第40話 宝の隠し場所
「オラアァア! 食らいやがれ!」
牧田さんがグレイブガーディアンの顔面に拳を叩き込んだ。バキバキと大きな音がする。
グレイブガーディアンの骸骨の一部が砕けた音だ。ポロっとグレイブガーディアンの骨の一部が欠けて落ちた。
:うおおおおお!
:あのモンスターにダメージを与えた!?
:凄まじいパワーとスピードだ!
:ひょっとして勝てるんじゃないのか?
「おー。やるねー」
大悟さんが牧田さんの会心の一撃を見て口笛をひゅーと吹いた。
まるでこのことがわかっていたかのようなリアクションだった。
「大悟さん。牧田さんの実力ならこのモンスターを倒せるかもしれないってわかっていたんですか?」
「まあ、俺はこの目で彼を直接見ている。その強さはきっちりとわかっているつもりだ」
大悟さんの目はダンジョンの魔力の影響によって、対象の素質を見ることができる能力を得ている。
だから、大悟さんは牧田さんがグレイブガーディアンと対峙してもまるで動じていなかったんだ。
牧田さんの実力ならば、グレイブガーディアンに負けるはずがないと。
「まあ、でも……勝つ保証はないけどね。相手も相当に強いから」
「ウォオオオオン!」
グレイブガーディアンは不気味な鳴き声をあげて牧田さんに手を伸ばしてくる。
牧田さんはその攻撃を避けようとするも、グレイブガーディアンの方が一瞬早かった。
牧田さんの左の手首がガシっと掴まれる。
「お、おおおお!」
メキメキィと音が聞こえる。骨を強烈な力で締め付けられるような音。牧田さんの手首の骨がやられているのか?
「まあ、ジンさんほどの硬さがあれば致命傷を負うこともないかもしれないけれど……こうして、じわじわと高い握力で締め付けられたら勝敗はまだわからない」
「手首が砕かれる可能性があるかもしれないってことっすか? ひえー。恐ろしいな。ジンさん! 負けるなー!」
大悟さんが冷静に解説をして、池澤さんが牧田さんを応援している。しかし、ここで池澤さんが応援をしてもバフの魔法がかかるはずもない。
「ってーな! この野郎!」
牧田さんは掴まれた手と反対の手でグレイブガーディナの手の甲を殴りつける。
「ぐびぃい!」
グレイブガーディアンはそのダメージでたまらずに手を離してしまう。
牧田さんも今ので相当なダメージを負ったのか、左の手首を下げてかばっている。
恐らく無意識でのことだろうけど、数秒掴まれただけでかなりのダメージを受けたようだ。
一進一退の攻防。気を抜けば一瞬で命が終わりかねない緊張感がある戦いである。
:あのモンスターにここまでやれるのかよ
:がんばれー! 勝てるかもしれないぞ!
戦いも盛り上がり、コメント欄も沸き立っているころ、斯波さんがペンを置いた。
「よし、音楽がループに入った。これでモールス信号は抽出できたはず」
「お疲れ様。それじゃあ、解読は俺たちに任せてくれ」
大悟さんと池澤さんのコンビがまたモールス信号の解読を試みる。
「とりゃぁああ!」
牧田さんが目にもとまらぬ速さでグレイブガーディアンに蹴りを入れようとする。グレイブガーディアンの臀部に命中して、奴はドサッと膝をついた。
:おお! ダウン取った!
:このまま行ったれ!
:ジンちゃん! ワイは信じてたで!
「これで終わりだ!」
牧田さんがグレイブガーディアンの頭部にかかと落しを決める。バキバキと音を立ててグレイブガーディアンの頭部が破壊された。
そのままグレイブガーディアンはドサっと倒れてぴくりとも動かなくなった。
牧田さんの蹴り技のコンボが決まり、見事勝利した感じだ。
「はぁはぁ……やってやったぜ! 見たかオラァ!」
:ジン最強!ジン最強!ジン最強!ジン最強!
:うおおおおおおお!!!!!
