第14話 槍ジャンプ
斯波さんとマーダーマシンが激闘を繰り広げている頃、幸弥も必死になってモンスターと戦っていた。
「ふふん、そこの小鬼め! 俺の新しい武器の錆にしてくれる!」
わけのわからないテンションで、俺が発注した刀を手に取り、それを引き抜いた。
「へへん。どうだ。この刀。かっこいいだろ!」
幸弥はモンスターに武器を見せびらかしている。モンスターはなぜか攻撃してこない幸弥の謎の行動に首を傾げていた。
「俺の攻撃を受けてみよ! 食らえ!」
幸弥は小鬼のモンスターに向かって刀を振り下ろす。小鬼は持っているこん棒で立ちを防ごうとする。
「一刀両断!」
幸弥のその掛け声と共にこん棒事モンスターは切り裂かれて消滅してしまった。
「ふう。成敗完了!」
武器の切れ味がとてもすごい。この辺のダンジョンの雑魚モンスター程度なら一撃で倒せる威力を秘めている。
すごい。こんな質の良い武器を作れるなんて。斯波さんが紹介してくれた武器屋はかなり優秀な人のようだ。
「お、またモンスターが次々と!」
今度はウサギのモンスターが現れた。幸弥もすっかりモンスターを倒すことに抵抗がなくなってきて、平然と倒せるようになってきている。
ダンジョン配信者としての実力が身についてきたということだろうか。
一方で斯波さんの方は……
「シュラリキを使わせてもらう!」
力を増幅させる魔法。それを使い、マーダーマシンと対峙していた。マーダーマシンのボディは魔法が効き辛いという特徴がある。そのため、魔法を使わずに攻める必要がある。
「せいや!」
斯波さんが槍を振るいマーダーマシンの金属のボディを叩きつける。マーダーマシンも斧で応戦をしかける。
斧と槍がぶつかりあう音がする。ガキン、ゴキン。重く鈍い音が配信画面に流れる。
相手はキャタピラーモードとなって、機動力が上がっている。恐らくは斯波さんの作戦は機動力で勝てないからインファイトで勝負をつけようとすることだと思う。しかし、マーダーマシンが隙を見てキャタピラを動かし、前に出ようとする。マーダーマシンは斯波さんを
「よっと……!」
斯波さんは槍を使って棒高跳びの要領で上空へとジャンプをした。マーダーマシンの身長を超えて奴の頭上をすり抜けて、突進を回避したのだった。
斯波さんのこの華麗な動きにコメント欄の流れも速くなる。
:おおお!
:こうやって敵の攻撃を避けるのってありなのか!
:参考にします!
:凄すぎて参考にならねえよ!
:「ね? 簡単でしょ!」みたいなノリでやられても
「すげ……」
三次元的な斯波さんの戦い方は、俺も感嘆の声しかでなかった。更に斯波さんは着地の瞬間、マーダーマシンの背後に槍を垂直方向に突き立てた。落ちていく重力もプラスした一撃。それがマーダーマシンの頭に命中した。
「が、がああああ! ピーがががが!」
頭部がやられて、マーダーマシンから電子音とぷすぷすとした煙の音が聞こえてくる。これはやったか。
「ピーピー……メインカメラ故障。コレヨリ、暴走モードニ入ル!」
暴走モード。不穏な単語が聞こえた。斯波さんはマーダーマシンから槍を抜き差り、かまえる。
マーダーマシンは四方八方にキャタピラを移動させてやたらめったに動き回っている。とても速い動き。鋼鉄の体でこんなものにぶつかったらタダでは済まない。
しかし、斯波さんは冷静に深呼吸をしている。そして、もう1度棒高跳びの要領で槍でジャンプをして、頭部に重力を乗せた槍の垂直突きをくらわせた。
「が、ががががっがあああ!」
頭部に2連続で槍によるジャンプ攻撃。これを食らってマーダーマシンは電子音をピピポポポポと鳴らして爆発四散した。
マーダーマシンのパーツは全て消滅して、残ったのは金属の破片っぽい素材だけである。
:おおおおお!
