第17話 正式採用と仮採用と言う名のコラボ

 俺は4人の応募者の誰を採用するか考えていた。と言ってもその内の2人は採用の見込みはほぼないので、残った2人についてだ。


 まずは池澤さん。もし採用を1人決めるとするならば、彼だと大悟さんは推していた。


 彼の問題点は、性格とその素質の不一致な点にあると言えるかもしれない。


 大悟さんの見立てでは彼は支援魔法が得意という風な感じである。しかし、彼は目立ちたがり屋な性格である。


 それを考えると、どうしても支援魔法の性質と性格がミスマッチすぎていつか軋轢あつれきを生んでしまうのではないかと懸念している。


 素直に言うことを聞いてくれるんだったらいいけど、それはそれで不満を溜められてもこちらとしても困る。


 せっかくだから、うちに所属するダンジョン配信者には気持ち良く働いて欲しい。職場に対して不満があるのはよろしい状態ではない。


 次に、牧田さんだ。彼の場合は実力的には申し分ない。しかし、常識に欠けている部分がある。


 彼はストリートファイトに明け暮れていた過去がある。日本には決闘罪という罪がある通り、路上での喧嘩行為は限りなく黒に近いグレーかなとは思う。


 つまり、犯罪スレスレの行為をしているということは、いつ炎上してもおかしくないということ。


 できれば、こちらとしても炎上のリスクはできるだけ抑えたい。社会的常識を今から教え込むっていうのも中々に大変なことである。


 更に言えば、彼は戦闘が強いだけでダンジョンに対する知識があるわけでもない。素材を拾ったりなんてことはしていない。


 恐らく、コメントとかも読んでいないのだろう。読んでいたら指示コメでそのことに気づくはずである。


 完全に戦うことしか頭にないバトルマニア。扱いはかなり難しいと言えよう。


 そして、俺はあることを考え付いた。


 それはコラボである。


 別にダンジョンに一緒に潜るんだったら事務所に所属しなくても打ち合わせでできることである。


 例えば、ダンジョン配信以外だけど、個人勢の配信者が、とある事務所とコラボしたことをきっかけにその事務所に入るなんて展開もないこともない。


 ということは、仮採用と言う名のコラボで牧田さんを配信に出してみるのはどうだろうか。


 そこで縁を作って関係を築いて、徐々に常識を身に付けさせて行動を改善させて炎上リスクを減らしてから採用。


 この流れならば牧田さんの戦闘力を利用しつつ、将来の戦力を確保できるかもしれない。


 牧田さんはこれでクリアだろう。だが、問題は池澤さんである。


 彼はまだダンジョン配信をしていない。つまり素人同然である。まだ配信を開始してない相手はコラボとかそういう次元ではない。


 やるんだったら正式採用しかないか……


 でも、あそこの事務所は応募者を採用しないでコラボさせるだけっていうレッテルを貼られたくない。


 それはそれで未来の応募者を減らすことになる。


 だから、1枠は絶対に採用したい気持ちはある。となると、やっぱり池澤さんを採用という方向が最もベターなやり方じゃないかと思った。


 俺はこの方針をまとめて、かいつまんで大悟さんに話してみた。


「なるほど。コラボ採用は考えましたね。俺じゃ思いつきませんでした」


「アイディアとしてはどうですか?」


「恐らくはいけると思います。そうすると池澤さんを採用するのも手としてはありですね。影野さんが言う通り、コラボ採用するんだったら正式採用の枠がないと変な噂が立つ可能性はあります」


