第50話 捕食者

 4人は例のウェアウルフが出たというダンジョンに向かった。


 そこで配信を開始して、モンスターを倒していく。


 斯波さんが槍で突き、牧田さんが拳で敵を粉砕し、大悟さんが魔法で敵を焼き払い、そして、池澤さんがそれらを支援する。


 敵の数はたしかに多い。しかし、目的のウェアウルフは中々に出現しない。


「オラァ!」


 牧田さんがモンスターの首を手刀で切り落とした。鮮やかな攻撃でリスナーをも魅了する一撃であった。


:つよい

:これは良い人材を正式採用したね

:採用おめでとう

:俺も内定欲しい(23歳既卒)


「くそ! ウェアウルフが出ねえじゃねえか!」


 牧田さんはダンジョンの壁を殴る。ドンと大きな音が鳴り、壁がへこむ。


 しかし、牧田さんの拳は硬いのでまるで傷ついていない。


 壁殴りの反動が出ないのはちょっとうらやましいかもしれない。壁殴り代行って仕事ももしかしたらできるかもしれない。


「前回はこのダンジョンに出たんだけどね」


 大悟さんが頭をかきながら周囲を見回している。しかし、どこを探してもウェアウルフの影すら見えない。


「どうする? 一旦手分けして探す? 僕とカイト君。大悟君とジンさんで二手に分かれるとか」


「まあ、正直このダンジョンで4人固まって動くのは戦力過剰かもね。二手に分かれて見つけたら連絡する方針で行こう」


 斯波さんと大悟さんの間で話はまとまったようである。


「まあ、斯波のアニキが言うならオレはそれで構わない」


「自分も賛成です」


 前衛と後衛のペアで二手に分かれるようである。こうした動きができるのも多人数ならでは強みということだ。


 やはり人数が多いに越したことはない。


 幸弥もここにいてくれれば更に……いや、幸弥は絶対に助けてみせる。


 次の配信は5人でやるんだ。絶対に。


 二手に分かれて移動した際、メインチャンネルの方ではザッピングで様子を見れるようにしていこう。


 その切り替えは俺がやるしかない。俺は2画面を見ながら、状況に応じて画面を適宜切り替えることにした。



:二手に分かれて大丈夫かな?

