第51話 うごめく触手

「カイト君。下がっていて。こいつは僕がやる!」


 斯波さんは手から火の玉を出してビーストプレデターに向かって放つ。


 ビーストプレデターは斯波さんの魔法を触手で弾き飛ばして攻撃をかわした。


「生半可な魔法じゃこいつには通用しないか。それがわかっただけで十分!」


 斯波さんは槍を構えて突進を仕掛ける。ビーストプレデターは触手を使い斯波さんを退けようとする。


 斯波さんは触手の攻撃をかわした。しかし、斯波さんが回避した方向にビーストプレデターは別の触手を向かわせる。


 複数の触手による連携攻撃。斯波さんは地面に槍を突き刺してその反動で高く跳躍した。


「おっと!」


 そして、ダンジョンの天井に槍を突き刺して上空にて待機をする。


 ビーストプレデターは斯波さんに向かって触手を伸ばすが天井まで距離があったことが幸いして斯波さんの現在地まで触手は伸びなかった。


「危ない危ない。あの触手に捕まったら何をされるかわかったものじゃない」


 斯波さんは冷静に対処している。攻撃の手が複数あってそれが自在に動くのは中々にやっかいなことである。


 ビーストプレデターはうねうねと動いて池澤さんの方ににじりよってくる。


「う、うわあ! こっちに来た!」


「カイト君。なんとか逃げて。こいつは強そうだけど、脚はそんなに速くはない」


「あ、脚は速くないって言ったって」


 ビーストプレデターが勢いよく走ってくる。脚が速くないというのはあくまでもウェアウルフ基準である。


 鍛えていない人間基準では十分に追いつかれる可能性があるくらいに速い。


「く、くそ! サッカー部で鍛えた脚力を見せてやる! 補欠だけど」


 池澤さんはビーストプレデターから逃げ出した。流石に運動経験があるせいか池澤さんも速い。


 ビーストプレデターから距離を逃げることはできた。


:真正面からこいつと戦うのは難しいね

:どうやって倒すんだろう


 ビーストプレデターが池澤さんを追っている。


 その状況で斯波さんは天井に刺した槍を引き抜いた。


 斯波さんは重力に従って落ちていく。そして、槍を下方に構えてビーストプレデターの背後を取った。


「真正面から倒せないなら上空から不意打ちだ!」


 斯波さんお得意の三次元的な戦い方。ビーストプレデターの背中に斯波さんの槍が突き刺さった。


「ぐおおお!」


 ビーストプレデターにダメージが通った。斯波さんはそのまま槍を握っている。


「槍に魔力を込める!」


 斯波さんが魔力を込めると槍の先が発火する。ビーストプレデターの内部から炎で焼き尽くす作戦か。


:おお! 決まった!

:燃える槍とかかっこいい!


「はぁはぁ……」


 一見有利に見える。だが、斯波さんの顔に疲れが見えている。


 斯波さんは魔法を多用できるタイプではない。武器に魔法を込めるのは応用技でそれなりに消耗してしまう。


 それを考えると他人の魔法とはいえ、刀に魔法を纏わせることができる幸弥は中々に凄い奴なんだよな。


 ……幸弥。もう少しだ。耐えてくれ。お前は必ず助けてみせる。


 プレデターは悶えているが、触手を使って斯波さんの槍を引き抜こうとする。


 斯波さんは槍が奪われる前に槍を引き抜いてその場から退散した。


「ぐぉおおお!」


 ビーストプレデターは斯波さんに向かって唸り始めた。


 先ほどまで池澤さんを狙っていたが、今は斯波さんに対して怒っているようである。


 ターゲットが完全に斯波さんに固定されてしまった。


「まずいな。カイト君を囮にできている内にとどめを刺しておきたかったけど」


 斯波さんが標的になっている最中に池澤さんは攻撃できるのだろうか。


 池澤さんはサポート役としては機能するけれど、イマイチ攻撃役としては決定力に欠けている。


 だから斯波さんを囮にして、池澤さんが強い攻撃を叩き込むなんて戦術はできない。


 一方で斯波さんは強いから、池澤さんを囮する作戦は成り立つ。


 立場が逆になると戦術が成り立たなくなるのはなんとももどかしいものである。


 ビーストプレデターの8本の触手がそれぞれ斯波さんに向かって伸びていく。


 斯波さんはそれらを避けるのに精いっぱいで中々攻め手に欠けている。


:あの触手に捕まれたら終わりだ

:こんな強いモンスターに遭遇するなんて

:がんばれー!