:やりやがった!
:流石俺たちの斯波だぜ!
:斯波さんかっこいいいいいい!!!!!
コメント欄が斯波さんを称賛する声で埋まった。一方で大悟さんの配信の方でもコメント欄があらぶっている。
:おお! 大悟さん助かった?
:斯波さんありがとう!
:もうダメかと思ってた
:偶然通りかかって助けてくれたのかな?
「大悟君。歩けるか?」
「あ、ああ。ありがとう斯波君。君にはでかい借りができてしまったね」
「借りだなんてそんなつもりはない。ただ、僕は自分がやりたいことをしただけだ」
斯波さんが大悟さんに手を差し出す。大悟さんがその手を取り立ち上がった。これでもう一安心だ。
そう思っていたら、なにやら騒がしい足音が聞こえてきた。
「うおおおお! 俺、参上! 覚悟しろ! ロボ野郎!」
幸弥が刀を構えてやってきた。しかし、もう既に決着はついている。今更来てもやることはない。
「な、なんだ!?」
大悟さんは状況をよくわかってないから戸惑っている。斯波さんは「ふふ」と微笑む。
「幸弥君。もう勝負はついた」
「え? 本当っすか! 流石斯波さんですね! 俺の出る幕じゃなかったってことか」
幸弥は斯波さんが敵を倒して大悟さんが無事なことに嬉しそうに笑った。
「幸弥君がモンスターを引き付けてくれたおかげさ。あれがなかったら、間に合わなかったかもしれない」
「そ、そうすか。へへへ」
幸弥は鼻の頭をかいて照れくさそうに笑った。
:なんか師弟というか兄弟みがあっていいな
:なんだかんだ言いつつもこのコンビ好きなんだよな
:わかる。最初は初心者が斯波さんと組むのが不安だったけれど、幸弥君もようやってる
「さあ。幸弥君。大悟君。そろそろダンジョンから帰ろうか。帰還するまでがダンジョン配信だ」
「はい!」
「……斯波君。ありがとう」
こうして3人はダンジョンから帰還して配信を終了させた。大悟さんがピンチになったけれど、斯波さんの救助によって一命をとりとめた。
このハラハラドキドキとする配信は一時的に話題になった。俺たちの事務所シャドウスターズもこれで注目されると良いな。
◇
大悟さんは病院に行き、肩の具合を診てもらっていた。俺たちも付き添いで病院の待合室にて待っていた。
診察室から出てきた大悟さんは暗い顔をしていた。
「しばらくダンジョンに潜れないそうだった。2週間は安静にするように言われたよ」
自嘲気味に笑う大悟さん。個人事業主のダンジョン配信者にとって、働けない期間は稼げないのと同じである。会社員みたいに怪我で働けなくなっても傷病手当がでるわけでもない。
「そっか。それは残念だったね」
「いや、斯波君。君が助けてくれたからこの程度の怪我で済んだ。生きているだけでも儲けものだね」
大悟さんは無理に明るく振舞おうとしているように見えた。
「あの……大悟さん!」
「ん? えっと影野さん? なんですか?」
「その……もし良かったら俺の事務所。シャドウスターズに入りませんか?」
俺はここで勧誘をすることにした。
「シャドウスターズに……またどうして俺を勧誘しようだなんて思ったんですか?」
「ウチの事務所では怪我でダンジョンに潜れなくなった時でもその分の生活の保障をしています」
「なるほど。それはありがたい話だね。でも、俺だって2週間程度だったら蓄えがある」
「2週間で済まない怪我だったらどうするんですか? 怪我の頻度とかも考えていますか?」
「…………!」
大悟さんの表情が変わった。人間は生活費で財産が目減りしていくのは精神的に辛く感じるようにできている。その不安を解消できるのは魅力的に感じてくれるかもしれない。
「ウチには大悟さんの力が必要なんです。そのためだったら、いくらでも福利厚生を充実させる覚悟はあります」
「なるほど……俺の力が必要と言ってくれるのは嬉しいですね。影野さんには恩があります。少し考えさせてくれませんか? 前向きに考えるつもりですので」
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