:まあ、斯波と大悟が付いていれば大丈夫でしょ

:正直言って、この2人は単独でもやっていけるくらい強いからね


「斯波さん。ウェアウルフいないですね」


「ああ。前回はここにいたんだけどなあ。とは言っても前回も1体だけしかいなかったから、元からこのダンジョンにはあまりいないのかもしれない」


「そんな……」


「しかし、今から別のダンジョンを探している時間もない。さらに言えば感染している個体でしか意味がないからな」


「別のダンジョンにいるウェアウルフは感染している確率が低いかもしれないかもってことですね」


 斯波さんと池澤さんはうまくやっていけているようである。大悟さんと牧田さんの方はどうだろうか。


「おらぁ! 獲物発見!」


 牧田さんが全く関係ないモンスターに向かって突っ込んでいっている。


「ちょ、ちょっと。ジンさん。わざわざそいつを狩る必要は……」


 襲われたから倒すならまだしも、全く戦う必要のないモンスターにも突撃をかます牧田さん。


 大悟さんもこれには苦笑いをしている。


「あ? モンスターをぶち殺しまくった方がいいだろ。そうすれば残ったモンスターを探しやすくなる」


 まあ、牧田さんの理屈もわからないでもない。他のモンスターも残しておくとノイズになる可能性はたしかにある。


 しかし、体力の消耗も考えずによくもまあ突っ込むな。


 牧田さんの暴走が少し厄介だけど、こっちはこっちで問題は特になさそうである。


 斯波さんたちの画面に戻そう。


「あ! 斯波さん! あそこにいるのウェアウルフじゃないですか!」


 池澤さんが指さした方向にはウェアウルフがいた。しかもこっちに向かってきている。


 かなり早く走っていて息を切らしている。


「相手からやってきているようだ。しかもこの個体は走っていてスタミナの消費をしている。疲れさせる手間がないから好都合だ」


 斯波さんが槍を構えてウェアウルフ相手に迎え撃とうとしている。しかし、次の瞬間。


「グシャァアアア!」


 ウェアウルフの背後。暗闇からウェアウルフよりも2倍以上大きいモンスターがやってきた。


 そのモンスターは8本の触手を持っていて、その内の触手の1本をウェアウルフに向かって伸ばした。


 そして、ウェアウルフが触手に捕まり、モンスターの口へと持っていかれる。


「ワ、ワォオオオン!」


 ウェアウルフは必死になってもがいているけど、触手から逃れることができない。


「し、斯波さん! なんなんですか! あのモンスターは!」


「あ、あいつは……レアモンスターだ。ビーストプレデター。獣を好んで食うモンスターでこのダンジョンにいたとは……」


 ビーストプレデターは大口を開けてウェアウルフを丸のみにした。


 巨大な体躯に飲み込まれたウェアウルフは素材を落とすことなく、その生涯を終えたことだろう。


:ひい! なんだあのモンスター。ぐろ!

:怖すぎる

:モンスターがモンスターを食ってる!


「どうやらウェアウルフの数が減っているのはこいつのせいみたいだ」


 斯波さんは槍をしまわずにビーストプレデターを睨みつけている。


「斯波さん! こいつと戦うつもりですか?」


「もちろんそのつもりだ。こいつを放置していたら、ウェアウルフを全部狩りつくされてしまう」


「そんな。ウェアウルフですら結構苦戦する相手なのに、そんなやつを丸のみにするような化け物に勝てるんですか?」


「倒さなきゃしょうがないだろ。狩りは早い者勝ち。そして、相手の方が狩りの腕は上だ。ならここで退場してもらうしかない」


 ウェアウルフを狩るだけの仕事かと思っていたら、まさかとんでもないことに巻き込まれてしまうなんて。


「大悟さんたちを呼びますか?」


「それは運営に任せよう」


 運営。つまり俺のことだ。斯波さんたちの画面に気を取られていたけど大悟さんたちはどうなんだろう。


「おら! 速さなら負けねぞ!」


 牧田さんとウェアウルフがお互いに一進一退の攻防を繰り広げている。


 かなり素早いはずのウェアウルフのスピードについて行けている牧田さん。この人凄すぎだろ。


 どうやら、こちらはこちらでウェアウルフと遭遇しているようである。


 これが病原菌を持っている個体である保証はないが、せっかく見つけたウェアウルフを逃すのももったいない。


 俺は大悟さんのインカムに連絡をする。


「大悟さん。聞こえますか?」


「あ、はい。今、斯波君たちに連絡をしようと思ってました」


 大悟さんが俺にだけ聞こえる小声でしゃべっている。


「斯波さんたちの方はもっとやばいモンスターと戦っています。相手はビーストプレデター。ウェアウルフすら丸のみにする怪物です」


「なんだって……それじゃあ俺たちはどうすれば……」


「ビーストプレデターを倒さない限りはこのダンジョンのウェアウルフたちが食いつくされてしまう。だから倒さないわけにはいかない。でも、このウェアウルフも逃せないです」


 となると答えは1つしかないだろう。


「大悟さん。そのウェアウルフを倒し次第、斯波さんたちの応援に向かってください。座標は後で言います」


「わかりました。なるはやでこいつを倒してから向かいます」


 単なるウェアウルフの爪を回収するだけなら、牧田さんが戦っているやつの爪をへし折ってから倒せば終わりなんだけど……


 病原菌に感染しているかどうかはここではわからない。その不確実性が話をややこしくしている。


 結局のところ、ビーストプレデターを倒すのはマストになってしまったようだ。


「池澤さん。今は大悟さんたちがウェアウルフと交戦中です。合流まで時間がかかります」


「あ、了解しました」


 池澤さんにもきっちり連絡をしておかないと。みんな……幸弥を助けるために本当に頼む…!

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