに写った。茜色のせいだろうか。
「ただいま」
「おかえり、士郎くん」
「お兄ちゃん、おかえりー」
家に帰ると、春宮としろはが出迎えた。少し驚かせてやろうか。二人はきっと、俺の声だけで俺が帰ってきたと判断している。なら、俺がこの被り物を被って現れたらどんなを反応するだろうか。
俺は手を洗い、二人の待つリビングに向かった。そして、ドアを開けて無言で二人の前に立つ。
「……」
「……」
「……」
『ぷっ…』
何故か二人同時に吹き出す。
「お兄ちゃん!これじゃ士郎じゃなくて『シロ』だよ!」
「違う違う、シロイヌ…!」
「あぁ、不知火だから…!傑作だ、あはははは!」
「お前ら笑いすぎだろ…」
結論、笑われまくる。なんならシロイヌ呼びが伝播しかける。恐らく、しろはが妹じゃなければ相浦のようにシロイヌ呼びが伝播していたことだろう。
「あ、春宮。これ、衣装のアクセサリー」
「おー、ティアラにピアス、ネックレスまで」
「綺麗だねー」
「付けてみていい?」
「壊したり無くさないように気をつけろよ?」
「ん、任せて」
そう言うと、春宮は丁寧に封を開けて、アクセサリーを取り出し、身につけていく。そして、くるりと振り返る。
「どう、かな?お姫様っぽい?」
「すっごい春宮さん、プリンセスだよ!」
「うん、似合ってるな」
「えへへ」
これに加え、被服部の人達の作り上げたドレスまで着させてもらうんだ。きっと、榎原も心を掴まれるだろう。何せ、このお姫様のドレスは、王子様に向けられた恋心が具現化した、王子様を恋に落とすためのものなのだから。
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