第18話 コラボ配信

 池澤さんに合格通知を送るとすぐにウチの事務所に入ってくれると返事をしてくれた。合格を辞退されなくて良かった。


 ただ、池澤さんを正式採用するにあたって撮影機材等の備品を用意したり、彼の方にも色々と準備も必要なのでしばらくは配信に参加できない。


 その配信待ちの間に大悟さんの怪我も治り、見事に復帰できることとなった。


 そして、幸弥、斯波さん、大悟さんの3人で配信スケジュールを立てようとした。が、丁度その時、牧田さんが手すきになっていたのでコラボの打診をしてみた。


「あぁ。コラボっすか。大丈夫っすよ」


 こんな軽い雰囲気でコラボが決まり、4人でダンジョン配信をすることになった。


 今日もいつもと同じダンジョンに潜ることになった。


 そして、色々とこちらも準備をした後に、またいつものように配信が始まる。俺は自宅にてその様子を確認することにした。


「はい。みな様。こんにちは。シャドウスターズ所属の斯波です」


「幸弥です」


「大悟です。怪我も治り、本日からシャドウスターズの仲間として一緒に配信します。よろしくお願いします」


:おおおお! 大悟さん復帰したんだ

:シャドウスターズに入ったって噂は本当だったんだね

:斯波さんと大悟さんが組むなんて最強すぎる。この事務所推していこう


 大悟さんの人気でウチの事務所はますますパワーアップしそうな予感がする。さて、問題は牧田さんの方だ。そろそろコラボ相手の紹介をするけど、牧田さんは上手くやってくれるだろうか。


「今日は大悟君が復帰した記念配信と行きたいところですが、なんと今日はコラボの相手がいます」


:コラボ!?

:誰? 一体どんな人?

:斯波さんや大悟さんクラスの人来るかな?


 なんかコメント欄が盛り上がっているな。俺が牧田さんの立場だったら、斯波さんや大悟さんと同列に扱われるとプレッシャーを感じてしまうけどどうだろうか。


「今日のコラボ相手はこの方です。どうぞ」


 斯波さんの進行のセリフの後に、ダンジョンに入ってくる人間が1人。銀のメッシュを入れたオールバックの青年。いかにもなパンクな恰好をしているド派手なその人物は……


「よお! 俺はジンだ! よろしく!」


:この人!? 完全に予想外だった

:見たことないな

:この人大丈夫? あんまりダンジョンの基礎とかわかってない人だよ?

:基礎がわからないから斯波が教えるんじゃね?


「今日はダンジョン配信者のジンさんにお越しいただきました。よろしくお願いします」


「よろしくっす」


 こうして一抹の不安がありながらも、ダンジョン配信は開始した。ダンジョン配信の花形と言えばモンスター討伐だ。その点ならば牧田さんは問題ない。思い切り、その拳を叩きつけてやって欲しい。


 4人が歩いていると幸弥がふと牧田さんの方を見た。


「あれ? ジンさん。武器忘れてませんか?」


「ん? あぁあ?」


 牧田さんが早速、幸弥にメンチを切った。いきなり喧嘩かよ。


:怖っ……

:この人ガラ悪いよ

:口悪いし、なんか不安

:シャドウスターズのメンバーは口悪くないし、この人はちょっとねえ。コラボ相手間違ってない?


 う、コメント欄が手厳しい。やはり、コラボは失敗だったか? でも、牧田さんの実力は欲しい。性格さえなんとかしてくれたら、最高なんだけどな。


「はっはっは。お前にはこのオレの最強の武器が見えねえってか?」


 牧田さんは拳を幸弥に向かって突き出した。幸弥は目の前に突き出された拳を見て「おお」とつぶやいた。


「なるほど。ジンさんはステゴロで勝負するタイプですか」


「おうよ。武器なんて邪道だ。この肉体1つあれば、モンスターをボコボコにできるってもんよ!」


:怖い人かと思ったけど、案外普通……?

:顔と言い方が怖いだけなのかな?

:ジンは基本的にこんな感じよ。本気で人を脅すようなことはしない。多分


 最初の「あぁあ?」がなんだったのかと思うくらいには、フレンドリーな会話をしている牧田さんだった。なんかヒヤヒヤするけれど、案外大丈夫そうか?


