第16話 誰を採用するか
「さて、次の人のプロフィールを確認しましょうか」
俺は次の経歴書に目を通す。
「
「なるほど。完全に幸弥君と同じ初心者枠ということですね」
大悟さんがなにか渋い顔をしている。やっぱり、この事務所の規模的に初心者を増やすのはやりすぎなのだろうか。
でも、斯波さんは人を成長させることについての意味を言っていたし……でも、幸弥がもう少し成長してからの方が良いような気がしないでもない。
「次の方どうぞ」
コンコンとノックしてから1人の青年が入ってくる。体格は小柄である。髪の毛を茶色に染めている。顔立ちはどちらかと言うとあどけない感じでかわいい系と言った感じか。年上にモテそうな雰囲気がある。
「座ってください」
「失礼します!」
「お名前と簡単な自己PRをどうぞ」
池澤さんは息をすうと短く吸ってから話し始める。
「池澤 海翔です。ダンジョンに潜った経験はありませんが、やる気だけなら誰にも負けません!」
やる気だけなら誰にも負けない。なるほど。口で言うのは簡単である。やる気というのは目に見えないもので証明のしようがない。数値して現れないし経歴としても残らないからな。
「なるほど。では、やる気を出して何か良かったみたいなエピソードはありますか?」
「えーと……そうですね。僕が高校の時の話なんですけど、僕は部活動はサッカーをやっていました。ポジションはフォワード。1番の花形だから!」
まあ、サッカーは点を取った人が注目浴びることが多いからなあ。
「サッカー部ではレギュラーにはなれなかったんですけど、毎日練習で大声をあげてやる気をアピールしていたら、監督にやる気を買われて最後の試合に出させてもらいました」
「なるほど……」
このエピソードが本当ならやる気はあるようだ。まあ、ここで大声ださせるわけにもいかないか。ここ貸しオフィスだし、大声出したら別のテナントで仕事している人に迷惑がかかる。
「ダンジョン配信者になってやってみたいこととかはありますか?」
「はい! ダンジョン配信者になって高難易度ダンジョンを次々と攻略していき、名をあげたいです!」
「またどうして名をあげたいと思うのですか?」
「単純に僕が目立ちたがり屋だからです! 御社は最近、界隈でも注目されていてここに入ればきっと僕でも目立てるんじゃないかと思いました!」
なるほど。個人的にはこういうタイプは嫌いではない。目立ちたいという自分の欲求に素直なところとかは好感が持てる。
「わかりました。大悟さんからはなにかありますか?」
「そうですね。自分が目立つこととチームワーク。どちらかしか立てることしかできないなら、どちらを立てますか?」
うわ、いじわるな質問だ。大体こういうのってチームワークって答えなきゃいけない空気になるんだよな。
「はい! 仲間の命に関わらない限りは自分は目立ちたいです!」
素直かこいつは。
「わかりました。私からはもうありません」
「はい。では、面接を終了します。お疲れ様でした」
「はい、ありがとうございました!」
池澤さんはそのまま帰っていった。
「大悟さん。最後の質問の意図ってなんなんですか?」
「……実際にこの“目”で見た感じ。あの素質なら絶対に彼は採用した方が良いですね」
「え……ええ!? ど、どういうことですか!」
大悟さんにそこまで言わせるなんて、あの池澤って子はどれだけすごいんだ。
「ただ、1つだけ問題があります。俺の場合は、その人が得意とする魔法まで見ることができるんですけど……彼の場合、得意なのは支援魔法。サポート型なんですよ」
「サポート型……」
「自己支援をして立ち回るタイプもいますけど、仲間がいるとより効果を発揮するタイプです。要は縁の下の力持ちタイプです」
「……彼って目立ちたがり屋ですよね」
「その性格と素質のギャップをどれだけ埋められるか。あるいは、性格の不一致として採用を見送るのか。そこの判断の見極めが重要ですね」
懸念点はあるものの将来性がある有望な人材か。どうだろうか。採用してみる価値はありそうだけど。
「まあ、とにかく次の応募者も見てみましょう。
「ストリートファイター……それって職業なんですかね」
「さあ」
彼の配信は面接前にチェックしている。拳を使って戦うスタイルで、結構強いモンスターとかも倒したりしている。実力としては申し分ない。
「まあ、とにかく入ってもらいましょう。次の方どうぞ」
最後の面接者。なんだか不安な気持ちはあるけれど大丈夫だろうか。
会議室に入ってきたのは、銀色のメッシュを入れたオールバックの男性だ。目つきはかなり悪くていかにも半グレにいそうな人物である。服装も面接に相応しいものとは言えずに、ドクロマークのTシャツ。破れかけのジャケット。ダメージジーンズ。更にシルバーアクセサリをガチャガチャつけている。
「牧田 刃。よろしくおなしゃす」
「よろしくお願いします。牧田さん。どうぞおすわりください」
「ッス」
牧田さんは会釈をして椅子に座った。23歳でこの態度。面接というものを受けたことがないのだろうか。
「牧田さん。あなたがこの事務所に入ろうと思ったきっかけはなんですか?」
「あー。なんだろう。オレ、細かい雑務とかできねえんすよ。戦うことしか頭にねえっつーか。そういう雑務を事務所にやってもらいてえなって思ったわけっすね」
「なるほど。ダンジョン配信者になったのも戦うためですか?」
「そーっすねえ。まあ、前まではストリートファイターやっていたわけっすよ。もちろんルール無用のやつ。格闘技も昔やっていたんすけど、あれはルールがあるからダメっすね。やっぱり最強を決めるのにルールは邪魔っていうか」
なるほど……完全に野良犬って感じの人間だなあ。
「でも、ストリートファイトも段々と規制が厳しくなってきて……オレのシマでも結構なやつがパクられたんすよねえ。そんな時にダンジョンが生えてきたって話が出て、オレが活躍する場所はここしかねえって思ったわけっすわ」
純粋なるバトルジャンキー。戦力的には心強そうだけど、事務所としてやっていくには少し不安な気持ちがある。
「大悟さん。本音を言うとオレ、あんたと戦ってみたいんすね」
「遠慮します。ダンジョンに入るには配信しなくてはいけないし、配信中に人間同士で争っている様子は見せたくありません」
「あちゃー。フラれちゃいましたか。へへへ」
結構、度胸はあるというか。うーん。この人は良い人材かどうかわからないな。
「大悟さんからなにかありますか?」
「そうですね。ダンジョン配信者は戦うばかりではないことはご存じですよね」
「え、そうなんすか? モンスターをぶっ倒して終わりじゃないんすか?」
「…………ダンジョンの素材とか持ち帰らないんですか?」
「素材……?」
なんでわかってないんだよ。っと、そういえば、この人、毎回素材をスルーしてたな。
「……わかりました。私からは以上です」
「以上で面接を終わります。お疲れ様でした」
「お疲れっす」
最後の面接者。牧田さんが去っていった。
「さて、大悟さんどうしましょう」
「本音を言えば、全員採用を見送りたい気分ではありますが……問題が解決すれば採用してもいいと思うのは2人います」
「最後の2人ですか」
「そうですね」
あっていた。まあ、あの2人に関しては戦闘面での素質はあるみたいだし。
「1人採用するんだったら、池澤さん。2人採用する余力があるんだったら牧田さんも採用という感じですね」
池澤さんは得意そうな戦闘スタイルと性格の不一致。牧田さんは戦闘面では強いけれど、他が色々とダメな予感。うーん。どうしよう。
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