第41話 盗賊団襲撃
配信準備が整い、幸弥、斯波さん、大悟さん、池澤さんの4人は砂城のダンジョンへと向かった。
配信が開始されて俺のパソコンの画面に4人の姿が映し出された。
大量の砂でできたダンジョン。そこの背後には砂でできた巨大な城がそびえたっている。
「はい。みなさんこんにちは。シャドウスターズの斯波です。本日は緊急な配信になって申し訳ありません」
:緊急配信? なにか気になる!
:なになに? なにが起きるの?
事情を知らない視聴者たちは興味深そうにこの配信を見ている。
「まあ、ちょっとした情報を得て……宝探しをしに行くという配信ですね」
:宝探し! なにそれワクワクする!
:楽しそう
斯波さんが本当にざっくりと説明する。まあ、詳しい経緯を説明する必要もないからな。
「それじゃあ、所定の位置まで移動しましょう」
斯波さんの合図で4人は進み始める。池澤さんがコンパスで位置を確認しながら進んでいく。
「お、早速モンスターが現れましたよ!」
幸弥が刀を構える。目の前にいるのは、包帯でグルグル巻きになったミイラのモンスターの群。
ミイラたちは幸弥たちに襲い掛かってくる。
「とりゃぁあ!」
幸弥が刀でミイラを斬る。1度壊れたことで、強度を増した幸弥の刀。その鋭さは前の刀よりも上で「スパァーン!」とミイラの体を切断した。
「おお! この刀良い感じだ!」
ブランクを感じさせない一太刀。幸弥もダンジョン配信してない間に基礎的な鍛錬を怠っていなかったのだろう。
「食らえ!」
大悟さんが杖でミイラの頭部を思い切り叩きつける。幸弥の刀や斯波さんの槍と比べると地味な一撃ではあるが、ゴキィと何かが砕ける音が聞こえる。
ミイラはそのままフラフラと歩いていき、足元がおぼつかない状態になる。
「止めだ!」
大悟さんがミイラのアゴを思い切り杖で叩く。この人は魔法が強いけれど、杖を使った肉弾戦も決して弱くないんだよな。
元々、1人でダンジョンに潜っていたこともあってか中々に万能な戦い方をする。
「これで終わらせる!」
斯波さんが槍を高速でぐるぐると回してミイラの群に突っ込む。ミイラは高速回転する槍に巻き込まれて吹き飛ばされていく。
打ち上げられたミイラたちはバッタバッタと地面へと落下していき、ピクリとも動かなくなる。
「す、すご……」
池澤さんが前に出ていた3人の戦いぶりを見て、目を見開いて驚いている。
この程度の雑魚モンスターなら池澤さんのバフをも必要としないくらいだ。斯波さんと大悟さんだけでなく、幸弥もきちんと成長している。
「自分も後方支援以外にも肉弾戦で戦えるようになりたい……」
池澤さんがふとそんな言葉を漏らす。まあ、たしかに池澤さんも肉弾戦ができるようになればとれる戦略の幅も広がるけど……
現状は斯波さんと幸弥の前衛2人体制に、大悟さんが加わる形でも十分に通用する。池澤さんが無理して肉弾戦に参加する必要性が感じられない。
それでも本人が前線でも戦えるようになりたいと言うのであれば、池澤さん用の武器も考える必要があるか?
斯波さんは周囲をきょろきょろと見回している。そして、地面を見つめながらなにやら考え込んでいる。
「カイト君。この辺りだと思うけど、数字を教えてくれ」
「あ、はい。ちょっとズレてますね。ここから北に2メートル進んだところにあります」
「そうか。なら、コンパスを持っている君が先導して欲しい」
「わかりました」
池澤さんがコンパスを確認しながら歩いていく。入口となる初期地点からの距離を測れるコンパス。それを使って宝があるとされている場所を特定しようとする。
「この地点ですね」
池澤さんが地面を指さす。最近掘り返したような跡はないのが少し気になるけれど、ここらしい。
「よし、それじゃあ早速掘るぞ」
斯波さんは持ち込んでいたスコップで地面を掘ろうとする。その時だった。
「おっと、それ以上動くんじゃねえ!」
入口方向から数人の人間がやってきた。その全員が覆面をしていて顔を確認することができない。
手にはナイフがあり、それを斯波さんたちに向けている。明らかに敵意しか感じない人たちである。
;え? 誰? 誰なの。この人たち
:まさか強盗?
