第13話 いざ救出へ
『これから緊急でダンジョン配信を行います。斯波と幸弥のコンビがまたダンジョンを探索します』
俺はSNSで緊急告知をした。本来の配信スケジュールにない日のダンジョン配信。
人が集まるかはわからない。いや、この際集まらなくても良い。大悟さんを助けられるのであれば。
配信の待機所を作り、俺は斯波さんに電話をした。
「斯波さん。準備は大丈夫ですか?」
「はい。こちら、ダンジョンの印の前に来ています。この印に触れれば僕が付けた中間地点に飛べます」
「わかりました。こちらも配信の準備が整いました。ダンジョン突入と共に配信を開始します。時間がないので、開幕の挨拶はこの際しなくても大丈夫です。モデレーター側で挨拶と告知をしておきます」
「ありがとうございます。さあ、幸弥君。行こう」
「はい」
俺はテレビの画面で大悟さんの配信を見つつ、スマホで斯波さんたちの配信を見ることにした。
頼む。斯波さん。救助が間に合ってくれ。
待機所だった場所が緊急配信する。コメント欄は緊急の配信開始。普段はある前置きの挨拶がないことに疑問を感じているのか、ざわついている。
シャドウスターズ運営:みなさん。今日はお集まりいただきありがとうございます。挨拶もなしに配信を開始してすみません。ですが、落ち着いて配信を見ていただけると幸いです。
俺は管理者としてチャット欄に挨拶をする。ここでチャット欄を不安にさせても仕方ない。緊急事態であることは一旦伏せて、配信を楽しんでもらおう。
:>モデレーター りょーかい
:でも、なんか斯波たち急いでね?
:なんでこの人たち急いでダンジョン走っているの?
普通、序盤の立ち上がりの段階でダンジョンを走ることは少ない。ダンジョンを走れば目立つし、モンスターと遭遇率が上がる。ダンジョンに入りたての序盤では、まだ体に魔力のエネルギーが吸収されない状況で魔法の使用に制限がかかる。
だから、配信者たちは基本的にはダンジョンの序盤では大人しく周囲を警戒しながら歩くのである。序盤からこんなにダッシュで目立つような行為をするのはハッキリ言えば悪い例の1つである。
でも、それをやらざるを得ない。こうしている間にも大悟さんはマーダーマシンとの戦いでダメージを負っているのだから。
しかし、そんな斯波さんたちの前にモンスターが出現する。小鬼のモンスターである。
「斯波さん……! 手筈通り、ここは俺が引き受けます」
「ああ。ありがとう。すまない。死ぬなよ」
まずは幸弥が前線に立つ。そして小鬼に攻撃を仕掛ける。小鬼のターゲットが幸弥に向いたところで斯波さんが駆け出した。
:えええ!? 斯波さん戦わないの?
:幸弥君を置いてどこにいくつもり?
:敵前逃亡か?
:いや、でも、斯波に限ってそんなことは……
斯波さんの行動にコメント欄が騒ぎだす。無理もない。事情を知らなければ俺も彼らと同じ反応をしていたことだろう。
斯波さんはとにかく走った。そして、走ったその先には――
「大悟君!」
出血している右肩をかばいながらも、マーダーマシンの攻撃をなんとかいなしている大悟さんの姿があった。彼の顔には生気がなくて、目も虚ろ。表情が絶望を物語っていた。だが、斯波さんの声を聞いた時に彼の目に活力が戻った。
「え? し、斯波君!? どうしてここに!」
斯波さんはよそみをした。その瞬間にマーダーマシンが斧を大きく振り上げた。
「し、しまった!」
斧が振り下ろそうとされたそのタイミング。斯波さんが槍を構えてマーダーマシンに突撃した。槍の一撃がマーダーマシンの腰に命中する。マシンはそのまま衝撃を受けて倒れてしまう。
:お、おおおおお!?
:なんかよくわからんがヨシ!
:大悟君!? どうして? 肩に怪我をしているし
:もしかして、斯波と幸弥は大悟を助けるためにここを目指していた?
「はい。シャドウスターズ所属の斯波です。挨拶が遅れてすみません。今日の配信は、僕の仲間を助けに行く配信です。たった今、その目的を達しようとしています」
倒れていたマーダーマシンはガシャガシャと音を立てて立ち上がろうとしている。ギギギと金属がきしむ音が聞こえてその音が妙に不気味に感じる。
「ピポパポピピピ」
マーダーマシンから謎の電子音が聞こえる。
「モードチェンジ! 二刀流モード」
マーダーマシンは自分の体の中に収納してあった斧を取り出してそれを持つ。両手に斧を持っている状態。そして、その状態で斯波さんに切りかかってくる。
「おっと」
斯波さんはマーダーマシンの攻撃をかわした。だが、もう片方の斧が斯波さんに襲い掛かる。斯波さんはそれも回避する。
ここからはマーダーマシンと斯波さんの根競べである。リズミカルに斧を振り下ろすマーダーマシン。ガギャン、ゴギャン。斧が音を立ててダンジョンの床をえぐっていく。
斯波さんが敵の攻撃を引き付けている間に大悟さんは自分で怪我の応急手当をしている。出血箇所を布で思い切り抑えて止血をしている。戦闘復帰は難しそうではあるが、出血によるダメージを抑えられているという点においては大きな意味がある。
「防戦一方だな。これは困った。攻撃の隙がない」
斯波さんは敵の攻撃を避け続けている。その動きは蝶のように舞い、華麗そのものであった。しかし、斯波さんも人間である。いつかは疲労で動きが鈍くなってしまう。いつまでも攻撃を避け続けると体力的にも精神的にもしんどいはずだ。
「スゥウウウ」
斯波さんが大きく息を吸った。そしてその息を「ハァアアアア」と深く吐いた。
「魔力が溜まってきた! ダッシュ!」
斯波さんの体が目にもとまらぬスピードで動いた。この走力は短距離走のオリンピック選手ですら追い付けないほどの速さだと感じた。一瞬のうちにマーダーマシンの懐に潜り込んで、そして、やつの腹部に思い切り槍を突き刺す。
「ピピー……ガガガ」
相手も硬い金属製のボディであるために簡単に槍で貫通はできない。しかし、衝撃は伝わっているので、マタマーダーマシンは後方へと倒れた。
それにしても、ダンジョンでの戦いは奥が深い。一見、防戦一方で不利に見えていた斯波さんでも、ちゃんと逆転の目はあった。人間はダンジョンに溢れている魔力を吸収して魔法を放つことができる。
斯波さんは走力アップの魔法を狙っていて、それを発動させるための魔力を得るための時間稼ぎをしていたのだ。
単純に体力を消耗することが不利になることには直結しないということだ。それくらい、魔法が戦闘に占めるウェイトが高いということか。
斯波さんは本当にすごい。戦い慣れている。
「このまま一気に止めをさす!」
:いけえええ! 斯波!
:つええ! 斯波つええ!
斯波さんは仰向けに倒れているマーダーマシンに近づき、そして、槍で止めの一撃をいれようとする。しかし――
「ピピー……ブーストモードオン!」
マーダーマシンの脚部からジェットエンジンが噴出する。マーダーマシンはその場から一気に飛んで移動した。斯波さんの一撃をかわして体勢を立て直した。
マーダーマシンと斯波さんとの距離が広がった。斯波さんはマーダーマシンを追うようなことはしなかった。深追いは厳禁という戦いの基本であろうか。
「ピピー。モードチェンジ。キャタピラーモード」
マーダーマシンの脚部が変形する。人間の二足歩行の脚きゃらキャタピラのようなタイプの脚へと変形した。
変形ロボは男のロマン。こいつが敵でなければ興奮していたところであるが、敵の変形ロボットは厄介極まりなく、余計なことをすんなと思ってしまう。
「ターゲット、排除スル! 排除スル」
「ターゲット。僕のことか? ふふ、できるものならやってみろ!」
斯波さんは槍を構えて不適に笑った。
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