第38話 宝箱を守るモンスターの正体
三澤さんとコンタクトを取った後に俺たちは1度、5人全員で合流することにした。
大悟さん、幸弥、池澤さんの3人も別件でなにかを調べていたようである。
「影野さん。例のモンスターについての情報がわかりました」
大悟さんはタブレット端末を俺に見せてくる。そして、とあるファイルを開いてそれを俺に見せてきた。
「これは……グレイブガーディアン……配信に出てきたモンスターとほぼ同一ですね」
俺は大悟さんが用意した資料に目を通す。これは、政府公認の専門機関がダンジョン配信の情報を収集して分析しているサイトである。
その情報によるとこのグレイブガーディアンというモンスターは人間の遺品を集めているという。
ダンジョンにて死亡した人間の遺品に固執していて、その遺品を持ち去ろうとすると襲い掛かってくるモンスターだ。
普段は大人しいモンスターではあるが、どういうわけだか他人の遺品に執着する習性を持っている。
「なるほど……それで、どうしてグレイブガーディアンがダンジョン内に生成された宝箱を守っているんだろうか」
「瑛人君。そのことについては、俺たちで話しあって1つの結論に至ったんだ。あの宝箱はダンジョン内に生成されたものじゃなくて、誰かがダンジョン内に置いていったものじゃないかって」
幸弥が俺の疑問に答えてくれた。確かにそう考えると色々と辻褄があう。
「その説はあるかもね。実は、斯波さんが気づいた情報なんだけどあの宝箱から流れる音楽。あれには意図的に隠されたメッセージがあるんだ」
「隠されたメッセージ? なんすか? それ」
池澤さんも気づいていなかったか。まあ、気づく斯波さんの方が凄いんだけど。
「あの音楽にはところどころ音が外れている部分がある。その部分を抜き出してみるとモールス信号みたいになっているんだ」
「斯波君。それを解いてみたのか?」
「いや、僕はモールス信号に詳しいわけじゃないからね。解読表がないとなんとも言えない。ただ、記号を使って一部だけど抜き出してみた」
斯波さんは暗号が書かれた紙を大悟さんに見せる。大悟さんはそれを興味深そうに見ている。
「なるほど。何者かがダンジョン内に宝箱を設置した。そして、その何者かは既に死亡している。だから、グレイブガーディアンが宝箱を守っていた。このメッセージはダンジョン内で死亡した何者かが最後に遺したものなのかもね」
「大悟さん。さっき話した依頼人はそのメッセージの内容を知りたがっているようです。それこそ金に糸目をつけないほどに」
「うーん……まあ、なにかしら暗号化しておかなければならないほどの重要なメッセージがあるってことか。ちょっと解読してみようか。カイト君。手伝って」
「はい」
大悟さんと池澤さんがモールス信号の解読をしようとしている。まあ、今時はネットで調べればそういう解読はできるか。
「それで、幸弥。この宝箱を設置した人物は特定できたのか?」
「ううん。結構前に置かれた宝箱みたいでね。1年前の配信までさかのぼったけれど特定できず」
「そうか……」
ダンジョン配信のデータも膨大な量がある。特定のダンジョンを抜き出してみても、誰がいつ何をしたのかまでを正確に把握するのは難しい。
せめて、この宝箱が設置された日が特定できれば、誰がこの宝箱を仕込んだのかはわかったかもしれない。
「瑛人君。この宝箱はどうするつもりなの? 俺たちで宝箱の謎を解いてみる?」
「まあ、何かロクでもないことになりそうな予感しかしないけどなあ」
三澤さんもイマイチ信用できないんだよな。
「依頼人は特定の誰かに暗号を解かれるのを恐れている。その特定の誰かはわからないけれど、その詳細を僕たちに言えない以上は僕も依頼人を信用することはできない」
斯波さんの言っていることもわかる。せめて、もうちょっと情報を出してくれれば良かったのに。
まあ、情報を出せない事情があるんだったら……それはもうお察しというか。なにかきな臭いことがあるんだろうな。
「よし、解読終わった。読み上げるね」
『コレハ ミチルニ ムケタ メッセージ
ワタシノ スベテヲ ソコニ カクシ』
「ここでメッセージが終わってるね」
大悟さんが読み上げたメッセージ。俺はそこになにか違和感を覚えた。
ん……? なんだろう。なにかがおかしい。
えーと……依頼人の名前は……三澤充……? 彼女にあてたメッセージだってこと?