:これは王者の風格
:高評価押しておきました
様々なダンジョン配信者を葬ってきたその存在を牧田さんが倒した。これは本当にすごいことだ。
彼は命令を聞かずに勝手に動くとか困ったところはあるけれど、実力は本物だということを改めて思い知らされた。
単純な肉弾戦ならば斯波さん以上に強いだろう。パワー、スピード、ディフェンス。あらゆる能力が高くて雑に殴っているだけで敵を倒せる。
結局、戦闘で物を言うのはフィジカルだと思い知らされる。特殊能力でどうにかするみたいなことは一切考えない。
まさに脳筋な戦い方は見ている分には気持ちが良いものがあった。
「よし、解読完了。読み上げるね」
『コレハ ミチルニ ムケタ メッセージ
ワタシノ スベテヲ ソコニ カクシタ
サジョウノ ダンジョン ソコノ
ポイント 452 ト 322 ガコウサスル
チテンニ ウメタ』
「多分これで合っていると思うよ」
「お疲れ大悟君。砂城のダンジョンか。ここからだと結構近いな。影野さん。どうしますか? 僕は今すぐ向かう準備が整っています」
斯波さんに意見を求められる。俺は少し考えた後に方針を固めた。
「そうですね。あの三澤さんって人もこの配信を見ている可能性だってある。だとすると、彼女もこのモールス信号を解読したかもしれない」
「あるいは……三澤さんが解読させたくなかった相手か」
斯波さんが付け加える。どっちにしろ、誰かしらが秘密で回収したかった何かがここに埋められている。
俺たちがそれを暴く必要もないだろうけど……俺はなんだか妙にこれが引っ掛かっている。
最初は400万円。次に1000万だしても手に入れたかったもの。それをこの目で拝んでみたい好奇心はこの場にいる全員が持っていた。
「えーと……このポイントの数字って言うのは、ダンジョン内の座標を表しているんですよね」
幸弥がポイントについて触れる。そこは俺も気になっていたところだ。
「ああ、そうだね。ダンジョンの入口を起点に、東西南北の距離を示している。ポイントが1増減するごとに1メートル移動すると思ってくれても良い。この場合はダンジョンの入口から北に452メートル、東に322メートル進んだ先に埋めたことになる」
斯波さんが解説をしてくれている。このポイントの概念はダンジョン内で自分の立ち位置を把握するのに重要な情報である。
「一応ダンジョン内で使える高機能方位磁石も持っていこう。これがないと位置の特定なんて難しいからね」
大悟さんがポーチの中からコンパスを取り出した。今はこのコンパスは動いていない。
でも、ダンジョン内に入ることでダンジョンの出入り口となる印までの方角と距離を示してくれる。
このコンパスから得る情報を現在地を把握できる。
「このお宝とやらが埋められたポイントまでの誘導を……そうだな。カイト君がやってくれるかな?」
「え? 自分がっすか? 大悟さんがやってくれるんじゃ……」
「俺がやってもいいけど、何事も経験だ。若手にもきちんと経験を積ませないと伸びないからね」
大悟さんが池澤さんにコンパスを差し出した。
「はい。わかりました。ちょっと不安だけどやってみます」
池澤さんは基本的に後方支援の役回りである。前線に立って戦うタイプではないので、こういうのもきちんと覚えた方が良いだろう。
「では、影野さん。配信の手続きをお願いします。僕たちは今1度ダンジョンに潜るための装備や道具が足りているのかチェックしますので」
「はい! 4人全員で砂城のダンジョンに向かうってことで良いですね」
斯波さんに言われて俺は配信の手続きをする。急に決まったダンジョン配信。ちょっとバタバタするけれど、仕方ない。
ダンジョンに出発する前に俺の考えを述べておくか。
「みんな。今回のダンジョン配信は別にやる必要はないとは思っている」
事実、俺たちは埋められたものがなんなのかすらわかっていない状態である。
「しかし、今回の一件。なんだか闇のようなものを感じる。けれど、その闇を暴く価値もあるだろうと……俺はそう踏んでいる……ただの勘だけど」
「ダンジョン内に危険を冒してでもメッセージを隠して、更に宝も隠した。これはちょっと普通じゃないのは確かです。影野さんが暴くなと言っても僕はやりますよ」
斯波さんも意外とこういうのに乗る気でいる。まあ、そうか。ダンジョン配信者をやっている以上は未知への探求心が強いのは仕方のないことか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます