第19話 オレの獲物

「よっしゃあ! このままいくぜ!」


 牧田さんがまたブラックゴーレムに向かって行く。そして、ブラックゴーレムに向かってパンチを繰り出そうとする。


「ブォオオ!」


 ブラックゴーレムは唸りながら、牧田さんの腹に向かって思い切りパンチをした。牧田さんはそれで吹き飛ばされて、腹を抑えながらズサーと後ずさりをした。


「ぐっ……結構いいパンチをしているじゃねえか。ぺっ……」


 牧田さんが血が混ざった唾を吐いた。


「ジンさん! 大丈夫か?」


 斯波さんが牧田さんに駆け寄る。


「平気だ。別に吐血じゃねえ。ちょっと口の中を噛んで切っちまっただけだ」


 牧田さんは腹を抑えていて顔を歪めている。かなり痛そうである。


「かなり痛てえぞ。あのパンチ。オレじゃなかったら、あのパンチで内臓破裂していたレベルだ」


 牧田さんレベルの防御力でも完全に攻撃を防ぎきることができないくらいのパワー。ダンジョンのモンスターはやはり一筋縄ではいかないということか。


「よし。エネルギーが溜まった。このまま一気に魔法を放つ。行くよ! ライゲキ!」


 大悟さんが雷の魔法を放った。その雷の魔法がブラックゴーレムに命中する。ブラックゴーレムは魔法を受けて大きな鈍い音を立ててバラバラに崩れ去っていく。


「ふう……討伐完了」


 大悟さんの魔法によってブラックゴーレムが倒された。そいつがいた場所に黒い石が落ちていた。これがブラックゴレームを倒して得られる鉱石素材だろう。


「あー! お前、オレの獲物を……!」


 牧田さんは苛立ちながら、大悟さんに詰め寄っている。


「ああ、すまない。素材はジンさんに渡すよ」


「いらねえよ! あんな石ころ。なんの価値があるんだよ!」


 ダンジョン産の素材をいらないとまで言いのけた牧田さん。ダンジョン産の素材は結構、貴重で高値で取引されるのにそれを知らないのか。一見、役に立ちそうにない素材でも何かに使えるかもしれないと研究機関に売れるのに。


「まあいいや。その代わり、次の獲物はオレに譲ってくれよ。次の次は譲るからさ」


:ええ……

:モンスターって譲るとか譲らないとかそういうものだっけ?

;倒せる人が倒せばよくない?


 コメント欄で正論が流れる。しかし、斯波さんが牧田さんに向かって微笑んだ。


「まあ、牧田さんがそれで良いならそうしよう。ダンジョンの攻略法に明確なルールや作法なんてものはない。牧田さん流のやり方をやってみようか」


「お、いいねえ! わかってるねえ」


 斯波さんは牧田さんに迎合するつもりである。しかし、幸弥はそれに対して明らかに不満そうな顔をしている。


「ちょ、ちょっと待ってください。斯波さん。いいんですか。そんなことして」


「仕方ない。別に彼は僕の部下というわけでもない。余計な軋轢あつれきを生まないためにも譲るべきところは譲ろう」


「大悟さんはどうなんですか?」


「俺は別に……素材が手に入ったから良いかな」


 大悟さんはさっきのブラックゴーレムの素材を手にしていた。撃破に関わったのは大悟さんだから、彼に所有権があるのである。一撃を入れていた牧田さんにも共同の所有権はあるが、彼はそれをいらないと言っていた。