 斯波さんが触手の内の1本を槍で貫く。ぶしゃあと紫色の液体が触手から噴出する。


 斯波さんの槍に貫かれた触手はぴくぴくと動いていて、その動きが鈍っている。


「よし、触手を1本ずつ潰していけば対処可能な相手だ」


:おお!

:攻略法を編み出した!

:これはいけるんちゃう?


 なるほど触手の数が多くて対応できないのなら、1本ずつ潰していけばいいのか。


 相手を負傷させて有利な展開に持っていくのは戦いの基本だ。


 意外と攻略法は単純だけど、斯波さんは少し息を切らして汗をかいている。


 触手8本を封じるまで斯波さんの体力が持つかどうかの問題があるのか。


 ビーストプレデターの7本の触手が元気に動き回っている。負傷した1本の触手は動きが鈍っているものの相変わらず動いている。


 だが、斯波さんの動きも目に見えて悪くなってきている。


 形成は不利かと思われたその時だった。


「斯波さん! 力を振り絞れー!」


 池澤さんが大声で応援をする。その瞬間に斯波さんの動きがみるみる内に良くなってくる。


 そして、華麗な動きで2本目の触手を破壊した。


「これは……体力回復魔法。ありがとうカイト君」


:おお! いつの間にそんな魔法を習得していたのか

:スピードを上げる魔法だけじゃなかったのか

:俺にもスタミナ回復魔法かけて欲しい。最近仕事で疲れていて

:わかる。社会人になると1日で疲れが取れないよな


 ビーストプレデターを斯波さんが追い詰めていく。


 このままの調子で行けば斯波さんが有利なまま倒せる。だが……


 ザクっと音がして斯波さんの足元をトラバサミが挟んだ。


「なっ……ぐぅう!」


:トラバサミの罠!?

:ダンジョンに仕掛けられていた罠か!

:こんなところに罠が仕掛けてあるなんて


 ダンジョンには様々な罠が仕掛けられていることがある。


 斯波さんはそれにかかってしまったのか。


「し、しまった。油断をした」


 ビーストプレデターとの戦闘に気を取られすぎていて足元がお留守になっていたようだ。


 斯波さんはすぐに罠を解除しようとする。だが、その間をビーストプレデターが待ってくれているわけがない。


 斯波さんと距離を詰めてくる。


 カチャリと音がして斯波さんはトラバサミから抜け出すことができた。


 しかし、斯波さんの体に触手がまとわりついてきた。


「あ、し、しまった!」


:うわあああああ!

:斯波がこんなところで負けてしまうのか?

:ほんの一瞬の油断が命取りになるのがダンジョン配信なんだよな

:終わった


「斯波さん!」


 俺は画面の間で叫んでしまった。


 俺はどうすればいいんだ。幸弥に続いて斯波さんまでも……


 ビーストプレデターが大口を開ける。そして、触手でとらえた斯波さんを口元へと持っていこうとしている。


「し、斯波さん! こ、この!」


 池澤さんがメイスでビーストプレデターに攻撃を仕掛ける。


 しかし、ビーストプレデターにはまるで効いていない。


 強い斯波さんが攻撃をしてようやくダメージが通るような相手。池澤さんの攻撃ではハッキリ言って力不足である。


「ど、どうして……こんな時に力がでないんだ!」


 池澤さんがガンガンとメイスでビーストプレデターを攻撃するも全く効果がない。


 そんな状態でも斯波さんは口に持っていかれようとする。


「ま、まだだ! 諦めない!」


 斯波さんは手から火の玉を出して、ビーストプレデターの口の中にぶちこむ。


 ビーストプレデターは一瞬怯むも、触手を緩めるほどの威力はは出せなかった。


「体内に直接ぶちこんでもダメなのか……! いやもう1度!」


 斯波さんはもう1度火の玉を放った。しかし、ビーストプレデターは止まらない。


「だめだ……もうガス欠だ」


 もうダメだ。そう思った瞬間だった。


「ライメイゲキ!」


 ビーストプレデターに雷が降り注ぐ。


「ぐぉおお!」


 その瞬間、ビーストプレデターの触手が緩んで斯波さんは解放された。


「お待たせ。斯波君」


「あ、ああ。助かった大悟君」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ダンジョン配信者の事務所を作ったらいつの間にか最強の集団になっていた 下垣 @vasita

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画