「恐らくはこのメッセージを残した人はミチルという人になにかを託そうとしたんだと思う」
暗号を読み上げた大悟さんはそのままの考察を言う。俺もそれには異論はない。
「うろ覚えだが、依頼人の三澤さんがそういう名前だったと思う。彼女はこれが自分に向けられたメッセージだと気づいたんだ」
俺も斯波さんと同じ意見になるのか? でも、なにかが引っ掛かる。でも、俺も正確に物事を覚えているわけではないので、なんらかの違和感があるんだ。
「ミチル……。どっかで聞いた名前だな」
幸弥がそう思うのも無理はないか。ただの同名だけど、俺にとってもこの名前は身近な名前だ。
まあ、今この場では関係のないことだ。それよりも俺はこの先のメッセージを知りたい。
「えっと……影野さん。このメッセージの続きを知るためには宝箱を開ける必要がありますよね?」
「そうですね。池澤さん。しかし、俺たちが開けるわけにはいかない。恐らく三澤さんは俺たちの動向を監視している。俺たちの配信を確実に見ているだろう」
ダンジョンに立ち入るためには情報収集のために配信しなくてはいけない。それがこの国のルールである。
もし、三澤さんに俺たちが宝箱を開けたのがバレたら色々と角が立つだろうな。俺たちがこの一件に悪いように関わらずに立ち回るにはどうすればいいのか。
「それじゃあ、他の人に開けてもらうしかないですね。そういう都合が良い人がいますかね」
池澤さんは頭を悩ませている。しかし、俺たちにはその都合が良さそうな人物の候補が1人いる。
「牧田 刃さん。彼に頼んで宝箱を開けてもらうのはどうかな? 箱を持ち帰らなければそこまで危険な配信になることもないでしょう」
まあ、大人しく俺の言うことを聞いてくれるかはわからないけれど。
というわけで、俺は牧田さんに連絡をとってみることにした。
牧田さんに電話をかけるとあっさりと出てくれた。
「もしもし、どうしたんすか?」
「牧田さん。実はお願いがあって……」
俺は諸々の事情を牧田さんに説明した。牧田さんは話を聞いてくれてはいたが……
「ふーん。そっすねえ。オレとしては体よく使われているみたいで気分が乗らねえっすね」
なんか断られそうな雰囲気になってきた。
「影野さん。スピーカーモードに」
斯波さんに促されて俺はスピーカーモードにする。
「ジンさん。僕からも頼む。ジンさんの力が必要なんだ」
「その声は斯波のアニキ! うーん、まあ。アニキに頼まれたとなっちゃ断るわけにはいかねえっすね」
俺からの要請には断る雰囲気出そうとしていたのに、斯波さんの声を聞いた途端にこれである。
まあ、斯波さんは牧田さんを実力で認めさせたから仕方ないか。別に俺が牧田さんを実力で負かしたわけじゃないし。
「ありがとう。助かるよ。ジンさん」
「それじゃあ、やるんだったら早い方が良いっすよね? 今から例のダンジョンに潜るっす。宝箱を開けに行ってくるんで、ちゃんと耳の穴かっぽじってよーく聞いていてくだせえ」
納得してくれたら話は早いな。もし、この狂犬がウチに入社するとなったら、まあ斯波さん以外とは組ませられないだろうな。
そんなこんなで牧田さんの配信が始まった。
牧田さんはシャドウスターズとはコラボはしたものの、正式なメンバーではない。だから、三澤さんの意識の外にいるはずだ。
仮に牧田さんが宝箱を開けたことがバレても、牧田さんにヘイトが向くようなことはないだろう。彼はシャドウスターズの関係者ではないのだから。
誰よりも早く暗号を解読してみよう。そうすれば何かがわかるかもしれない。
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