第15話 求職者たち

 大悟さんを救出してから3日が経過した。俺は大悟さんからある書類を受け取った。


「たしかに。頂きました」


 それはシャドウスターズの事務所のダンジョン配信者として活躍する。いわゆる専属契約のようなものである。


 結局、大悟さんはうちの事務所に入ってくれることになった。とても大きな戦力となってくれて嬉しい。


「これからよろしくお願いします」


 大悟さんは相変わらず肩に包帯を巻いていて、とても動き辛そうにしている。肩が自由に動かせない中、無理して契約書を書いてくれたのだと思うとなんだか申し訳ない気持ちになってくる。


「ところで、影野社長」


「い、いや。その社長ってやめてくださいよ。まだ、その会社として未熟で、そんな肩書を名乗れるほどたいそうな人物じゃないんで」


 一応、名目上は俺は社長なんだけれど、面と向かって社長と言われるとなんだかむず痒い。


「おっと。それは失礼しました。では、影野さんと呼ばせてもらいますね。影野さん。なにか俺にできることはありますか?」


「できること……」


 斯波さんと幸弥はダンジョンに潜って配信してもらう仕事があるけれど、大悟さんはこの怪我じゃできることが限られている。ダンジョンに潜らせることはできない。


「そうだ。実はですね。なんとありがたいことにわが社の専属ダンジョン配信者を募集したところ、数人から応募があったんです」


「おお、それはおめでたいですね」


「一応、俺が選考するんですけど、やっぱりダンジョン配信者のベテランの意見も欲しいんです。大悟さんもその選考を手伝ってくれませんか?」


 大悟さんがあごに手を当ててなにかを考えている様子である。


「なるほど。まあ、俺で良ければ力になりますけど、本当に俺で良いんですか? 俺なんてこの事務所の1番の新参者というか、新入社員が人事として面接をするようなものですよ」


「事務所の新参者という意味では、俺と幸弥と斯波さんと加入時期はそう変わらないですよ。まだ立ち上がったばかりの事務所なんですから、加入のタイミングはそこまで重要じゃないですね」


 立ち上げ時の3人を除けば大悟さんが初めての新規追加メンバーという形になるが、大悟さんは十分経験豊富なベテランである。俺と幸弥と比べたら年齢も上と言うこともあり、頼りになるのは大悟さんの方である。