 一同がダンジョンの奥へと進んでいくと、またしてもモンスターが現れた。ぶよぶよしたスライム状のモンスターである。大きさは人間程度もあり、かなりでかい。


「よっしゃ! あのぶよぶよをオレの拳でぶっ飛ばしてやるぜ」


 先約を取っていたので遠慮なく牧田さんが駆けだす。そして、スライムに向かってパンチを繰り出した。


 しかし、スライムの体は牧田さんのパンチを軽々しく受け止める。ぽよーんと気持ちの良い効果音を出して牧田さんのパンチの衝撃を吸収したのだった。


「なにっ!」


 スライムに打撃攻撃がまるで効いていない。スライムは液体をぺっと牧田さんに向かって吐き出す。


「うおっと!」


 牧田さんはそれを回避した。べちゃあと液体が床に垂れる。じゅううと音を立ててダンジョンの床を溶かしていく。これは溶解液だ。


「けっ……やるじゃねえか」


 牧田さんはファイティングポーズを取った。そしてステップを踏んでいる。まだまだ戦意は失われていない。


「ちょ、ちょっと。ジンさん。あんたなにしているんですか。打撃が通用しないってわからないんすか!」


 幸弥が牧田さんにツッコミを入れる。非情に冷静なツッコミだが、牧田さんは首を傾げた。


「あ? お前、さっきのオレの話聞いてなかったのか? 次のモンスターはオレの獲物だって言ってただろ。お前らの獲物は次の次って話だ。口出しすんな」


「でも、状況が違うじゃないですか! あなた、打撃以外にできるんですか!」


 牧田さんは魔法を使えるようなタイプではない。拳が通用しないなら牧田さんに勝ち目はないように思えた。


:これは幸弥君が正論

:ジンとかいうやつでしゃばりすぎだろ

:コラボなんだから、もう少し協力してもろて

:今度こそ返り討ちにあうな

:スライム。あいつをわからせてやれ


 コメント欄の誰もが、牧田さんがスライムに勝てるのは無謀だと思っていた。しかし、牧田さんは拳をほどいて、グーからパーへと形を変えた。


「まあ、見てろって。オレは口だけの男じゃねえ。やる時はやるんだよ! 行くぜ!」


 牧田さんはスライムに向かった。そして、ビュンと音を立てた瞬間スライムを真っ二つにした。一体何が起こったのか。一瞬わからなかった。


 でも、よく目を凝らしてみると牧田さんは手刀を放っていた。ビュンビュンと何度も連続で手刀を放つ。スライムの体は細切れになって消滅していった。


:手刀!?

:手刀って切断できるの?

:こんな手刀見たことない


「ふう。こんなもんよ」


 スライムがいた地点にはぶよぶよした青いものが落ちていた。これがスライムの素材であろう。しかし、牧田さんはそれを拾おうとしなかった。


「待て。ジンさん。それは拾った方がいい」


「あ? これか?」


 斯波さんに言われて牧田さんは堕ちているスライムの欠片を拾った。


「これが何だって言うんだよ」


「それはスライムの欠片。結構高値で売られている貴重な素材だ」


「ほう。これって金になんのか。でも、オレ別に金に興味なんてねーんだよな」


:ええ……

:じゃあ、それスライムの欠片。俺にくれ!


「まあ、でも持って帰れって言うなら持って帰るか。荷物になって邪魔だけど……」


 牧田さんは渋々、スライムの欠片を持っていくことにした。


 そして、スライムを倒したが、一同は更に別のモンスターに遭遇した。槍を持った小悪魔のモンスター。小悪魔は羽が生えていてダンジョン内を飛び回っている。


「お、あれはお前らの獲物だな。オレは休んでいようっと」


 あくまでも自分の獲物以外には手を出す気がない牧田さん。彼は後方に下がって、斯波さんたちの戦いを見守ることにしている。


「相手は飛んでいる。ということは、こちらも高さを稼がせてもらう!」


 斯波さんは持っている槍を使って棒高跳びの要領でジャンプをした。小悪魔と同じ高さまでジャンプしたら、そのまま手にした槍で小悪魔を思い切り叩く。


「ふべえ!」


 小悪魔は槍に叩かれて高度が下がる。激突スレスレで羽で飛行して激突を回避。だが、地面には幸弥が待ち構えていた。


「よし! 連携攻撃だ!」


 幸弥が小悪魔の体を刀で斬る。スパーンと小悪魔の体を一刀両断して難なく勝利をした。


「おお……!」


 その戦いの様子を見ていた牧田さんはパチパチと拍手をしている。


「やりました! 斯波さん!」


「ああ。幸弥君。確実に強くなっているね」


:幸弥強い

:斯波さんのアシストありとは言え、良い動きしている

:これで本当に初心者?


「へへ。やるじゃねえか。2人共。ああ、オレのストリートファイターとしての血がうずいてきたな」


 牧田さんは斯波さんに向かってファイティングポーズを決めている。


「なあ、斯波さん。オレとちょっと戦わないか?」

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