 大悟さんもそう思ってくれてなんだか勇気が湧いてきた。俺の判断は間違えてなかったと背中を押してもらえるような気がした。


 俺だって高卒で2年間引きこもっていた社会経験が少ない未熟な人間だ。間違うことだってある。だからこそ判断は慎重に下さなければならない。


 特に人を使うということは、その人の一生を左右することにすら関わるかもしれない。決して気軽な気持ちでやってはいけないことだ。



 後日、俺は池澤さんに合格通知を出した。2人は不合格の通知。でも、牧田さんには特別に連絡をした。


「もしもし?」


 なんか不機嫌そうな声が聞こえてきた。正直言って怖い。ストリートファイトやっている人と喧嘩になったら俺は間違いなく負ける自信がある。


「すみません。こちら、シャドウスターズの影野と申します」


「ああ。あの事務所の。どうしたんすか? 採用の連絡っすか?」


「ええと……こちらで厳正なる選考をした結果、誠に申し訳ないのですがあなたのご期待に沿うことはできずに……」


「まどろっこしいな! 採用か不採用か。その2択で言ってくれ!」


 うわ。なんかいきなりキレた。


「ええと。不採用ですけど」


「あー、マジか。まあ仕方ねえか。おっけっす。了解っす」


 ずいぶんとあっさりしているな。


「ええと不採用は不採用なんですけど、正式な採用と言う形ではないのですが、コラボという形を取らせていただいて一緒にダンジョンを潜る形はいかがでしょうか」


「あぁん? コラボ? なんだそれ? 蛇か?」


 それはコブラだ。そこから説明しないといけないのか。


「ええと。コラボというのは異なる分野の人が手を組むと言いますか。まあ、配信者と配信者が同じ配信に出演するみたいな感じです」


「ああ、共演ね。最初からそう言えよ。オレ、バカだからカタカナの言葉はわかんねんだよ」


 ストリートファイトやらダンジョンはわかるのにか……? まあ、そんな揚げ足とっても仕方ないので、話を進めよう。


「そのコラボ……共演で実績を積んで状況を見て正式採用をするという形を取らせていただきたいんですね」


「え? 結局、オレ採用されんの?」


「それは状況次第でございます」


「あ? ハッキリしねえな。採用か不採用か! どっちだよ!」


 またキレたよ。どうしようかな。もう不採用にしようかな。一応、取引先になる俺にキレて言葉が汚くなるとか常識的に考えて結構アレだぞ。


 でも、ここでガマンだ。もしかしたら、彼は更生できるかもしれない。どんな人間でも更生できるなんてきれいごとは言うつもりない。


 しかし、彼が更生できないと決まったわけではない。きちんと常識を教えれば身に付くかもしれない。


「それは……サイコロの出目次第といいますかね」


「出目?」


「そうです。振る前にサイコロの目がなにが出るかわからないでしょ?」


「まあ、そうだな」


「ですので、実際にやってみるまで採用か不採用かわからないというわけです」


 これで大丈夫か? 説明足りているか?


「なるほど。俺の採用はサイコロで決まるってことだな!」


 そんなわけねえだろ! でも、面倒だからこれ以上否定するのはよそう。


「まあ、そう捉えていただいてもギリギリ大丈夫でしょう」


「ギリギリかー。まあいいだろう。オレはそういう賭け嫌いじゃないぜ。勝敗が決まっている喧嘩なんてつまんねえもんな!」


 伝わったのか……? まあ、でもいいか。とりあえず、コラボをやってみて大丈夫そうだと判断できたら正式採用ということでレギュラー入りしてもらおう。


 それまでは時々、コラボで現れるゲスト的な存在としてがんばってもらう。


 牧田さんが炎上したらしたで……その時は牧田さんのせいだ。弊社には一切関係のないこととして片付けよう。


 これがリスク管理しつつ、戦力も拡大できる目があるベターなやり方。大丈夫。きっと大丈夫だ。


「ところで訊きたいけどよ。さっきサイコロの出目次第って言っただろ? 採用、不採用の2択なのに、なんで6面のサイコロを使うんだ? コインの方がいいだろ」


 本当にそれが訊きたいことで良いんか。もうしょうがない。ここは適当におだてておくか。


「おお、流石です。気づきませんでした。サイコロよりもコインの方が効率的ですね!」


 どうせこの人に奇数だの偶数だの、丁だの半だの言っても通じないだろう。


「へへ。すげえだろ! オレ、勉強は苦手だけど意外に地頭良いんだぜ」


 今のところ知性は全く感じてはいないけど……

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