第42話 埋められたものの正体
「そろそろ終わらせようか。バインド!」
大悟さんが魔法を使うと覆面たちの回りに紫色のロープが現れた。そのロープで覆面たちは拘束されて身動きが取れなくなってしまう。
「なっ……」
「拘束させてもらった。素直に逃げていれば良かったのに。このままだと君たちの顔は全世界に配信されることになる」
大悟さんが覆面たちに近づく。そして、覆面を引きはがそうと手をかける。
「や、やめろ! やめてくれ!」
大悟さんは容赦なく覆面を外した。全世界に公開される覆面の素顔。
その辺の青年と言った感じで特に見知った顔ではなかった。
「ち、ちくしょう! こんなことになるなんて……俺はただ、バイトに応募しただけなのに……」
:あーあ。全世界に顔が晒されちゃったね
:逃げたとしても指名手配不可避
:大人しく逮捕されとけ
明らかな強盗行為を働きダンジョン内を配信なしに歩いている。まあ、公の権力から事情を聞かされるのは免れないな。
「さあ、こいつら放っておいて宝探しの続きを……」
大悟さんがそう言おうとした時、既に何者かが地面を掘っていた。
この青年たちと同じく覆面を被っているものの、体格は女性である。
「アンタ。何しているの?」
斯波さんが覆面女に話しかける。覆面女はナイフを取り出して斯波さんに斬りかかってきた。
シュっと速いスピードで斯波さんに攻撃する。斯波さんは素早く反応して覆面女の攻撃を避けた。
「邪魔!」
覆面女は追撃しようとする。ナイフで斯波さんの心臓に狙いを定めて突っ込む。
「こいつ……結構速いな」
明らかに他の覆面よりも実力は上である。
「でも、僕の敵ではない」
斯波さんは覆面女の手首をつかんで、ひねりあげて関節技を決めた。
「あ、あがあああ!」
覆面女は苦痛で顔を歪める。この覆面女も一般的には中々の強さと素質はあるんだろうけど、相手が悪かったとしか言いようがない。
斯波さんが覆面女の覆面を剥がすとそこには俺の知っている顔が出てきた。
「やっぱり黒幕はアンタだったか。三澤さん」
「ク、クソ……!」
宝箱に懸賞金をかけていた当人である三澤さん。やはり、ここに眠っているお宝とやらを狙っていたのか。
「さて、三澤さん。詳しいわけを聞かせてくれるか?」
「はあ……こうなってしまったら、もうアタシの負けね。仕方ない。正直に全部話してあげるわ」
三澤さんはもう抵抗する気がなくなったようだ。ただでさえ斯波さん1人に勝てないのに、こっちは4人もいる。
勝ち目がないことは明らかだろう。
「アタシは窃盗団の一員でね。盗んだ金品をダンジョン内に隠して売りさばけるルートが見つかったら、取り出して売るというのを繰り返してきた」
「窃盗団。つまり、ここには盗品が埋められているってこと?」
斯波さんが三澤さんに問い詰める。三澤さんははぁとため息をつく。
「ま、十中八九そうだろうね。アタシらのボスはダンジョン内で死んでね。ボスが生前に遺したいくつかの宝のありかが不明だった」
宝のありか……それをあのオルゴールが示していたってことか。
「ボスは暗号で宝のありかを示すのが好きなやつでね。あのオルゴールの音色を聞いた時に、これはボスが最後に遺したお宝だと踏んだわけさ」
「なるほど。盗品がそこにあるってことか。まあ、どっちにしろ回収して警察に届けないとな」
「へへ。アンタらも配信で見られてなければ宝をネコババする気だろ? アタシだってそうだ。他の窃盗団の仲間にバレないように独り占めする気だった。なにせ宝の総額は推定数億円だ。惜しいことをしたな」
三澤さんは下衆な笑いを浮かべる。これが彼女の本性だろう。斯波さんは三澤さんを無視して、スコップで埋められていた場所を掘った。
ザックザックと掘っていくとカチンと硬い何かに当たる。斯波さんはその硬いなにかの周囲を掘ると真四角な物体が出てきた。
「これは……開けられるみたいだ。開けてみよう」
斯波さんが四角形のケースを開けると、中からクリアファイルに入れられた数枚の資料が出てきた。
資料は謎の言語で書かれていて、俺には読むことができない。
いや、辛うじて読むことができる部分があった。
この資料の作成者の名前。影野
「こ、これは……」
斯波さんも資料を見て震えている。
「え? なになに?」
幸弥も資料に目をやると固まった。
「え? どうして、瑛人君のお母さんの名前がここに書いてあるんだ?」
俺もなにがなんだかわからない。この資料は俺の母さんが生前に遺したものなのか?