「というわけで、面接の日程を教えますからその日に都合がつけば来てくれると嬉しいです」


「まあ、今は怪我してヒマだから都合はいくらでもつくけどね」


 こうして、大悟さんと新たなる仲間を求めて面接をすることになった。



 面接会場として貸しオフィスをレンタルした俺たち。会議室に俺と大悟さんをがいて、面接の応募者4人を別室にて待機させている。


 最初に面接をする人物は八尾やお 光洋みつひろ31歳。


「なるほど。俺や斯波君よりも年上のようですね」


 大悟さんがペラペラと応募書類をめくって情報を確認している。


「元々は迷惑系の配信をしている人みたいですね。それで結構炎上していてアンチも多いです」


 俺が解説すると大悟さんが懐疑的な目で俺を見ている。


「この人を採用するんですか?」


「いや、あまり積極的に採用したくないけど、せっかく応募してくれたんで一応、面接の選考だけはしようかなって」


 あまり気が進まないけど、人を選り好みできる立場の事務所じゃないからしょうがない。


「それでは、最初の方入ってきてください」


 俺は八尾さんを呼んだ。あらかじめ、応募者には番号を伝えてある。俺が呼びかけるとコンコンと会議室の扉をノックする音が聞こえた。


「どうぞ」


「失礼しまーす!」


 随分と軽薄そうな男が入ってきた。じゃらじゃらとアクセサリを付けていて、なんというか品がない。アクセサリは付ければいいってもんじゃないだろうと。


「では、自己紹介をお願いします」


「ちぃーす。俺は八尾 光洋。みっくんって呼んでくれると嬉しいっすね。あ、みっちゃんはダメっすよ。それは彼女しか呼んじゃいけないことになってんで」


 軽薄そうではなくて、軽薄そのものだった。これで31歳ってマジかよ。俺よりも11歳も年上でこれだよ。社会常識っていうもんがないのか。


 その後は適当に質問をして帰ってもらった。面接の結果は後日連絡しますって言うけれど、もう言う間でもなく不合格だ。


「大悟さん。今の人どう思います?」


「うーん。ダンジョン配信の実績を考慮してもないかな。そこそこやれるレベルの強さはあるけれど、今の幸弥君よりもちょっと強い程度ですね。幸弥君は飲み込みが早いし、じきに八尾さんを超えるでしょう」


「なるほど。炎上のリスクを受け入れても採用する実力はないと」


「ですね。ボツで」


 4人いる内の1人が早くもボツになってしまった。まあ、2人の見解が一致しているから仕方ない。


「次の応募者は……進藤しんどう 麗奈れな23歳。ダンジョンに潜った経験はなし。しかし、ストリーマーとしての経験はありと」


 顔立ちは結構かわいいし、胸もでかいこをアピールしている。彼女の配信は事前にいくつか見たが……お色気頼りで面白いと感じるほどのものではなかった。


 しかし、一定数の人気はあるようで、彼女を採用すれば彼女のファンが事務所についてくることが期待できる。


「配信者としての素質はあり。ダンジョンを探索する方はどうかな……と。まあ、一応見てみますか」


 大悟さんはあまり乗り気ではない様子である。でも、一応呼んだからには面接しないといけない。俺は進藤さんを呼んで面接を開始した。


「進藤 麗奈です。よろしくお願いします。レナたんって名前で活動しています」


「なるほど」


 大悟さんは目を見開いて進藤さんをよく見ている。一体なにをしているのだろうか。まさか、大悟さんに限って、この女の色香にやられたなんてことはないだろうけど。


「わたし、結構ダンジョン配信向きだと思うんですよね。ほら、わたしってファンが多いじゃないですか。その人たちにわたしの護衛をしてもらえばいいと思うんですよ」


 姫プ前提かよ。面の皮厚いな。個人でやる分にはかまわないけど、事務所でそれやられると報酬で揉めそうだから勘弁してほしい。


「そうですか。それは心強いですね」


 俺はとりあえず当たり障りのないことを言っておく。うーん。なんか、ウチの事務所の方針と会いそうにもないな。


 その後も適当に質問をして、面接は終了。進藤さんには退室をお願いした。


「うーん……大悟さんどう思いますか?」


「ダメですね。この目でよく見ましたがダンジョンで戦えるほどの素質がまるでない」


「見ただけでわかるんですか?」


 俺は大悟さんの目を見た。すると妖しく光ったような気がした。


「斯波君はダンジョンの魔力の影響を受けて目が赤くなっている。それだけ目というのは魔力の影響を受けやすい。ダンジョンに長く潜っていると、見ただけでその人のダンジョンの魔力との適合度というものがわかるものです」


「適合度……」


「ああ。人間はダンジョンの魔力によって強化されていることは知っていますよね? その魔力とどれだけ適合できるかは人によって異なります」


「それは吸収率とは違うんですか?」


 斯波さんが解説していた魔力の吸収率。それは吸収率が高ければ魔法を使うためのエネルギーをより多く集められて、低ければ体が頑丈になるというものであった。


「それとはちょっと異なりますね。適合度は全体の総量みたいなものです。これは大きければ大きいほど良くて、パワー、スピード、スタミナ、その他身体能力に影響を与えます。吸収率はあくまでもエネルギーを魔法として使うかそれとも生命維持のバリアに使うかの配分のようなものです」


「そうなんですね」


 なんとなくは理解できたけど、ちゃんと理解しようとすると複雑で難しいやつだ。


「適合度の影響は大きくて、華奢な女児でも適合度が高ければ、適合度が低い大男並のパワーを発揮することもあります。ダンジョン内限定ですけど男女の力量差なんか誤差の範囲にすぎないくらいの影響はありますね」


 また1つ賢くなった。

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