:ダンジョン内で犯罪!?
かつてダンジョンはその秘匿性から犯罪に使われることがあった。
ダンジョン配信が義務化されているのは、その犯罪の抑制のためでもあるが……まだこういう人に害をなすことをする輩がいるなんて。
「その中身を掘り起こされたらまずいんでね」
覆面たちの背後には撮影機材が見当たらない。どうやら違法にダンジョンに潜り込んでいるやつららしい。
ダンジョンに潜る際はきちんと映像に記録を残しておかなければならない。それを破るのはロクでもない連中と相場が決まっている。
「穏やかじゃないね」
大悟さんが杖を覆面たちに向ける。
「敵は7人。前衛タイプが3人。中衛タイプが2人。後衛タイプが2人。いずれも特殊能力はなし。持っている武器からも特別な何かは感じない」
大悟さんは淡々と情報を述べている。そうか。相手が人間なら、大悟さんはその素質を見破ることができる。
池澤さんの素質を見出した時みたいに……人間が敵だと情報を得ることもできるんだ。
「なっ……なんなんだよお前!」
「君はやや前衛向けの中衛タイプ。攻撃魔法の素質が伸びている。いかにもな脳筋スタイルの戦い方だね」
相手からしたら、自分たちの情報が筒抜けになっているのは怖いだろうな。
「君たちは日常的にダンジョンに潜っているようだね。俺の目はごまかすことができないよ」
「うるせえ! だからなんだっていうんだ!」
「俺は君たちの実力をある程度測ることができる。その俺が君たちに警告する。回れ右して帰った方がいいよ。そっちが7人。こっちが4人でも勝ち目はないから」
大悟さんは相手を挑発する。相手の内の1人がそれに逆上して、ナイフを持って大悟さんに突進をしてくる。
「てめえ! 許さねえ!」
覆面がナイフを大悟さんに突き立てようとする。しかし、大悟さんがそれをひらりとかわして、杖で覆面の背中を思い切り強打した。
「ぐばっ……!」
背中を強打された覆面はそのまま倒れた。ぴくぴくと動いて立てなくなってしまった。
「こ、この野郎……! やりやがったな!」
覆面たちが激昂して大悟さんたちに襲い掛かってくる。
「うへえ、なんなんだこいつら……」
「幸弥君。わかっていると思うけど、相手は人間だ。殺さないようにね」
「はい。斯波さん!」
斯波さんと幸弥も参戦する。そして、乱戦が始まった。
「食らえ!」
覆面が手から火の玉を出した。その火の玉を幸弥が刀で斬ろうとする。
幸弥の刀が炎に触れると、刀が炎を吸収して紅く染め上がる。
「よし! 吸収完了!」
「なっ……こいつ、俺の魔法を吸収しやがっただと……!」
幸弥は刀に魔法を吸収する性質を加えられる能力があるらしい。
それは味方の魔法を吸収することはもちろん、敵の攻撃を吸収して無効化することもできるのか。
対人戦においては魔法使い相手にはほぼ無敵な能力だな。 恐ろしい。
「食らえ!」
幸弥が刀を振ろうとする。
「ひ、ひい!」
覆面は思わず目を背ける。その瞬間、幸弥は覆面に足払いを仕掛けてすっころばせた。
「んぎゃあ!」
あのまま、刀で攻撃していたら流石にオーバーキルだろう。それくらいに幸弥の刀での一撃は強い。
斯波さんの殺すなという言葉を忠実に守って刀での攻撃をフェイントに使ったのか。
「く、くそ……! こいつら強いぞ!」
「どうします? ボス。撤退しますか?」
「くっ……撤退なんかできるか。1000万がかかってるんだぞ!」
1000万……どこかで聞いたことがある金額だな。なんかこの覆面たちが誰に雇われたのか。わかったような気がしてきた。
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