頭が混乱してきた。一体なにがどうなっているんだ?
「は? え? あれ? これってお宝じゃ……」
混乱しているのは三澤さんも同じである。彼女からしたら自分のボスの盗品が埋まっていると思っているのだから。
母さんの作った資料が窃盗団に盗まれた? いや、そんな話は聞いたことがない。
それに、窃盗団が獣医師の母さんが作った資料になんの価値を見出すというのか。
これは……間違いない。
「母さんが父さんに遺したものだ……」
宝箱のメッセージを見た時から違和感があった。影野 充。それは父さんの名前でもあった。
メッセージに記されていたミチルは父さんの名前だったんだ。三澤 充さんの場合はミツルって読みだから、最初から彼女に当てられたものではなかった。
「お、おい。このメッセージはウチのボスが遺したものじゃ……」
「どうやら違ったようだな。まあ、大人しくしていればアンタの悪事も露見せずに済んだものを」
斯波さんは三澤さんの肩をポンと叩いた。三澤さんは完全にへなへなと力が抜けて顔も一気に老け込んでいる。
:なんだかよくわからないけどざまあwwww
:悪は滅びた
:さっさと警察に突き出そうぜ
母さんが遺したこの資料。これが一体なんなのか。それは俺にもわからない。でも、とりあえずこの一件は片づけられたとみていいだろう。
◇
後日、あの資料が正式に母さんが書いたものだということが認められた。
この資料は法定相続人である俺の所有物となるわけだ。
母さんが最後に遺してくれた資料。それはダンジョン内のモンスターの体を解析したものであった。
この資料は俺が見ても意味が分からない。俺が受け継ぐよりかはちゃんとした専門機関に渡した方が良いだろう。
というわけで、母さんの出身大学の獣医学部に寄贈することにした。これで少しでも何らかの研究に役立てばいいと願って。
母さんは自分が死ぬことを覚悟していたんだろう。だから、最後に信頼できる父さんにダンジョンでの研究成果を託そうとしたんだ。
結局、父さんと母さんは同時期に死んでしまい、この資料は数年間回収されることはなかった。
一方で、闇バイトで集められた人や三澤さんは逮捕された。まだ刑は確定していないけれど、これから先ロクな人生を歩めないだろう。
三澤さんが所属していた窃盗団も芋づる式に捕まり、ダンジョンを悪用した犯罪ということで世間から注目を集めることとなった。
ただ、その結果として、とあることがブームになってしまった。
「はい、こんにちはー。今日もダンジョン配信やっていきまーす。今回は例の窃盗団がダンジョン内に隠したと思われるお宝を掘り起こしたいと思いまーす」
窃盗団のボスが埋めたお宝。それがまだ未回収なのもあってか、それを掘り起こそうとここら一帯のダンジョン配信者がスコップを持ってダンジョンを掘り始めた。
盗品をそのまま手に入れることはできないものの、盗品には懸賞金がかけられていて、回収出来たら一応お金がもらえるとのことだった。
純粋に被害者に盗品を返したいという人も中にはいるだろうけど、大半は懸賞金か自己顕示欲を満たすのを目的としてダンジョンに潜っているんだろう。
なんというか……人間の欲望って浅ましいんだなと感じざるを得ない出来事であった。
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