 そんな雑談しながら歩いていると目の前にモンスターが現れた。モンスターは黒い岩石の皮膚を持っている人型のモンスターだ。身長は斯波さん並に高い。斯波さんの身長も結構高いので、このモンスターも結構体格が良い。


「んだ? このモンスターは?」


 牧田さんが拳をポキポキと鳴らして、モンスターを睨みつけている。


「あれは、ブラックゴーレムだ。かなり硬いモンスターで生半可な物理攻撃は通らない」


 斯波さんが解説をする。物理攻撃に耐性があるなら大悟さんの出番である。


「俺の魔法の出番だけど、もう少しだけ待ってくれ。まだダンジョンの魔力を十分吸収していない。適当にあしらって時間を稼いでくれると嬉しい」


 大悟さんが杖を構えている。魔法を撃つ準備をしているようだ。


「よし! 斯波さん行きましょう! 俺と斯波さんのコンビネーションを見せつけてやりましょうよ!」


「ああ!」


 斯波さんと幸弥が武器を構える。その時だった。シュンと一筋の影が一瞬にして目の前に出た。ものすごい速さである。


 この影が止まって正体がわかった。それは……牧田さんだった!


「よっしゃ! オレの出番だな!」


:お前じゃねえ、座ってろ!

:明らかに魔法タイプじゃないでしょ! この人!

:なんなの……


「ちょっと、ジンさん。なにしているんですか!」


 斯波さんが牧田さんにツッコミをいれる。しかし、牧田さんは止まらない。


「いくぜいくぜ! オレの拳が火を噴くぜ!」


 牧田さんはブラックゴーレムに向かって拳を叩きつけた。ゴーレムはそれを左腕で受け止める。その時、ベキィと鈍い音が響き渡った。


 なんかすごく嫌な予感がする。相手は岩石の体だぞ。牧田さんの骨が折れたんじゃないか?


:うわあ……なにこの音

:明らかに骨逝ったよね?

:あーあ。コラボ相手がこれとか……


 誰もが牧田さんの敗北を確定していた。人間の拳で硬い岩を叩き割れるわけがない。しかし、その常識は、ピキピキィ……という音と共に崩れ去った。


 牧田さんが殴った箇所。そこからブラックゴーレムにヒビが入っている。


「!!!!」


 この場の誰もが驚いた。斯波さんも幸弥も大悟さんも口をポカーンと開けている。俺だってかなり驚いた。


「ッシャア! オラァアアア!」


 牧田さんが更に拳に気合を込める。そうするとベキベキと音を立ててゴーレムの左腕が崩れ去っていく。


:え? なに? なにが起きているの?

:物理攻撃が通用しないブラックゴーレムに拳でダメージを通した!?


やわい! 軟すぎんぞ! オレの拳の方が全然かてえわ!」


 牧田さんの拳がカメラに映る。その拳は傷1つついていなかった。それどころか、赤く腫れあがってすらいない。全くの無傷である。


「なにが、ブラックゴーレムだ? ブラックプリンに改名した方がいいんじゃねえのか? あぁあん?」


 牧田さんが勢いづいている。左腕を失ったブラックゴーレムをフラフラとよろめいている。腕がなくなったことで、バランスを崩しているのだろう。


「大悟君。今のは一体……」


「……ジンさんは魔力の吸収効率がかなり悪いタイプだった。それは体がかなり頑丈だと言うことだ。だから、敵の攻撃をほとんど受けないくらいに硬い。拳で敵を殴った時の反動も限りなくゼロに近いのかもしれないね」


 大悟さんの解説を聞いて斯波さんも幸弥も驚いている。


「大悟さん! そんなこと可能なんですか! だって武器すらもダメージを通せないくらい相手は硬いんですよ!」


 幸弥の口に出した疑問は俺も感じ取っていた。硬いにしたって限度ってものがあるだろうと。


「これは俺も予想外だった。ジンさんの拳の硬さ。それは下手な武器よりも硬いってことだね。そして、その硬さは破壊力にもつながっている。つまり、もし仮にジンさんが武器を持ったとしよう。武器で攻撃したら彼の破壊力は大幅に下がるだろうね」


 昔、なにかのゲームで格闘家に武器を持たせると攻撃力が下がるというシステムがあった。まさか、それを体現している人がここにいたのか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る